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2012年9月 3日

湊かなえの「花の鎖」はスティーグ・ラーソンの影響を!?

「花の鎖」 さて、今日は全ての事象は翻訳小説の影響を受けている、と言うホンヤクモンスキーの妄想的エントリー。

今日、俎上に乗せるのは、湊かなえの「花の鎖」

「花の鎖」
著者:湊かなえ
出版社:文藝春秋
初版発行日:2011年3月10日

毎年届く謎の花束
差出人のイニシャルは「K」
花の記憶がつないでいく三人の女の哀しい物語

梨花は悩んでいた。
両親を亡くし、祖母もガンで入院。追い討ちをかけるように、講師をしていた英会話スクールが倒産。お金がない、どうしよう。

美雪は、満ち足りていた。
伯父のすすめで見合いをした相手が、ずっと憧れていた営業職の和哉だった。幸せな結婚。あの人に尽くしたい。

紗月は戸惑っていた。
水彩画教室の講師をしつつ、和菓子屋のバイトをする毎日。そんなとき、届いた大学時代の友人からの手紙。忘れていた心の傷が、うずきはじめた。

さて、ここからが今日の本題。
湊かなえの「花の鎖」のどの辺がスティーグ・ラーソンなのか。

もう、わたしがどのような妄想をしているのかは既にお判りだと思うのだが、お約束通りスティーグ・ラーソンの「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」の冒頭部分を引用する。

いまやそれは毎年恒例となっていた。花の受取人はこの日、八十二歳の誕生日を迎えた。包みを開け、プレゼント用の包装を解く。それから受話器を手にとると、引退してダーラナ地方のシリヤン湖近くに住んでいる元警部の番号にかけた。(中略)元警部は郵便が配達される午前十時ごろには電話が来るだろうと考え、コーヒーを飲みながら待っていた。今年、電話は十時三十分に鳴った。警部は受話器をとると、名乗りもせずに、おはよう、とだけ言った。
「例のものが届いたよ」
「今年は何の花だ?」
「見当もつかん。調べさせるよ。白い花だ」
「やはり手紙はなしか?」
「うむ。花のほかは何もない。額は去年と同じ。安物の、自分で組み立てるたぐいの額だ」
「消印は?」
「ストックホルム」
「筆跡は?」
「いつもどおり、全部大文字で書いてある。傾きのないていねいな字だ」

(中略)
しかも、謎の花はこれだけではなかった。毎年十一月一日になると、大きなクッション封筒で謎めいた花が届いた。年によって書類が違ったが、どれも美しく、たいていは珍しい花だった。

ご覧のように、スティーグ・ラーソンの「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」の物語は、毎年送り主不明の謎の花がある老人の元へ届けられるところから始まる。

一方、湊かなえの「花の鎖」では、亡き母あてに、「Kより」と書かれたカードと共に毎年花束が届く。

これは偶然なのだろうか。ホンヤクモンスキーの妄想としては、湊かなえの「花の鎖」はスティーグ・ラーソンの「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」の影響を受けていると思えてならない。

まあ、妄想はここまで。

さて、湊かなえの「花の鎖」ですが、大変面白いミステリー小説に仕上がっていました。

物語は前述のように、3人の女性が主人公。ひとつの章ごとに3人の女性の語りが繰り返され、物語を奏でつつ、その断片的な情報から大きな絵を紐解いて行く、と言うような感じ。

物語の構成上、ミスデレクションが多いし、当然ながらイニシャルに「K」を持つキャラクターもどんどん登場するし、3人の物語の時制が異なっているのは当り前なのですが、その時制を推測する手がかりが少なく、五里霧中になりがちなのですが、少しずつ物語の全容が見えてくる様子が、山登りにも似たような感じで非常に面白かったです。登山道から稜線に出る感じで。

そして「花の鎖」と言うタイトルも素晴らしい。
文字通り
「花の鎖」に雁字搦めに搦めとられた3人の女性の人生が哀しくも美しい。

そしてもうひとつ興味深かったのは、地元の商店街にある和菓子屋『梅香堂』と花屋『山本生花店』の使い方が巧いこと。

映画で例えるならば、〈グランドホテル形式〉に則った作品のクライマックスにおいて、全ての登場人物の行動が繋がるキーとして、和菓子屋と花屋が機能している。

勿論、それ以外にも、美術館であったり、山小屋であったり、物語のキャラクターを収束させ、ひとつの感動を与えるキーとなる場所はいろいろと登場するのだが、その中でも『梅香堂』の、そして〈きんつば〉の存在感は群を抜いている。

ところで、一読して感じたのは、「花の鎖」は貫井徳郎の「慟哭」の構成に似ているな、と言う事。例えるならば「慟哭」が2なら「花の鎖」は3だな、とか。

そしてもうひとつ感じたのは、「花の鎖」は、スチュアート・ウッズの「警察署長」なのかな、と言う事。こんな構成の物語にわたしは弱いようですね。

あとは、「花の鎖」の途中までは、もしかしたら乾くるみの「イニシエーション・ラブ」の方向性かな、とも思いました。

少なくとも「花の鎖」は、登場人物の〈相関図〉を楽しみながら描きたくなる小説でしたね。

ところで、この「花の鎖」は、2012年3月10日が初版発行日で、元々は東日本大震災の直後の日程で、湊かなえのサイン会が予定されていましたが、諸般の都合でサイン会が中止となった作品です。

そんな訳でわたしの「花の鎖」にはこんなカードが入っています。

湊かなえのサイン入り「花の鎖」

感慨深いものがありますね。

@tkr2000
@honyakmonsky

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