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2009/10/14

今週の本棚:養老孟司・評 『悪霊の島 上・下』

2009/10/11 毎日新聞社の毎日jpが、キングファンを公言する養老孟司による「悪霊の島」の書評を公開した。

今週の本棚:養老孟司・評 『悪霊の島 上・下』=スティーヴン・キング著

記録のため、全文を引用する。

◇今回も主人公は得体の知れぬ敵と戦う
 ホラーといえば、いまではスティーヴン・キングである。キングの長編はほぼ毎年出ていて、量だけから見ても、驚くべき語り手というべきであろう。キングについて、いまさら書評するまでもないだろう。そう思う人もあるに違いない。しかし読んだことのない人もあるはずだから、最近作を紹介してみようと思った。とにかく読みやすく、ホラーが嫌いでなかったら、読了までしばらく楽しめることは請合う。

 キングの作品には、いくつかの型がある。まずは現代もののホラーで、今回の『悪霊の島』は典型的である。フロリダの小さな島が舞台になっている。交通事故で片手を失い、幻肢がたえず生じてしまう男が、この島に家を借りて住むことになる。他には大きなお屋敷が一軒あるだけといっていい。そこには高齢の女性と、その介護をしている、かつて自殺を図ったために頭痛に悩まされている弁護士が住んでいる。あとは買い物その他、一人暮らしの主人公の手伝いをしてくれるアルバイトの若者、主人公の別れた奥さんと娘二人が登場する。これで主要な登場人物は終わりである。

 こうした人里離れた舞台設定は、名作『シャイニング』(文春文庫)と同工である。あの場合には、雪に閉ざされた山のホテルだったが、今回は海に囲まれた家。しかも双子の姉妹が端役として登場する。『シャイニング』の映画を見た人は、廊下の端に現れる不気味な双子の姉妹を記憶しているかもしれない。現代を舞台にしたキングのホラーのもう一つの代表作は『ペット・セマタリー』(品切れ)だが、これは死者の生き返りが主題になっている。この作品の最後の光景の不気味さは、ホラーの極というしかない。今回の作品はそれほどは怖くないから、変な話だが、あれよりは安心して読める。キングは自分で作品を書いていて、怖くなって机の前から動けなくなるという作家なのである。

 こうした現代ものでは、一種の予知能力、超能力が使われる。これもキングの作品では定型的で、今回も同じである。主人公は島に住んでから、突然絵を描き出す。その絵がじつは予知や超能力の伏線になっている。章のはじめに、主人公の独白として、絵の描き方というメモが記されている。キングには絵に対する強い嗜好(しこう)があるらしく、絵画の世界に入り込んでしまう『ローズ・マダー』(品切れ)という作品もある。絵画はしばしば人を不思議な世界に誘う。その気分をキングはホラー化してしまう。『ローズ・マダー』は実世界と並行する世界、いわゆるパラレル・ワールドものの一つで、これもキングの得意なジャンルである。子どもが主人公になって、現代アメリカと、もう一つの仮想世界を行きつ戻りつする『タリスマン』(品切れ)がその典型である。

 今回の作品でも最後には悪霊と戦うことになるわけだが、このときにさまざまな武器が使われる。そこにはファンタジーでよく使われる約束事がある。吸血鬼ならニンニクと銀の弾丸がおなじみだが、今回も銀の銛(もり)が出てくる。こうした怪物もキングの世界にはいろいろあって、おそらく『IT』(文春文庫)がいちばんよく知られているはずである。今回もそうだが、怪物の正体はむろん最後まで明瞭(めいりょう)ではない。それで当然なので、正体が知れないから化け物なのである。おかげで何回でも復活してくるから、作品がいつまでも書かれることになる。

 ホラーや推理小説を私は楽しみによく読む。アメリカの作家の作品を読むときは、いつでも背後にアメリカ社会を見てしまう。キングの主人公は、ほとんどの場合、得体(えたい)の知れない悪と戦っている。怪物と戦う登場人物の行動を読んでいるうちに、世界中のあちこちで、わけのわからない敵とたえず戦っている米軍の兵士を思ってしまう。軍人は命令だから戦わなければならないが、それにしても相手はなんだかはっきりしない。ヴェトナムでもアフガンでも、それは同じであろう。そう思えば、たえず仮想敵を置かなければいられない現代アメリカ文明を、キングの作品が象徴しているというしかない。でもその背後に、すべてを統括している悪の親玉が本当にいるのだろうか。日本人である私は、そんなもの、いるわけないだろうが、と思ってしまうのだが。

 キングは短編を書こうとすると中編になり、中編を書こうとすると長編になってしまうという。だから文体はきわめて饒舌(じょうぜつ)で、これを好まない人もあると思う。こうした細部を理解するには、現代アメリカのテレビや流行に関する知識が必要なことがある。でも実際には読み飛ばせばいい。そうしたところで、全体の理解に大過はない。その意味では、丁寧に書かれた純文学とは違う。日本でキングのようなホラー作家がいないのは、マンガというジャンルがあるからではないかと、私は思っている。日本人なら、ホラーは楳図かずおで済ませてしまうのかも知れないのである。(白石朗・訳)

毎日新聞を読んでいないので、この書評の続きがあるのかどうかは知らないが、 キングの作品には、いくつかの型がある。まずは現代もののホラーで、 の後に続くいくつかの典型に関する評論を読んでみたいと思う。

余談だけど、「悪霊の島」の書評と言いながら、キングの他の作品の(特に品切れの)宣伝をしてしまうところに関心してしまう。と言うか、品切れになる前に、ボクはちゃんと読んでますよ、と言う主旨の表明なのかも知れないけどね。

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