第三回 翻訳ミステリー大賞候補作/「二流小説家」
■著者 デイヴィッド・ゴードン
■訳者 青木千鶴
■出版社 早川書房(ハヤカワ・ポケット・ミステリー)
■価格 ¥1,900(税抜き)
デイヴィッド・ゴードン「二流小説家」は、昨年の「このミステリーがすごい!」(宝島社)に始まって「週刊文春ミステリーベスト10」(文藝春秋)、「このミステリが読みたい!」(早川書房)など読者の信頼も篤いベスト本企画において三冠を達成するという偉業を成し遂げている。
それだけ物凄いこの作品、どんな内容かと云うと…
物語の主人公は、自分自身の名前で本を書いたことがない冴えない【二流小説家】のハリー。
理解者であった筈の妻は、彼のうだつの上がらなさに愛想を尽かして去り、代理人気取りの女子高校生に鼻面を引き回されている。そんな時、4人の女性を殺した猟奇殺人犯の告白本の執筆者に選ばれるという幸運に恵まれる。殺人犯は、ハリーがポルノ雑誌に連載していたときのファンだと云い、告白本の執筆をさせる換わりにと提示した条件は、刑務所で服役している彼に熱烈なファンレターを書いてよこした女性を取材してそれを元に個人的ポルノグラフィーを執筆すること… とんでもない条件に驚きつつも、仕事を始めるハリーの目の前で再び起こる連続殺人事件!
ってな訳で、この後は思いも寄らなかった展開に…
作中作として、ハリーが過去に様々な名前でものしたSFやミステリがちょいとばかり紹介されたり、彼の文学論や作家としての矜持が語られたり、情けない彼のまさに【二流小説家】ぶりが発揮されたりと盛りだくさんのアイディアが詰まっており、飽きる事なく読み進める。 そして、最後に待っている驚き…
この「二流小説家」はエンターテインメントとして本を読むことを本当に楽しめる作品となっている。
訳者は、青木千鶴氏。
フレッシュな作家陣とデザインになったポケット・ミステリーですでに「湖は飢えて煙る」、「記者魂」、そして「二流小説家」と3冊もの話題のミステリを訳しておられる。
ところで… 「二流小説家」に於いて、わたしが気になる所。
ハリーは【二流小説家】と云う設定になっているのだが、名前を使い分け、性別や老若や人種を超えて様々なジャンルの本を書飛ばせると云う事は、実は、本名で小説を書くだけ(?)の作家よりも凄いんじゃないの? と云う事。
まあ、腰を落ち着けて自身の執筆の方向性を決められないと云うのが【二流小説家】たる所以かもしれないけれど…
それから… 何故か、エピローグの最後の数行が全く理解出来ない事。
一体どうして、あんな終わり方なのか?
彼は一体何が云いたいのか?
そして、一体何をしたと云うのか?
超〜っ気になる。
この事を、「二流小説家」を読了した何人かの猛者に直接尋ねてみたが、そんな事気にするほどの事じゃないし、書いてある通りに素直に読めばいい… と云う意見や、冒頭の文章(以下引用)【小説は冒頭の一文が何より肝心だ。唯一の例外と言えるのは、結びの一文だろう。結びの文は、本を閉じても読者のなかで響き続ける。】(引用終わり)と呼応しているのであって、そこは拘りポイントではない… また、続編の存在をチラ見せしているのではないか… など、特に気にならなかったという方が殆どであった事を付け加えておく。
もしも、まだ「二流小説家」を読んでいらっしゃらない方がおられたら、是非、最後の数行に注目して読んでいただき、是非、わたしにその意味を教えていただきたい。
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コメント
この物語の筆者はハリーを装ったダリアンでありましょう。しかもダリアンは母親のお蔭で釈放され、この物語を書いた。列車で川沿いに街へ向かったこと。これはダリアンが釈放された場面でしょう。シンシン刑務所はハドソン川沿いにあります。ダリアン処刑の場面はダリアンによるフィクションで、連続殺人犯(シリアルキラー)は野に放たれ、今後も作品(殺人)を続けるのでしょう。いかがでしょうか。この解釈は。
投稿: 出淵 | 2013年9月 6日 21時34分