カテゴリー「ジョージ・A・エフィンガー」の1件の記事

2016年6月27日

「猿の惑星」をめぐる冒険

「猿の惑星」
故あって、ピエール・ブールの「猿の惑星」(1963)を読んだ。

わたしの「猿の惑星」(創元推理文庫)は、1975年6月の28版で価格は220円。と言う事は、わたしは「猿の惑星」をずっと前に買ったものの全然読んでいなかったことになる。

《アラン・バートン、ピート・バーグ、そしてゲイランの三人は、苦難に満ちた逃亡の道を歩き始める。 だが、三人の行く手には、必ず何かが待ち受けている。 ここは、猿の惑星なのだ》のナレーションでおなじみのテレビシリーズ「猿の惑星」のジョージ・A・エフィンガーのノベライズは「逃亡者人間」「明日への脱出」「疫病をやっつけろ」は読んでいるのだが、そもそものピエール・ブールの「猿の惑星」は恥ずかしながら読んだことがなかったのだ。

一読して驚いた。
「猿の惑星」に登場する猿たちは、知的で文化的な生活をおくっており科学水準も人類を凌駕しているのだ。

と言うのも、「猿の惑星」の物語の中盤以降、人工衛星(猿工衛星)に動物(人間)を乗せる計画が語られるところを見ると、われわれ人類の文明レベルと比較すると、ライカ犬を乗せたスプートニク2号が打ち上げられたのが1957年であるから、「猿の惑星」における猿たちは、おそらく1950〜1960年代の人類と同程度の文明レベルだと推測する事が出来る。

なぜこんな話をしているのかと言うと、どうしても映画「猿の惑星」(1968)と比較してしまう自分がいるのだ。

映画「猿の惑星」で描かれた猿たちは、ライフル銃を使ってはいるものの、洞窟のようなものの中で暮らしているところを見ると、人類における中世(5〜16世紀)の文明レベルのような印象を受け、猿は猿なりに文化的な生活をおくっているものの、暴力と権力がニアリーイコールな世界。そんな猿たちが支配階級にいる、比較的野蛮な世界観を観客に与えてしまっているのだ。

また、興味深いのはチャールトン・ヘストン演じる宇宙飛行士テイラー大佐もどちらかと言うと野蛮な人物として描かれている。

映画「猿の惑星」は、野蛮な猿の世界に投げ込まれた野蛮な人間テイラー、と言う構造を持っているのだ。

それと比較すると小説「猿の惑星」に登場する猿たちの文化的で科学的な姿には愕然とする。

もっとも、本作「猿の惑星」が文明批判をしている以上、物語構造上、猿が野蛮であってはいけないのである。

残念ながら映画「猿の惑星」はそのあたりについて配慮が足りないと言わざるを得ない。もちろんそのあたりについて意図的である可能性は高いが。

個人的には映画「猿の惑星」は映画史に残る素晴らしい作品だと思っているが、原作と比較すると残念な気持ちがする。

おそらくだが制作者サイドは、意図的に知的なアメリカより、強いアメリカに舵をきったのではないか、と思えてならない。これは1968年と言う時代背景がそうさせている可能性が高い。

また、もう一点興味深いのは、本作「猿の惑星」の物語の構造は、所謂ブックエンド形式で、かつ叙述トリックが採用されている点である。

物語の冒頭、レジャーとして恒星間旅行を楽しんでいる2人の恋人たちが、その旅行中に宇宙空間を漂うひとつの瓶を見つけ、その中に、われわれが知っている「猿の惑星」の物語を記した手記が入っていた、と言う構造を持っているのだ。

そこでは、映画「猿の惑星」に存在する《英語問題》について、登場人物の1人が地球に留学していた経験があるため、地球の言語をマスターしている、と言う設定で物語が描かれている。そして2人の恋人たちの一方が、他方に「猿の惑星」の手記を読み聞かせる、と言う構造をもっているのだ。

そしておそらくだが、小説「猿の惑星」における地球の言語は、英語ではなくフランス語だと考えることができ、その場合、この小説がフランス語で書かれている点に大きな意義を感じる。

