カテゴリー「「幸運の25セント硬貨」」の2件の投稿

2010/02/23

冲方丁もキングファン!?

WEB本の雑誌のコンテンツである「作家の読書道」「第99回:冲方丁さん」によると、冲方丁(うぶかた とう)はスティーヴン・キングにはまっていた模様。

今回のインタビュー記事は、全7回にわたる長大なインタビュー記事だが、小説家:冲方丁のルーツにも触れる興味深いインタビューなので、是非読んでいただきたい。

因みに、キングに触れるのは「その3」「その5」

作家の読書道 第99回:冲方丁さん

当ブログ「スティーヴン・キング研究序説 ココログ分室」的に重要な部分を引用する。

「その3 リレー小説、読書会」より引用

冲方:僕自身は、だんだん小説以外に、思想書みたいなものを読むようになりました。ヘーゲルの『哲学史講義』とか。キェルケゴールの『死に至る病』は何を言っているのか分からないので、全部書き写しました。「何が言いたいんだお前は!」とムカつきながら(笑)。ニーチェの『ツァラトゥスラはかく語りき』は読んだのかな、写したのかな...。本屋に行って何か教えてくれそうな本を選んでは読んでいましたね。

――書き写すんですか。ノートに、ですか。

冲方:大学ノートにボールペンで。縦書きを横書きに写すんです。縦書きを縦書きで写すのだと、だんだん作業をこなすだけになってしまってちゃんと読まないんですよね。縦書きを横書きに写すのでないと頭を使わない。あとはスティーブン・キングはハマりました。『クリスティーン』『ダーク・ハーフ』は写したんですよ。自分の場合、ハマる=模写なんですね(笑)。ついついやってしまうんですが、『トミー・ノッカーズ』は死ぬほど写しても終わらなくて、『IT』も1巻の途中まで写した時に残りが3巻あると聞いてやめました。僕の高校時代はこれで終わってしまうと思って。

「その5 4つの媒体を体験」より引用

――意外ですねえ(笑)。そういえば、書き写す作業は、その後は...。

冲方: キングの『幸運の25セント硬貨』はたまに写します。執筆に疲れると写したくなるんですよね。野球選手が疲れてくると素振りをするみたいに(笑)。読むということは吸収して肉体にするという感覚なので、いいなと思ったものは写したくなる。『幸運の25セント硬貨』に入っている短編はどれも好きなんです。噛んでも噛んでも味わいがある。「一四〇八号室」はその部屋に入るとみんな大変なことになる、という話でこれはサミュエル・L・ジャクソンたちが出演して映画化していますよね。「道路ウィルスは北に向かう」も映像化されている。映像のイメージと自分が書き写した時のイメージを総合していく感じです。この本は『神話の力』と同じくらい何度も読んで、いじくり倒していますね。そういう性格なので、自分で小説を書く時も、軽いシリーズものというのができない(笑)。今回はバロットのこんな事件、ということができなくて、次はこの人がどんな成長をするのか、その人生全部を書いてしまうんです。だから渋川春海シリーズなんていうのは書けない(笑)。読み方からくる書き方なのかもしれませんね。読書体験と執筆体験って裏表なんだと、今気づきました。



小説をノートに書き写すとは驚きです。
原書を翻訳して大学ノートに書き写す、と言うのであれば、結構多くの人々がやっていると思うのですが、邦訳を日本語でノートに書き写す、と言うのは驚きの手法ですね。

しかも、縦書きを横書きで書き写す事に意味がある、と言うのにも驚きですね。
なんとなくわかりましがね。

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2010/02/16

訃報:翻訳家 浅倉久志さん

2010年2月16日夕刻 JRで移動中、ツイッター上を流れるつぶやきで浅倉久志氏の訃報に接した。
あまりの驚きで、息を飲み座席から飛び上がったわたしに電車内の視線が集まった。

昨日2月15日、出版、翻訳関係で、何だかひっかかるつぶやきが多く、あぁ、また誰かが亡くなったんだな、と思っていた。それはなんと浅倉久志さんの訃報だった訳だ。

電車内、わたしのツイッター上のタイムラインは浅倉久志氏の訃報でいっぱいになった。
全く面識のない、赤の他人の死だと言うのに、電車の中にいるのに、涙がこぼれ落ちてしまう。
携帯を握りしめ、涙を流すわたしは、電車内の無遠慮な視線にさらされた。

わたしの読書人生はSFから始まった。
ホラーより、ミステリーより、SFだったのだ。

大人になったわたしは、SFファンだと公言する事にいささか躊躇するようになってしまったが、今でもSFを読んでいる。

最近も、たまたまなのだが、「タイタンの妖女」(浅倉久志訳)「たったひとつの冴えたやり方」(浅倉久志訳)や「夏への扉」「渚にて」なんかを再読したりしている。

そんなわたしの当時の本棚には、ご多分に漏れず、浅倉久志や伊藤典夫が翻訳したSFがたくさん並んでいた。

大学時代だろうか、映画研究会に属していたわたしたちに取っては、P・K・ディックやマイケル・クライトンの翻訳を担当していたことにより浅倉久志の名前はポピュラーであり、そのペンネームが、SF界の大御所アーサー・C・クラークの名前から取られていることを知った際、じゃあ、何でクラークの翻訳は伊藤典夫なの(「2001年宇宙の旅」等)、と大人の事情を知らない無邪気な会話をしていたのを思い出す。

