カテゴリー「■ミステリー」の158件の記事

2021年6月26日

ジョー・ヒルのチャリティイベントがすごい

Photo_20210626210901
2021年6月17日にハーパーコリンズ・ジャパンから短篇集「怪奇疾走」が発売されたばかりのジョー・ヒルだが、彼がスケルトン・クルー・スタジオ(Skelton Crew Studio)と行なっているチャリティイベントがすごい。

現在のところ、全74種類のジョー・ヒルのサイン本がチャリティイベントの一環として販売されている模様。

なお、このチャリティイベントでは収益の100%が、Redfearn Hill Charity Fundに寄付され、教育、環境、社会等のさまざまな用途に資金を提供する模様。

Skelton Crew Studio LLC Joe Hill Charity Event 

スケルトン・クルー・スタジオのジョー・ヒルのチャリティイベントのページ

JOE HILL 2021 CHARITY EVENT 8: SIGNED FULL THROTTLE PB 

ジョー・ヒルの「怪奇疾走("FULL THROTTLE")」のペーパーバックのチャリティイベントのページ。

Photo_20210626210301
驚いたことに、「ファイアマン(下)」(小学館文庫)のサイン本まで販売されている。

なお、日本国内でもジョー・ヒルのサイン本を購入することが出来るが支払いはPayPalのみ。

| | コメント (0)

2020年11月28日

なんとシャーリイ・ジャクスン原作の「ずっとお城で暮らしてる」はWOWOWストレート

日本公開が待たれていたシャーリイ・ジャクスン原作の映画「ずっとお城で暮らしてる」(2019)だが、なんと劇場公開されずWOWOWストレートになってしまった模様。

「ずっとお城で暮らしてる」
監督:ステイシー・パッソン
製作:ジャレッド・ゴールドマン、ロバート・ミタス
原作:シャーリイ・ジャクスン
脚本:マーク・クルーガー
出演:タイッサ・ファーミガ(メリキャット)、アレクサンドラ・ダダリオ(コンスタンス)、クリスピン・グローヴァー(ジュリアン)、セバスチャン・スタン(チャールズ)

あらすじ:地方にある大きな屋敷。18歳のメリキャットは6年前ヒ素を盛って両親などの家族を殺したと思われている姉コンスタンスを愛し、事件以来車いすに乗るようになった伯父ジュリアンと3人で暮らしている。姉妹は同じ村の住民たちからは忌み嫌われているが、メリキャットは魔法を信じることで現実逃避をしがちだった。ある日いとこのチャールズが屋敷を訪れしばらく滞在することになった。コンスタンスは彼と親しくなっていくが・・・・。

シャーリイ・ジャクスンの「ずっとお城で暮らしてる」は日本国内でもカルト的な人気を誇る作品なだけに劇場公開されないのは非常に残念だが、昨今の新型コロナウィルスの影響を考えると、劇場公開はともかく、日本国内で放送されることだけでも幸運だと考えるべきなのかも知れない。

今回の「ずっとお城で暮らしてる」 だが予告編を観る限り、姉妹の年齢層が少し高く見えるような印象を受ける。

WOWOWでの放送予定は次の通り。

2021年1月28日(木)21:00 WOWOWシネマ 日本国内初放送

 

| | コメント (0)

2020年10月 4日

創元推理文庫の名作ミステリ新訳プロジェクトでフレドリック・ブラウンの「シカゴ・ブルース」が!

Fabulousclipjoint
2020年9月30日 創元推理文庫の名作ミステリ新訳プロジェクトの一冊としてフレドリック・ブラウンの「シカゴ・ブルース」が刊行された。

「シカゴ・ブルース」
著者:フレドリック・ブラウン
訳者:高山真由美
装画:安藤巨樹
出版:東京創元社 創元推理文庫刊

内容紹介:シカゴの路地裏で父を殺された18歳のエドは、おじのアンブローズとともに犯人を追うと決めた。移動遊園地(カーニバル)で働く変わり者のおじは刑事とも対等に渡り合い、雲をつかむような事件の手がかりを少しずつ集めていく。エドは父の知られざる過去に触れるが──。少年から大人へと成長する過程を描いた巨匠の名作を、清々しい新訳で贈る。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作。 解説=杉江松恋

海外小説ファンの中には、その読書人生の冒頭にフレドリック・ブラウン作品があった人が多いと思う。

かく言うわたしも例外ではなく、わたしの読書人生が始まった頃、フレドリック・ブラウンのSFやミステリーをよく読んでいた。わたしのブラウンとの出会いは小学5年生の頃だと思う、当時気になっていた女の子に「天使と宇宙船」「SFカーニバル」を借りて読んだのが初めてだった

そこから小遣いをためてはフレドリック・ブラウンのSF短編集を皮切りに、SFだけではなくミステリーに触手を伸ばして行ったのを覚えている。20201004-130822