つまり、「猿の惑星」の物語では、地球の共通言語は英語から、何らかの事由でフランス語に変わっている、と言う背景を読み取る事ができる。

これは「猿の惑星」の物語にとって大きな意義がある。

また叙述トリックの内容については、趣向を削ぐので解説はしないが、エピローグにあたる部分で非常に興味深い描写が楽しめる。

尤も、「猿の惑星」が採用している叙述トリックは、レベルとしてはあなり高度ではなく、注意深い読者なら早いタイミングで、もしや、と思うと考える。

そんな訳で本作「猿の惑星」は、今読んでも大変面白く、大変興味深く、いろいろと考えさせる作品だと言える。

今更だが、関心がある方は是非、ご一読いただきたい。

@tkr2000
@honyakmonsky

| | コメント (0) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

A・E・ヴァン・ヴォークト C・S・ルイス E・E・スミス E・L・ジェームズ F・スコット・フィッツジェラルド Gary L. Stewart H・G・ウェルズ J・D・サリンジャー J・G・バラード J・K・ローリング J・R・R・トールキン Matthew De Abaitua P・D・ジェームズ P・G・ウッドハウス S・J・ボルトン S・S・ヴァン・ダイン ■SF ■コメディ ■ノンフィクション ■ファンタジー ■ホラー ■ミステリー ■児童書 ■冒険小説 ■叙事詩 ■幻想 ■文芸 ■漫画 ■美術 ■詩歌 ●tkr ●unyue 「ピパの唄」 はじめに アイザック・アシモフ アイラ・レヴィン アガサ・クリスティ アゴタ・クリストフ アニメーション アラン・グレン アルフォンス・ドーテ アルフレッド・ウーリー アルフレッド・ベスター アンソニー・ドーア アンソニー・バージェス アンディ・ウィアー アントニイ・バークリー アンネ・フランク アン・ライス アーサー・C・クラーク アーサー・コナン・ドイル アーナルデュル・インドリダソン アーネスト・ヘミングウェイ イアン・フレミング イアン・マクドナルド イーユン・リー ウィリアム・ギブスン ウィリアム・シェイクスピア ウィリアム・ピーター・ブラッティ ウィリアム・ボイド ウィリアム・リンク ウォルター・ウェイジャー ウラジミール・ソローキン エドガー・アラン・ポー エドガー・ライス・バローズ エドワード・D・ホック エド・ファルコ エマ・ドナヒュー エミリー・ブロンテ エラリー・クイーン エリザベス・ビショップ エリック・シーガル エルモア・レナード オースン・スコット・カード カズオ・イシグロ カレル・チャペック カート・ヴォネガット カート・ヴォネガット・ジュニア ガレス・L・パウエル キャロル・オコンネル ギャビン・ライアル ギレルモ・デル・トロ クリストファー・プリースト グレアム・グリーン ケイト・アトキンソン ケイト・モートン ケン・キージー コニー・ウィリス コーマック・マッカーシー サルバドール・プラセンシア シャルル・ボードレール シャーロット・ブロンテ ジェイムズ・P・ホーガン ジェイムズ・エルロイ ジェイン・オースティン ジェニファー・イーガン ジェフリー・ディーヴァー ジェフ・キニー ジェラルディン ・ブルックス ジェームズ・クラベル ジェームズ・パターソン ジェームズ・マクティーグ ジム・トンプスン ジャック・ケッチャム ジャック・フィニィ ジャック・フットレル ジャネット・イバノビッチ ジュディ・ダットン ジュール・ヴェルヌ ジョイス・キャロル・オーツ ジョナサン・キャロル ジョナサン・サフラン・フォア ジョナサン・フランゼン ジョン・クリストファー ジョン・グリシャム ジョン・スコルジー ジョン・スラデック ジョン・ル・カレ ジョン・W・キャンベル・ジュニア ジョージ・A・エフィンガー ジョージ・オーウェル ジョージ・ルーカス ジョーゼフ・キャンベル ジョーン・G・ロビンソン ジョー・ヒル ジル・マーフィ ジーン・ヘグランド スコット・ウエスターフェルド スコット・スミス スコット・トゥロー スタンリー・キューブリック スティーグ・ラーソン スティーヴン・キング スティーヴ・ハミルトン スーザン・D・ムスタファ スーザン・オーリアン スーザン・コリンズ スーザン・ヒル セス・グレアム=スミス ダグラス・アダムス ダシール・ハメット ダニエル・キイス ダニエル・スティール ダフネ・デュ・モーリア ダンテ・アリギエーリ ダン・ブラウン チャイナ・ミエヴィル チャック・ホーガン チャールズ・M・シュルツ チャールズ・ディケンズ テオ・オブレヒト テレビムービー ディミトリ・フェルフルスト ディーン・クーンツ デイヴィッド・ゴードン デイヴィッド・ピース デイヴィッド・ホックニー デイヴィッド・ミッチェル デニス・ルヘイン デヴィッド・セルツァー トマス・H・クック トマス・ハリス トマス・ピンチョン トム・クランシー トム・ロブ・スミス トーベ・ヤンソン トーマス・マン ドナルド・E・ウェストレイク ドン・ウィンズロウ ナーダシュ・ペーテル ニール・スティーヴンスン ネビル・シュート ネレ・ノイハウス ノーマン・メイラー ノーラ・ロバーツ ハリイ・ケメルマン ハワード・フィリップス・ラヴクラフト ハンナ・ジェイミスン ハーマン・メルヴィル バルガス=リョサ バーナード・マラマッド パオロ・バチガルピ パトリシア・ハイスミス ビバリー・クリアリー ビル・S・バリンジャー ピエール・ブール フィリップ・K・ディック フィリップ・プルマン フィリップ・ロス フェルディナント・フォン・シーラッハ フランク・ハーバート フランツ・カフカ フリオ・リャマサーレス フリードリヒ・ニーチェ フレデリック・フォーサイス フレドリック・ブラウン ブライアン・セルズニック ブラム・ストーカー ホンヤクモンスキー ホンヤクモンスキーの憂鬱 ポール・オースター マイクル・コナリー マイケル・クライトン マイケル・コックス マザー・グース マックス・バリー マックス・ブルックス マック・レナルズ マリオ・バルガス=リョサ マリオ・プーゾ マーセル・セロー マーティン・スコセッシ メアリー・シェリー モーパッサン ヤン・マーテル ユッシ・エーズラ・オールスン ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト ライオネル・シュライバー ライマン・フランク・ボーム ライヤード・キップリング ラジオ ラッキー・マッキー ラムジー・キャンベル リチャード・スターク リチャード・バック リチャード・マシスン リチャード・レビンソン リー・チャイルド ルイス・キャロル ルシアン・ネイハム レイモンド・チャンドラー レイ・ブラッドベリ レオ・ペルッツ レビュー ロアルド・ダール ロバート・A・ハインライン ロバート・B・パーカー ロバート・ブラウニング ロバート・ラドラム ロベルト・ポラーニョ ローレンス・ブロック ヴィクトル・ユーゴー 吾妻ひでお 図書館 手塚治虫 文学賞 映画 村上春樹 栗本薫 池井戸潤 湊かなえ 瀬名秀明 竹本泉 米澤穂信 翻訳作品の影響 舞台 董啓章 読書会 貫井徳郎 越前敏弥 黒史郎