先ずは、HARADAさんの「スティーヴン・キングの話」のエントリー『「ジョウント」のネタ本、復刊!』をご覧いただきたい。
どうやらアルフレッド・ベスターの名著「虎よ、虎よ!」が、2008/02/22に復刊した模様である。
ご承知のように、「虎よ、虎よ!」は、キングの「ジョウント」(「神々のワード・プロセッサ」に収録)に影響を与えた、と言うか元ネタとなっている作品である。
と言うのも、「虎よ、虎よ!」で登場する「ジョウント」と言う技術設定をそのまま利用したのがキングの「ジョウント」なのだ。
折角なので、以前「ジョウント」について他ブログで書いたコラムを再掲載したいと思う。
お断りだが、2005年11月のコラム発表当時は、映画「この胸いっぱいの愛を」が公開され、また吾妻ひでおの「失踪日記」がバカ売れしていた頃である。
「ジョウント」をめぐる冒険
2005/11/25
例えばSFの世界には、世界中の作家たちの共有財産として使われる設定や技術がある。
例えば「タイム・マシン」がそうであったり、「トラクター・ビーム」がそうであったり、「ワープ航法」がそうであったり、「転送」がそうであったり、「パワード・スーツ」がそうであったり・・・・。
その中で多くのSFファンを魅了してきた技術設定がある。
「ジョウント」である。
原典は、アルフレッド・ベスターの「虎よ、虎よ!」("Tiger! Tiger!") と言う小説である。
この「虎よ、虎よ!」と言う小説は、寡作で知られるアルフレッド・ベスターの手によるもので、多方面からの評価が高く、現在でもSF小説のベストテンに顔を出すことも多い傑作SF小説である。
その作品に登場する技術設定(?)のひとつに「ジョウント」と言うものが登場する。
「ジョウント」とは、一種のテレポート(テレポーテーション)能力で、緯度・経度・高度等、行き先の明確なイメージがあれば、誰もが望む場所へ「ジョウント」できるのだ。
この能力は特殊能力ではなく、巧拙はともかく誰もが訓練次第で習得できる技術なのだ。
「ジョウント」のおかげであらゆる交通機関は消滅し、人類は渋滞や排気ガス等から永久に開放された。
またランドマークとなる建物や場所の、緯度・経度・高度等の情報は一般に公開されている。
一方、明確なイメージさえあれば、銀行の金庫の中や、美女の寝室にさえ「ジョウント」できる事から、様々な問題や対処策が考案されている訳だ。
その後、SF界の共有財産となった「ジョウント」を利用した作品がいくつか発表されているのだが、多分一番有名なのは文字通り「ジョウント」と言うタイトルの作品。
かのスティーヴン・キングの短編である。
この作品は、タイトルから設定から比較的ほとんどが「虎よ、虎よ!」の世界を踏襲し、そのなかから、言いようのない恐怖を見事に描いた傑作である。
そして、先日紹介した吾妻ひでおの、「不条理日記」に登場する主人公(吾妻ひでお本人)は、なんと、青色申告をするために「青ジョウント」するのだ。
前述のように安全な「ジョウント」は、行き先の明確なイメージが必要なのだが、例えば、その場にそのままいると死んでしまいそうな場面で、必要に迫られ、行き先のイメージを固める前に「ジョウント」してしまうことを「青ジョウント」と言うのであるが、これは非常に危険なことなのだ。
ちょっと間違うと、「石の中」に入ってしまったり、上空5キロ位の地点に出てしまうかも知れないのだ。
吾妻ひでおは、そんな思いを込めて青色申告に向かった訳である。
で、驚いたのが、現在公開されている「この胸いっぱいの愛を」の原作である。
その原作のタイトルはなんと「クロノス・ジョウンターの伝説」(梶尾真治)。
おい!ふざけてんのか!!
「クロノス・ジョウンター」ってなんだよ!
直訳すると「時間跳躍者」、昔からの言葉では「タイム・トラベラー」とか「タイム・リーパー」だぞ。
いくら「ジョウント」がSF界の共有財産になっているからと言って、「クロノス・ジョウンター」はまずいだろう。
なんだか悲しくなってしまう。
※「クロノス・ジョウンター」
物質過去射出機(タイムマシン)
過去に戻った分未来にとばされてしまう機械。
いかがでしょう。
少しは楽しんでいただけたでしょうか。
ところで余談ですが、HARADAさんが紹介していた「虎よ、虎よ!」(ハヤカワ・オンライン)をクリックした後に表示される「同じ著者・訳者の作品」の「ドノヴァンの脳髄」は、「IT」のとあるシークエンスの元ネタとなっていますので、ご関心のある方はご一読をオススメします。
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