さて、今日も全ての事象はスティーヴン・キングの影響を受けている、と言うキングファンの妄想的エントリー。
今日、俎上に乗せるのは、アニメーション作品「ダンタリアンの書架」第4話「換魂の書("The Resurrection")」。
ところで「ダンタリアンの書架」自体はもう既に放送が終了してしまっている作品なので、タイムリーな話題ではないのだけれど、その辺はご容赦いただきたい。
「ダンタリアンの書架」
かつて所領の半分を一冊の稀覯本と引き替えにしたほどの好事家であり蒐集狂の祖父は、古ぼけた屋敷とそこに納められた蔵書の全てを青年ヒューイに残した。
条件は一つだけ、『書架』を引き継げ----と。
遺品整理に屋敷を訪れたヒューイは、うずたかく本の積まれた地下室で。静かに本を読む少女と出会う。漆黒のドレスに身を包んだ少女は、胸に大きな錠前を隠し持っていた。それこそは禁断の幻書を納める『ダンタリアンの書架』への入り口、悪魔の英知への扉だった。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
第4話「換魂の書」
ダリアンが夢中で読んでいる本の作者が、最終巻を書く前に暴漢に襲われて亡くなったという。嘆くダリアンだったが、ヒューイの亡き祖父宛にその作者本人から手紙が届く。助けを求めるその内容に、急いで現地へと向かう二人。その屋敷で出迎えたのは作者であるレンツの妻だという女性。執筆中のレンツは誰にも会わないが、著作のファンであるダリアンに免じて翌日面会できるようにとりはからうという。だが、レンツの妻もまた既に亡くなっているはずだったが・・・・。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
さて、ここからが今日の本題。
「ダンタリアンの書架」第4話「換魂の書」のどの辺がスティーヴン・キングの影響を受けているか、と言う話なのだが、結論から言うと「換魂の書」は「ミザリー」の影響を多分に受けている。
監禁され、小説を書かされている作家が登場するのだ。
さらに、リチャード・ドナー監督作品「レディホーク」(1985)や、ファン・ホセ・カンパネラの「瞳の奥の秘密」(2009)の影響を受けているとも考えられる。
そのあたりを中心にお話ししていきたいと思う。
冒頭、雪が降る夜、作家レニー・レンツが書斎でタイプライターで小説を執筆している。
このタイプライターがロイヤルのタイプライターなのかどうかは判別できないが、ビジュアルイメージとして考えると「ミザリー/特別編」のアートワークを意識している、と考えられる。
そして季節も冬である。
小説を書き上げたレンツは、約束を果たしたので、ぼくたちを助けて欲しいと、レンツを監禁し、小説を書かせている女性ポーラに懇願する。
ぼくを助けて欲しい、ではなく、ぼくたちを、と言うのがこのエピソードの重要な点である。
しかし、彼女は小説が、まだ足りない、とダメ出しをした上に、あろうことかレンツを殺してしまう。
「おやすみなさい、わたしの愛しい人」と語りかけながら。
場面は変わって、レンツの小説「狼たちの帝都("Crown of the Dog Days II")」を読んでいるダリアン。
ダリアンはこの作品が全三冊の二冊目だと知り、何故三冊目を注文しないのか、とヒューイに詰め寄る。
しかし、ヒューイは、作者のレンツは最終巻を書く前に路上で暴漢に襲われ亡くなったと言う。
最終巻が読めないことを嘆き、最終巻で描かれるはずの、非情な青年実業家イグネシアスと、彼への復習を誓いながらも惹かれて行くダイアーの行く末に思いを馳せるダリアンだったが、ヒューイは死んだはずのレンツから祖父宛に届いた手紙をダリアンに見せる。
曰く「奇怪な書物に囚われたわれわれを助けて欲しい」と。
また、わたしを、ではなく、われわれをである。
早速、レニー・レンツを訪ねるヒューイとダリアンだったが、レンツの別荘で彼らを迎えたのは、レンツの妻を名乗るポーラ。
余談だけどこのカット割は、デ・パルマだよ。
ズームアップではなく、カットを割りながら、最終的にポーラがレンツを殺した際に使った鉈のアップに繋げている。
物語は、レンツがこの別荘で「狼たちの帝都 第三部」を執筆していること、レンツは執筆中は決して誰にも会わないことを語りながら見せている。
セリフの途中でカットを変える編集も秀逸である。
ポーラは、レンツの妻だと名乗るが、「狼たちの帝都 第二部」はレンツの亡き妻に捧げられている。
その夜、ヒューイとダリアンはレンツの別荘に忍び込む。
その地下牢には、レンツの死体と、レニーの恋人を名乗る女性ラティーシャが監禁されていた。
ラティーシャを助けようとするヒューイにラティーシャは、わたしは今逃げ出すことは出来ない、また明日別荘を訪ね、レニーを必ず連れ出して欲しいと懇願する。
ここで、レンツは何度も、もしかすると夜ごとに死んでいるのではないか、そしてわれわれと言うのは、レニーとラティーシャなのではないか、と言う疑問がわき上がってくる。