クラークと言えば、前述の通り翻訳は(映画研究会的には)伊藤典夫なのだが、知らない間にクラークの翻訳を浅倉久志が翻訳していたような記憶が刷り込まれてしまい、伊藤典夫と浅倉久志はわたしの中で同一の存在になってしまっていた。

従って、クラークの作品、例えば「2001年宇宙の旅」なんかを、浅倉久志の翻訳で読んだような記憶が偽造されてしまったりしているのだ。

ところで、SFとは何か、と言われたら、それは少年の夢に他ならない。

少年の夢を、そして少年の心を僕らは翻訳のSF小説から学んできた訳である。

そんな中で思うのは、アーサー・C・クラークが好きだから、ペンネームを浅倉久志にしてしまう、と言うのは、正に少年の感性である。

だってクラークが好きなんだもん。

しかし、その大好きなクラークの翻訳を行っていない(当サイト推測)浅倉久志、しかも親交が深かった伊藤典夫がクラークの翻訳の多くを担当しているのを見るのはきっと悲しいものがあったのではないか、と思ったりしてしまう。

多分冒頭、ツイッターに流れる浅倉久志氏の訃報を見て泣けてしまったのは、氏がクラークを、そしてSFを愛していたからだと思う。

ところで、わたしが読んだ最新で最後の浅倉久志の文章は、おそらく「SFマガジン2008年6月号/アーサー・C・クラーク追悼特集I」のクラークへの追悼エッセイ「わが筆名の祖」だと思う。

そのエッセイの中で浅倉久志は、

クラークさん、こんどは霊魂の身で思いのままに大宇宙を飛び回って下さい。

と言う一文でエッセイをしめくくっている。その言葉を借りるならば、

浅倉さん、こんどは霊魂の身で思いのままクラークの新作を翻訳して下さい。

と言いたいところである。

慎んでご冥福をお祈りします。

当ブログはご承知のようにスティーヴン・キングに関するブログである。
浅倉久志氏が翻訳したスティーヴン・キング作品を最後に紹介しておく。

「刑務所のリタ・ヘイワース」(「ゴールデンボーイ」新潮文庫に収録/映画「ショーシャンクの空に」原作)
「ゴールデンボーイ」(「ゴールデンボーイ」新潮文庫に収録)
「なにもかもが究極的」(「幸運の25セント硬貨」新潮文庫に収録)
「ナイト・フライヤー」(「ドランのキャデラック」文春文庫に収録)

2010年2月17日追記。
浅倉久志氏のアーサー・C・クラーク作品の翻訳作品。

「第二の夜明け」「歴史のひとこま」「コマーレのライオン」
余談ですが、「前哨」持ってました。

東京創元社のサイトで公開された浅倉久志さんの訃報を一部引用する。

SF翻訳家・浅倉久志先生 逝去

SF翻訳家・浅倉久志先生が、2月14日(日)午後7時、心不全で逝去されました。1930年3月29日生まれ。79歳でした。

カート・ヴォネガットやP・K・ディック、ウィリアム・ギブスンの翻訳者として知られ、著名な訳書は数限りなく挙げられます。浅倉先生単独で、また伊藤典夫先生との共編で多くのSFアンソロジーを編纂されましたが、特にユーモア小説・ユーモアSFがお好きで「ユーモア・スケッチ傑作展」(早川書房)や「世界ユーモアSF傑作選」(講談社文庫)といったアンソロジーも編まれています。評論書でもジュディス・メリル「SFに何ができるか」(晶文社)、オールディス&ウィングローヴ「一兆年の宴」(東京創元社)といった名著の翻訳を手がけられました。また、海外SFの紹介エッセイや博識なあとがき・解説にもファンが多く、それらの業績は2006年にエッセイ集「ぼくがカンガルーに出会ったころ」(国書刊行会)にまとめられています。

創元SF文庫では1970年にエリック・フランク・ラッセル「自動洗脳装置」の翻訳(大谷圭二名義)で初めて翻訳をお願いし、メリル編「年刊SF傑作選」(第5集、第7集。大谷名義)、また現在は浅倉名義に変更しているJ・G・バラード「溺れた巨人」、フリッツ・ライバーの「魔の都の二剣士」に始まる《ファファード&グレイ・マウザー》シリーズ等々をお訳しいただきました。また創元推理文庫でも、リチャード・ティモシー・コンロイの「スミソン氏の遺骨」にはじまるユーモア・ミステリ3部作をお訳しいただきました。そういえば70年代には「浅倉さんが訳すとミステリも冒険小説もSFになる」とファンのあいだで語られたものでした。

創元SF文庫での最大のヒット作は、ポール・アンダースン「タウ・ゼロ」(星雲賞受賞)ですが、その後98年に来日したアンダースン氏が、宴席をご一緒された浅倉先生ご自身に向かって「素晴らしい翻訳だった」と絶賛したことが思い出されます。もっとも御本人はそれをまったく聞いていらっしゃらず、のちのちそのことを話題にすると、「へえ、そんなこと言ってたんだ? ほんとに? いつ会ったの?」とおっしゃたものでした。

ご冥福をお祈りいたします。

●YOMIURI ONLINE の訃報
http://www.yomiuri.co.jp/national/obit/news/20100216-OYT1T00788.htm

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