そのフレドリック・ブラウンのミステリーの代表作の一つが「シカゴ・ブルース」(1947)である。

手元には写真の通りSFしかないのだが、わたしが読んだのは、実家のどこかにあると思うが、1971年に創元推理文庫に入った青田勝訳の「シカゴ・ブルース」だった。

わたしの読書人生のスタート地点に存在した1947年作品「シカゴ・ブルース」が、いま時を経て2020年に高山真由美の新訳で読めるとは、なんとも感慨深い。

本書の解説は杉江松恋。

その解説の冒頭の一文に様々な思いが去来する。 

これは、エド・ハンターがトロンボーンを手に入れるまでの物語である。

こんな解説の一文に泣かされてどうするのだ。

| | コメント (0)

2020年5月 8日

「魔界探偵ゴーゴリ」

Photo_20200508100601

ロシア国内興収No.1の映画「魔界探偵ゴーゴリ」三部作を観た。

  • 「魔界探偵ゴーゴリ」三部作とは、ロシアの文豪ニコライ・ゴーゴリがダークヒーローとなり難事件に挑むミステリーで、ロシア版シャーロック・ホームズ×ハリー・ポッターともいわれている。

    「魔界探偵ゴーゴリ 暗黒の騎士と生け贄の美女たち」(2017)
    「魔界探偵ゴーゴリⅡ 魔女の呪いと妖怪ヴィーの召喚」(2018)
    「魔界探偵ゴーゴリⅢ 蘇りし者たちと最後の戦い」(2018)

監督:イゴール・バラノフ
出演:アレクサンダー・ペトロフ(ゴーゴリ)、オレグ・メンシコフ(グロー)、ユリア・フランツ(オクサーナ)、セルゲイ・バディク(ヴァクーラ)、イフゲニー・スティチキン(ビンク)、アルチョム・トカチェンコ(ダニシェヴェスキー伯爵)、タイーシャ・ヴィルコヴァ(リザ)

1829年、サンクトペテルブルク。
駆け出しの作家ニコライ・ゴーゴリは腕の立つ探偵グローと知り合い、2人は若い美女だけが狙われる連続猟奇殺人事件の捜査の為にウクライナの小さな村、ディカーニカへ出発する。
探偵グローは2つの理由からゴーゴリを同伴者として選んでいた。1つはゴーゴリがディカーニカの近くで生まれ土地勘を持っていたこと、もう1つはゴーゴリが神秘な力を持ち、異世界の者と繋がることができたから。ゴーゴリは自分でもコントロールができない悪夢の力によって、容疑者として浮かび上がった“黒騎士” と事件の真相に近づいていく。そして自分が何者なのか、起源を明らかにしていくが・・・・。

先ず驚いたのは、物語の基本プロットは探偵グローと記録官吏ゴーゴリのバディものなのだが、その二人の吹替えがBBCの「SHERLOCK(シャーロック)の吹替えと同様の森川智之(ゴーゴリ)、三上哲(グロー)で、しかもスコアもBBCの「SHERLOCK」の雰囲気を踏襲していると思われ、かつゴーゴリやグローと警察署長ビンクとの掛け合いも「SHERLOCK」の雰囲気を醸し出している。

もちろん「魔界探偵ゴーゴリ」はBBCの「SHERLOCK」を意識しているのだとは思うが、その手法に全く違和感がなくおそらく日本のファンの中には「魔界探偵ゴーゴリ」「SHERLOCK」の二次創作のような印象で受け取っているファンもいるのではないか、と思える。

またキャラクターも見事にキャラ立ちしており、ゴーゴリの文学というメインカルチャーの文脈ではなくサブカルチャーとしての文脈やライトノベル、中二病的な感覚も感じられる。

このあたりと本作「魔界探偵ゴーゴリ」三部作の今後の行く末を考えると「文豪ストレイドッグス」の方向性も見えてきている。

また物語の構成としては、まあ想定内だが本作「魔界探偵ゴーゴリ」三部作は、ニコライ・ゴーゴリの様々な実在の著作からの引用や言及が頻繁に行われている。

例えば冒頭では、ゴーゴリがV・アロフ名義で自費出版したガンツ・キュヘリガルテン」を回収し焼き捨てるシーンがあったり、中盤以降には「鼻」のない男が出てきたり、本筋とは関係ないが「外套」を修理しようとしているエピソードが語られ、また「魔界探偵ゴーゴリⅡ 魔女の呪いと妖怪ヴィーの召喚」 ではタイトルにもなっている通り「ヴィー」の有名なシークエンスがそのまま引用されている。

もちろん「魔界探偵ゴーゴリ」三部作の舞台となるのはディカーニカであり 「ディカーニカ近郷夜話」からの引用も多く、驚いたことに今回の事件を基に著されたと思われる短篇集「ディカーニカ近郷夜話」の朗読会サイン会を実施している描写まである。

これは逆説的にこの「魔界探偵ゴーゴリ」事件の経験がゴーゴリが著作を著す原因になっている、という構造も楽しめる。

さて本作だが、前述の通り物語の基本プロットは、サンクトペテルブルクの著名な探偵グローと駆け出しの作家の記録官吏ゴーゴリが小さな村ディカーニカで起きている超自然的な連続猟奇殺人事件を捜査する、と言う物語だが、それにリアリティを付与する美術が大変素晴らしい。

キャストについてはロシア人俳優についてはあまり詳しくないのだが、ゴーゴリにしろグローにしろビンクにしろ脚本も相まってかキャラ立ちが顕著なのが興味深い。

また、ホームズとワトソンに対比するキャラクターは本作ではグローとゴーゴリなのだが、主役はグローではなくあくまでもゴーゴリであり、今後の物語の行く末を考えた場合のグローとゴーゴリの関係性が非常に興味深い。

関心がある方は是非!