翌日、レンツの別荘を訪ねたヒューイとダリアンの前に元気なレンツが現れる。
「やあ、君がダリアンだね、それにロード・ディスワードのお孫さんだそうで」
ここでAパート終了。
アイ・キャッチで、「換魂の書」の英タイトルが「The Resurrection」だということがわかる。
死んだはずのレニーが生きているところに「The Resurrection」。
これまた秀逸な構成。
小説「狼たちの帝都 第三部」を執筆しているように見せかけているレンツは、タイプライターでヒューイにメッセージを託す。
「納屋に囚われているラティーシャという女性を助けてくれ。私のことはいい、夜になったら彼女を連れ出してくれ。彼女がそれを拒んでも耳を貸してはいけない」
レンツは、夜になったらラティーシャを助けてくれ、と言い、ラティーシャは昼間にレニーを助けてくれ、と言っている。
ここでこの物語は「レディホーク」の影響を受けているだろうことがわかる。
さて、その夜、ラティーシャを助けるために納屋にやってきたヒューイとダリアンは、ラティーシャの死体と対面する。
その直後、レンツとポーラが納屋に入って来る。
ポーラはヒューイの拳銃を捨てさせるため、レンツの足をライフルで撃ち、こううそぶく。
「弾はあと一発、足もあと一本よ」
これは正に「ミザリー」。
アニー・ウィルクスがポール・シェルダンの両方の踵を順番に砕くシークエンスであろう。
ヒューイの調査の結果、ポーラの素性が明らかになる。
「ポーラ・ディッキンソン、あなたのことは調べさせてもらった。レニー・レンツの熱狂的なファンとして出版業界では有名だったらしいね。大量の手紙を送りつけて、住居に押しかけ、彼の友人や恋人に嫌がらせまでをしていたそうじゃないか。」
これまた「ミザリー」、No.1のファンでございますね。
そしてポーラが心情を吐露する。
「あなたがどこでどんな女にうつつをぬかそうと、それで良い作品が生まれるのならあたしは我慢する。なのに、なのに、この人にはわかっていなかった、真実の物語が、正しい結末というものが。」
これまた「ミザリー」。
フェアな物語を望むアニー・ウィルクス。
アニーのおかげで、ポールは素晴らしい作品を書き上げることになる。
「ミザリー」のスズメバチの一件から、藤田新策さんが以前言ったように、アニー・ウィルクスは作家にとって最高の編集者かも知れない。と。
レニーを撃ち殺すポーラ。
しかし、その直後ラティーシャが生き返る。
やはり、レニーとラティーシャは一つの命で順番に生きていたのだ。
まるで、「レディホーク」のように。
「死者を復活させる幻書? あのふたりは、互いの命を代償に、死と復活を繰り返している、と言うのか」
「幻書での復活は完全ではないのです。蘇生した死者の肉体は一昼夜しかもたず、朽ちててしまう」
「だからふたりとも逃げだせずに」
「そうよ、そして毎日殺されていったのよ」
「あたしだって辛いの、けどこれがあたしの使命、いえ天命なの。来る日も来る日も来る日も、こうしてレニーを永遠に殺し続けなければいけない。あたし以外にこんなことが出来る人間がいて? レニーの作品を愛しているあたしだからこそ出来るのよ」
続くポーラの独白の中で、「狼たちの帝都 第三部」でダイアーが死んでしまうこととオーグストの結婚にポーラは耐えかね、真実の物語、ポーラが望む物語、を書くことをレンツに要求していることが垣間見える。
これまた「ミザリー」。
「ミザリーの子供」の中でミザリーが死んでしまったことに耐えかねたアニーが、フェアな方法でミザリーが生き返る物語をポールに要求したように。
余談だけど、このポーラの独白部分は、復活の緑の光に満ちているんだけど、これは緑のリノリウム「グリーン・マイル」で言うところの苦悩に満ちた長い人生のことを暗喩しているのかも知れないですね。
最終的には、レニーとラティーシャは死に耐性を持ち、ポーラは自滅して、ヒューイは幻書を手に入れて、大団円でございます。
ところで、どの辺が「瞳の奥の秘密」か、と言うと、以前のエントリー『「瞳の奥の秘密」もキングの影響を・・・・』で紹介したように「瞳の中の秘密」自体も「ミザリー」の影響を受けているのですが、「換魂の書」の陰惨な雰囲気が「ミザリー」よりも「瞳の奥の秘密」に似ているのではないか、と言う程度でございました。
また、長くなってしまいましたね。
因みに「換魂の書」は原作の第三巻に収録されているようです。
余談ですが、この「ダンタリアンの書架」の原作の構成はヒューイとダリアンが登場する「Episode 〜」と、異なった登場人物の物語が語られる「Fragment 〜」と、違う鍵守と書架が登場する「Extra Episode 〜」が順番に挿入されており、これまた「IT」の構成に近いのではないか、とも思ってしまいます。
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