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2009/12/06

「骨の袋」

INTRODUCTION

最愛の妻に先立たれたベストセラー作家マイク・ヌーナン。彼はその後毎夜の悪夢に悩まされる。夢の舞台は決まって妻との思い出が宿る湖畔の別荘。ヌーナンは吸い寄せられるように別荘へと向かった。そこで彼を待ち受けていたのは、彼の運命を激変させる一人の少女。怪奇現象が多発し、過去の忌まわしい犯罪に対して死者がヌーナンにつきまとう。絶叫ゴースト・ストーリーの開幕!

ヌーナンと知り合った少女を、異常な地元の権力者マックス・デヴォアがつけねらう。デヴォアとの戦いを余儀なくされたヌーナンだが、彼は亡き妻の意外な真実を知ることになる。さらに過去にこの地で活躍していた黒人歌手セーラに対する忌まわしい犯罪が明らかに。セーラは復讐のために霊界から戻ってきたのか?彼女が企んでいる邪悪な野望を、もはや阻止することは出来ないのか!?

REVIEW

本作は、スティーヴン・キングが1998年に発表した"BAG OF BONES"の邦訳である。

物語は、最愛の妻に先立たれたベストセラー作家マイク・ヌーナンが湖畔の別荘(セーラ・ラフス)で体験する、過去の街ぐるみの犯罪と、その犯罪の被害者である死者の、現在における復讐劇を縦軸に、マイクが属している出版業界の内幕や、マイクが体験するライターズ・ブロック、そして淡い恋心、また今回の出来事を手記としてまとめたマイクが感じるフィクション中のキャラクターの安易な死に対する責任を、−−おそらくこれはキング自身の考えであろう、−−明示する作品に仕上がっている。

この物語を過去の陰惨な犯罪から派生する、その犯罪の加害者の子孫に対する因果応報という見方をするならば、横溝正史の一連の金田一耕介シリーズのうち、「八つ墓村」を始めとする閉鎖された村や島の家社会や因習を題材とした物語群や、スチュアート・ウッズの「湖底の家」を髣髴とさせる。
特に、物語の舞台背景から、調査の過程、スーパー・ナチュラルな存在等について「湖底の家」との類似性は否めない事実であり、興味深い。

また、本作は作家が創作したキャラクターは、いくら描写に力を入れようと「骨の袋」にしか過ぎない、という考え方と、「骨の袋」にしか過ぎないキャラクターであっても、プロット上の理由による安易なキャラクターの死についても作家は全責任を負う。というある種矛盾した考え方を、キングはマイクの言葉を借り、作家として提言しています。

これはキングが考える作家の限界を示している、という見方も出来ますし、また別の観点からは、キャラクターの死について真摯な態度で望め、という事を示している、と考えられます。

これは特にこの物語の中心人物である一人のキャラクターの死に対するところが大きいと考えられます。キングの描写によりそのキャラクターは、読者にとってすでに「骨の袋」以上の存在となっており、読者はそのキャラクターの死に対し、怒りや悲しみ、そして大いなる喪失感を味わうことになるのです。
そこでマイクはそのキャラクターの死に接し、フィクションの中でのキャラクターの死に対する作家の責任に思い当るのです。これはキングとマイクという二人の作家と、本書「骨の袋」とマイクの手記というフィクションとメタ・フィクション的な構造となっている訳であり、その辺りを勘ぐるとこれは物語にリアリティを付与するためのひとつの手法である、という観方も出来る訳ですが、わたしはストレートに受け取ることをおすすめします。

また、マイク・ヌーナンが体験するライターズ・ブロックとそれに対する対策は、−−出版しない作品群を銀行の貸金庫に預けておく −−、2002年のキング引退説の中で、キングが語ったと言われること、−−J.D.サリンジャーのように、書き上げた作品を貸金庫に預けておく、−−とリンクし、非常に興味深いものがあります。


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