ケイン・コスギさんと読む「IT」
2014年3月16日のブック・アサヒ・コムのコラム『思い出す本 忘れない本』が興味深い。
■主人公たちの孤独に共感
『IT』は、僕が初めて、自分の意思で読んだ本です。
すぐ俳優になるか、アメリカで大学に進学するか悩んでいた18歳の時、日本で一人暮らしをしました。NHKの大河ドラマに父(俳優のショー・コスギ氏)が出演するのにあわせて来日し、父が帰国した後も、「日本を知った方がいい」という父の勧めで、僕だけ半年間残ったのです。
日本語もできず、友達も、面倒を見てくれる人もいなかった。僕自身もドラマに端役で出演することになっていたのですが、出番はほとんどなかった。一日中、ホテルの中でぼーっとして、トレーニングするか、ジグソーパズルをするしかない日々。そんな時、アメリカから母が送ってくれた荷物の中に、何冊か、スティーブン・キングの本が入っていたのです。
日本に来るまでは、毎日、スポーツざんまい。学校の授業で仕方なく本を読んだことはあったけど、おもしろいと思ったことはありませんでした。
でも、このときは英語が懐かしくて、思わず手に取りました。すると、止まらなくなった。
『IT』は、田舎町で起きる殺人事件が題材。社会にうまくなじめない「はみだしクラブ」の子供たちが、ピエロ姿の怪物「It」と戦うというストーリーです。日本に来て、言葉のできなかった自分も、社会からはみ出した場所にいた。孤独を抱える主人公たちに少しだけ、共感できる気がしました。
何より印象に残っているのは、怖かったこと。だいたい夜に読むことが多かったので、子供たちを殺すピエロが登場するたびに鳥肌が立ち、「明日の昼に読もうか」と思ったことも。でも最後が知りたくて、やめられなくて、1週間くらいで一気に読みました。
その後、映画も見ましたが、やっぱり小説の方がいい。自分の想像していたピエロほど、映像は怖くないんです。映像化って本当に難しい。僕も将来、原作がある映画やドラマに出ることがあるかもしれませんが、10人中10人全員に「原作と同じ」と思ってもらえることはないと思います。その時は、似せることを意識しすぎず、自分らしい演技をするしかないんでしょうね。
友人たちには「いつも、スポーツをやっているイメージなのに」と驚かれますが、普段のトレーニングで体が疲れてしまうので、休日は家で過ごします。ゲームも映画も好きですが、一人きりで別の世界に入ることができる読書が一番、リラックスできますね。ロケなどで海外に行くたびに、空港の本屋でまとめ買いをしてるんですよ。
本人が語るように、ケイン・コスギは肉体派の印象が強く、本なんて読んでいないような印象を受ける。
その彼が「IT」を原書で読んでいる。
翻訳のように分冊されていないあの分厚い「IT」を、である。
誰もが、なかなか読む記が起きないようなボリュームの「IT」を、いくら英語が懐かしいからと言って、1週間で読んだ、と言うのである。当時のケイン・コスギは読書の習慣がなかったようなので、「IT」を知るわれわれが受ける印象も、驚きもひとしおである。
ショー・コスギがNHKの大河ドラマ「琉球の風」に出演したのは1993年なので、ケイン・コスギが読んだ「IT」はもしかしたらハードカバーではなく、ペーパーバックだったかも知れない。
しかしながら、それにしても分厚い「IT」を読み、そしてコラムで紹介しているケイン・コスギの好感度は、キングファンならずともあがっているに違いない。
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