「なまづま」もキングの影響を!?
さて、今日も全ての事象はスティーヴン・キングの影響を受けている、と言うキングファンの妄想的エントリー。
今日、俎上に乗せるのは、堀井拓馬の「なまづま」 。
「なまづま」
著者:堀井拓馬
出版社:角川書店(角川ホラー文庫)
あらすじ:激臭を放つ粘液に覆われた醜悪な生物ヌメリヒトモドキ。日本中に蔓延するその生物を研究している私は、それが人間の記憶や感情を習得する能力を持つことを知る。他人とうまく関われない私にとって、世界とつながる唯一の窓口は死んだ妻だった。私は最愛の妻を蘇らせるため、ヌメリヒトモドキの密かな飼育に熱中していく。悲劇的な結末に向かって…。選考委員絶賛、若き鬼才の誕生!第18回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。(本書裏表紙より引用)
さて、本作「なまづま」のどの辺りがキングの影響を受けているのか、と言う話なのだが、本作の物語は先ほど引用したように、死んだ妻をヌメリヒトモドキを利用し蘇らせようとする物語である。
そこから短絡的に考えると本作「なまづま」は、キングの「ペット・セマタリー」の影響を受けている、と言う事になるだろう。事実わたしも、そのつもりで本作を読み進めていた。
しかし、ラスト一行でそれは完全にひっくり返る。
冒頭のカレンダーの部分が凄まじい勢いで蘇ってくる。
あぁ、本作「なまづま」は「グリーン・マイル」だったのだ、と。
ところで、「グリーン・マイル」と言う物語はどんな物語だったのか、と言うと、奇跡を信じていなかったポール・エッジコム(パウロ)は、奇跡を行うジョン・コーフィ(JC)を目の当たりにすることにより、奇跡の存在を信じるようになり(パウロの回心)、ジョン・コーフィを自らの手で電気椅子に送り込んだ後、その奇跡の物語を永遠に伝え続ける事を余儀なくされてしまう物語である。
一方「なまづま」はどう言う物語なのか、と言うと、妻の死を乗りこえるため、一日いちにちを地道に生き抜いていた主人公は、ヌメリヒトモドキを利用し死んだ妻を蘇らせようとするが、そのヌメリヒトモドキは想像以上に妻に近い存在になってしまう。最終的に彼は永遠に延ばされた人生を一日いちにち生き抜きながら、この物語を伝え続ける事を余儀なくされてしまう物語である。
いかがだろう、本作「なまづま」は、関心が出てきた方にはオススメの一冊である。
ところで、亡くなってしまった愛する人をなんらかの手段で蘇らせようとする作品は、古今東西にたくさんあるのだが、それらの多くの作品では、蘇ってきた存在は、元の存在以下の存在であるケースがほとんどだと思う。
キング的には「ペット・セマタリー」もそうだし、その元ネタとなっている「猿の手」も同様である。
日本においても、「日本神話」におけるイザナギ・イザナミの神話においても同様だと言える。
ここで興味深いのは本作「なまづま」では、ヌメリヒトモドキをよりしろとして蘇った存在は、死んだ妻と同様、またはそれ以上の存在になりそうな印象を受ける。
しかし、ヌメリヒトモドキの妻を愛するようになってしまった主人公にとって、それは許容できない状況になってしまうのだが、ね。
余談だけど、「なまづま」を読了した後にこの表紙の装画(笹井一個)を見ると、感慨深い印象を受けるよ。作品にぴったりの素晴らしい装画です。
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