「閉ざされた共同体の危機と恐怖」/有栖川有栖
2011年6月5日付「日本経済新聞」に掲載された有栖川有栖の「アンダー・ザ・ドーム」の書評「閉ざされた共同体の危機と恐怖」がWEBで公開された。
記録のため全文を引用する。
舞台はメイン州の片田舎。ある日、チェスターズミルという小さな町が、透明の巨大なドームにすっぽりと包まれる。正体はまったく不明で、外界と連絡は取れる ものの直接的な助けは得られない。閉鎖された共同体の人々は、人間に何ができるか、危機にあってどう振舞うべきかを試されることになる。
SFファンならずとも、どこかで聞いたような設定だと思われるだろう。キング作品には珍しいことではない。どこかで聞いたような設定に格別新しいアイディアを付与するでもなく、豪腕とも言うべき筆力で読ませてしまうところが「恐怖の帝王」の真骨頂だ。
それゆえキング作品には舞台裏がない。前記の設定から、あなたなら(さあ、ホラー作家になったつもりで)どんな小説を書くだろうか? この 作品は、町の上を飛行中だったセスナ機が空中で爆発するシーンから始まる。森では動物たちが突如として身体を切断され、庭いじりをしていた女性がいきなり 右手を失う。謎のドームが出現したのだ。
書き出しが浮かんだとして、それからどう続けよう? 外部から孤立したのをいいことに町のボスが警察まで牛耳り、恐怖で人々を支配しようとするのもアリだろう。キングもそうした。悪と戦う主人公と、その人物に味方する人々も描きたい。それから?
キングは、35年も前にこの物語の着想を得ながら、なかなか形にできなかったという。そして、今ならできるかもしれないと考え、「アクセル をフロアまで踏みっぱなし」で完成させたのだとか。「こう書けば怖いだろう、スリリングで面白かろう」という作者の発想と技巧が、そのまま全読者に晒され ている。
テーマもストーリーもいたって判りやすく、それでいて陳腐ではない。キング作品の中でも上位に位置する出来ではないか。
驚くべきは、これだけの長さでありながら「あの脇役についてもっと読みたい」と思わせるふくらみがあること。大長編を1カ月かけて楽しむつもりでいても、ページをめくる手が止まらず、数日後には読み終えているかもしれない。
(作家 有栖川有栖)
[日本経済新聞朝刊2011年6月5日付]
換骨奪胎と言うか、『どこかで聞いたような設定に格別新しいアイディアを付与するでもなく、豪腕とも言うべき筆力で読ませてしまうところが「恐怖の帝王」の真骨頂だ。』と言う部分が嬉しい。
また、作家特有の視点なのか、『それゆえキング作品には舞台裏がない。前記の設定から、あなたなら(さあ、ホラー作家になったつもりで)どんな小説を書くだろうか?』と言う部分も、良いですね。
ありふれた設定を繰り返し利用するキングの作風を肯定している印象を受けますね。
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