「ラブ@メール」をめぐる冒険
2010年3月10日に光文社から出版された黒史郎の「ラブ@メール」を読了した。
以前のエントリー『黒史郎の「ラブ@メール」はキングの「セル」の影響を受けているのか?』の時点で購入はしていたのだが、諸般の事情で、読むのがこんな時期になってしまった。黒史郎さんごめんなさい。
「ラブ@メール」
著者:黒史郎
出版社:光文社/光文社文庫
発売日:2010年3月10日
定価:600円(税込み)
七夕の日、突然、世界中のカップルがバタバタと死に始めた。お互いを貪るように求め合った後に悶死するのだ。さらに、相手がいない者は、狂わんばかりに「愛」を求めて街を彷徨う。その姿は、ゾンビのようだった。伝染病? それとも細菌テロ? “発症”を免れた裕也と妊婦の唯は、自衛隊員の大熊と出会い、驚くべき事実を知る――。新鋭が放つ、異形なる愛の物語。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
先日のエントリーで紹介したように、黒史郎はWEB幽のインタビュー記事において、「〈ゾンビ〉という言葉は出していますけど、死人が襲ってくるわけじゃないので厳密には違いますよね。あえて近い例を探すとスティーヴン・キング の『セル』みたいな世界でしょうか。」と語っている。
そんな訳で、そんな先入観を持ちながら本書「ラブ@メール」を読んだ訳だが、おっしゃる通り、「セル」の設定によく似た物語が展開されて行く。
そして「セル」同様、最初のページからトップギアで、圧倒的な勢いで畳み掛けるような疾走感が楽しめる。
物語の骨子は、謎の奇病により人類の多くが急死し、生き残った人たちの多くも凶暴化し見境なく隣人を襲いまくっている世界。
そんな中、主人公たちが生き残りをかけて逃げ、そして戦う、と言う物語なのだが、その物語は、ロードムービー的な観点と、リチャード・マシスンの「アイ・アム・レジェンド(地球最後の男)」や「ゾンビ」から脈々と続いている、立て籠り型の観点で物語が進むのが興味深い。
冒頭の自衛隊の演習に向かうシークエンスは「戦国自衛隊」か「野生の証明」かな。
また、他方では、この奇病の原因を探るマッド・サイエンティストが登場するにいたっては、作者のサービス過剰ぶりに思わず笑みがこぼれてしまう。
個人的には、そのマッド・サイエンティストには「死霊のしたたり」のハーバート・ウエストの当てぶりじゃないかな、と勘ぐってしまう。
と言うのも、黒史郎はクトゥルフ神話が大好きで、ホラー映画やなんかも大好きらしいから。
余談だけど、黒史郎と言うペンネームは黒白から来ているのだろうかな。
本書「ラブ@メール」は、疾走感あふれるジェットコースター的な小説で、あっという間に読めるので、内容についてはあまり触れないが、キングファンとしては、「セル」や「デスペレーション」との関連性を考えながら読むと非常に面白いんじゃないかな、と思う。
また、「アイ・アム・レジェンド(地球最後の男)」や「ゾンビ」の観点からも楽しめるし、日本国内でこんな事が起きちゃっている、と言う事だけを取っても非常に興味深い作品に仕上がっている。
関心がある方は、是非手に取ってもらいたいと思う。
最近は日本のホラーもキテますよ。
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