訃報:グレン・オービック
2015年5月11日 ペーパーバックやコミックブックのイラストレーターで知られるグレン・オービックが亡くなった。
ON MAY 11, 2015, HARD CASE CRIME LOST A DEAR FRIEND: GLEN ORBIK / HARD CASE CRIME
当ブログ「スティーヴン・キング研究序説 ココログ分室」では、グレン・オービックに関するエントリーを何度かアップしているので、おそらくはグレン・オービックの名前や作品をご存知の方も多いと思う。
画像は《ハード・ケース・クライム》から刊行されたスティーヴン・キングの「コロラド・キッド」。
この《ハード・ケース・クライム》という叢書については新潮社(新潮文庫)から非売品のプレミア・ブックとして2006年に刊行された「コロラド・キッド」の巻末に収録されている吉野仁の解説が詳しい。
「コロラド・キッド」
著者:スティーヴン・キング
訳者:白石朗
解説:吉野仁
発行:新潮社(新潮文庫/非売品)
初版:平成18年6月1日
しかし「コロラド・キッド」自体、一般に流通している書籍ではないので、手にする機会が少ないと思う。折角なので「コロラド・キッド」の吉野仁の解説のうち、《ハード・ケース・クライム》に関する部分を引用する。
《ハード・ケース・クライム》は、かつてアメリカで量産されたペイパーバックによる犯罪小説(ミステリー、ハードボイルド)を現代に蘇らせようという目的で2004年に創設された叢書なのだ。
すでにこのシリーズの新作のうち2作が邦訳されている。うち1作のドメニック・スタンズベリーの「告白」(ハヤカワ・ミステリ文庫)はアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペイパーバック賞を受賞した。
そして、同賞の最優秀処女長編賞のノミネートには、もう1作、リチャード・エイリアス「愛しき女は死せり」(ハヤカワ・ミステリ文庫)が挙がっていた。なにを隠そう、このリチャード・エイリアスこそが、IT企業のCEO(最高経営責任者)にして、《ハード・ケース・クライム》の創設者、本名チャールズ・アルダイなのだ。
(略)
そしてもうひとつの大きな特徴としてカヴァーに当時活躍したイラストレイターの絵を採用したり、いかにもペイパーバック・オリジナル黄金時代の表紙絵を髣髴とさせるイラストを用いている。映画007のポスターイラストなどでも知られるロバート・マギニスなどはその筆頭といえる画家だ。
グレン・オービックはチャールズ・アルダイ(チャールズ・アーダイ)の下、《ハード・ケース・クライム》の表紙を担当する事になる。
また、吉野仁による解説で名前が出るロバート・マッギニスをチャールズ・アーダイに紹介したのもグレン・オービックなのである。
2014年にマール社から刊行されたロバート・マッギニスの画集「アート オブ ロバート・マッギニス」からそのあたりのエピソードを引用する。
2004年、新旧のノワール小説を専門に扱うハード・ケイス・クライムと言うレーベルができ、その設立者のチャールズ・アーダイはレトロ調のカバーを求めていた。そこでイラストレーターのグレン・オービックにロバート・マッギニス風の絵が描ける人材を知らないかと尋ねたのだ。
するとグレン・オービックは「だったら本人に当たってみたらどうだ」との返事。アーダイは御年78歳のマッギニスが現役だったことに衝撃を受ける。そして連絡が取られロバート・マッギニスがペーパーバックとともに送る幸せな晩年が始まった。
半ば引退していたロバート・マッギニスをイラストの世界に、特にロバート・マッギニスが得意としていた分野に連れ戻したきっかけはグレン・オービックだったのだ。
結果的に、グレン・オービックは半隠遁生活をおくっていたロバート・マッギニスにイラストレーターとしての新たな命を授け、自身は若くして亡くなってしまう。
グレン・オービックは長期にわたるガンとの闘病生活をおくっていたらしい。
《ハード・ケース・クライム》とロバート・マッギニスのことを考えると、何かしら運命的なものを感じてしまう。
なお、グレン・オービックが担当したスティーヴン・キング作品の挿画は《ハード・ケース・クライム》の「コロラド・キッド」と「Joyland」。「Blockade Billy」、そして「IT」の25周年記念限定版。
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