第三回 翻訳ミステリー大賞候補作/「忘れられた花園」
■著者 ケイト・モートン
■訳者 青木純子
■出版社 東京創元社
■価格 ¥1,700(税抜き)
実は、わたくし、ケイト・モートンには注目しておりました。
何故ならば、2年前に読んだ彼女の処女作「リヴァトン館」が非常に気に入っていたから… です。
【リヴァトン館】
■著者 ケイト・モートン
■訳者 栗原百代
■出版社 武田ランダムハウスジャパン
■在庫切れ(文庫化間近)
お話は、こんな感じ。
第一次世界大戦下のイギリスでメイドとしてリヴァトン館に奉公に上がった14歳の少女グレイスと館の令嬢ハンナとの交流の中で、ある何気ないひとつの嘘が全てを叩き壊すかのような忌まわしい事件を誘発… その意外な結末。 イギリス上流社会の華やかなりし頃と現在とを行き来して展開するふたつの時間軸のなかでグレイスの視点で語られる中、なぜ事件は起こったのか… 真相が次第に明らかにされてゆく筆致はまさに必読! とても新人作家のものした作品とは思えない完成度の高さで圧倒される小説です。
「リヴァトン館」を読んで彷彿としたのはバーバラ・ヴァインの「ステラの遺産」やダフネ・デュ=モーリアの「レベッカ」… 私の大のお気に入りの作品リストの中に「リヴァトン館」はいかにも自然に入り込んでしまったのです。
そして、今回、候補作となっている「忘れられた花園」は、そんな彼女の第二作目と云う事で迷わず購入。「リヴァトン館」以上のカレイドスコープ的な構成が特長です。
主人公は、3人の女性… イライザ、ネル、カサンドラ。
20世紀初頭をイギリスで生きた謎の絵本作家イライザ、そして、1913年にどうした訳かひとりイギリスから船に乗りオーストラリアで孤児として引き取られ育てられたネル、現代を生きるネルの姪カサンドラ。
ネルがオーストラリアで孤児となった時に持っていたイライザの描いた絵本、そしてネルの遺産として残されたコーンウォールのコテージに導かれるようにしてイギリスへと向かったカサンドラが見いだす謎の行方とは…
この「忘れられた花園」は、【幼い頃のネル】【若かりし頃のネル】【イギリス、ブラックハースト荘でのイライザ】【ネルと一緒に暮らす幼い頃のカサンドラ】【ネル死亡後のカサンドラ】と云う5つの時代を自在に行き来します。(間違っていないかどうかちと不安…)ひとつひとつのパートはかなり短め。テンポよく各時代での物語が語られ、それぞれのエピソードが語られる度に【本当は何が起こったのか】への謎が薄皮を剥がすように明らかになってくるのです。
そして、これが大きなポイントなんだけれど、その中に挿入される【イライザの絵本の物語】がいい味を出しているんです!
地の文とは違う文字組と飾り罫の入った絵本の物語のパートは、本の作り方としてもメリハリがあって素敵…
翻訳の妙味としては、やはり、この時間軸の入れ替えのスムーズさが印象的です。
勿論、原作の構成が上手いのであって、その翻訳だから当たり前… なのかもしれないのですが、違和感なく5つの時間軸を行ったり来たりすると云う複雑な構成を自然なかたちで翻訳するのには技巧が必要に思えます。(読者を迷わせない翻訳のコツってのがあるに違いない!)
それから、三人の主要登場人物の造形の差。 特に、途中で性格が一変するネルの表現が肝ですね。
翻訳は、青木純子氏。
訳書を拝見してみると…
お… 昨年、話題だったフェリペ・アルファウ「ロコス亭」(積んでる)やマリーナ・レヴィツカ「おっぱいとトラクター」(読了済み)、ギルバート・アデアの「閉じた本」(大好き!)やアンドルー・クルミー「ミスター・ミー」(そんなに好きじゃない…)も青木氏の手になる翻訳本であったのか!
もとい… 「忘れられた花園」は上下2冊600ページを超える大作ですが、テンポよく謎へのアプローチが行われるために、次の展開が気になってどんどんページを捲りたくなり、結果的に一気読みしちゃう力があります。 集中力が持続出来る読み易い小説であると思います。
もしも「まだ読んでいない!」と云う方がおられたら、上下巻の分量に臆せずに是非「忘れられた花園」に挑戦して頂きたいです!
個人的には、読後のすっきり感や【物語上の驚愕の事実】に本当に驚愕した事も相俟って、前作の「リヴァトン館」の方が好きなんですけれどね…(うふ)
翻訳ミステリー大賞の受賞に関しても気になる所ですが、それは別としてもケイト・モートンは、今後、絶対にフォローし続けてゆくべき作家のひとりですぞ!
ところで!
このテキストを書いている間に、ビックニュースが飛び込んで参りました。
何と、在庫がなくなっていた「リヴァトン館」が文庫となって復活するとの事!
買い易くなって再登場の「リヴァトン館」… 是非、この機会に読んでみて下さいませ。
ケイト・モートンに、ますます注目! ですね!
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