特にゴーゴリの著作好きの方、BBCの「SHERLOCK」好きの方へ。

余談だが、ゴーゴリの外見はゴーゴリの肖像画に寄せている。

Photo_20200508140001
ニコライ・ゴーゴリの肖像(F.A.モレル筆・1841年)

Photo_20200508140002
ゴーゴリ(左)とグロー(右)

 

 

 

 

| | コメント (0)

2016年8月 6日

「ガール・セヴン」の日本向けプロモーションが凄い

2016年8月5日に公開された「ガール・セヴン」の日本向けのプロモーション映像が凄い。

『ガール・セヴン』(文春文庫) 著者ハンナ・ジェイミスンによるビデオクリップ

手本があるとは言え、英語圏の人がこんなにたくさんの日本語を一気に書くのは大変だと思いますね。

もちろん日本を題材にした作品なので著者のハンナ・ジェイミスンは日本に関する造詣は深いとは思いますが。

「ガール・セヴン」
著者:ハンナ・ジェイミスン
訳者:高山真由美
出版社:文藝春秋(文春文庫刊)

私は必ず日本に帰ってみせる。石田清美、21歳。家族を何者かに惨殺され、ロンドンの底で生きている。そこに飄々とした冷血の殺し屋マークがやってきた。僕が君の家族を殺した人間を探してみようかとマークは言うが―暗黒街からの脱出を願う清美の必死の苦闘を描き切る鋭利なる文体。徹頭徹尾、女子が女子を書いたノワール。

で、このプロモーション映像制作の背景には、こんな流れが。

そんな「ガール・セヴン」は文春文庫から絶賛発売中。

@tkr2000
@honyakmonsky

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年7月25日

「羊たちの沈黙」も「指輪物語」の影響を!?

まずはこちらを観ていただきたい。
映画「羊たちの沈黙」のクライマックスシーンである。

The Silence of the Lambs (11/12) Movie CLIP - Pitch Black (1991) HD 

なぜ、トマス・ハリスの「羊たちの沈黙」に登場するバッファロー・ビルは暗視ゴーグルをつけているのか。

これに関するヒントは、バッファロー・ビルが飼っている犬の名前にある。

犬の名前は "Precious" 菊池光訳の「羊たちの沈黙」では "Precious" は、"可愛い子ちゃん" と訳出されている。

では一体 "Precious" とは何か。

「指輪物語」における "いとしいしと" つまり "一つの指輪" のことである。
実際は、"my precioussss" だが。

つまり、バッファロー・ビルは、 "Precious" こと "一つの指輪" の力で、クラリス・スターリングの前から "暗視ゴーグル" を使う事により、相対的に姿を消すことが出来るのだ。

いかがだろう。ガッテンしていただけただろうか。

なお、手元には、高見浩の新訳「羊たちの沈黙」がないので、新訳版の "Precious" の訳語は確認しておりません。念の為。

@tkr2000
@honyakmonsky

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年6月27日

「猿の惑星」をめぐる冒険

「猿の惑星」
故あって、ピエール・ブールの「猿の惑星」(1963)を読んだ。

わたしの「猿の惑星」(創元推理文庫)は、1975年6月の28版で価格は220円。と言う事は、わたしは「猿の惑星」をずっと前に買ったものの全然読んでいなかったことになる。

《アラン・バートン、ピート・バーグ、そしてゲイランの三人は、苦難に満ちた逃亡の道を歩き始める。 だが、三人の行く手には、必ず何かが待ち受けている。 ここは、猿の惑星なのだ》のナレーションでおなじみのテレビシリーズ「猿の惑星」のジョージ・A・エフィンガーのノベライズは「逃亡者人間」「明日への脱出」「疫病をやっつけろ」は読んでいるのだが、そもそものピエール・ブールの「猿の惑星」は恥ずかしながら読んだことがなかったのだ。

一読して驚いた。
「猿の惑星」に登場する猿たちは、知的で文化的な生活をおくっており科学水準も人類を凌駕しているのだ。

と言うのも、「猿の惑星」の物語の中盤以降、人工衛星(猿工衛星)に動物(人間)を乗せる計画が語られるところを見ると、われわれ人類の文明レベルと比較すると、ライカ犬を乗せたスプートニク2号が打ち上げられたのが1957年であるから、「猿の惑星」における猿たちは、おそらく1950〜1960年代の人類と同程度の文明レベルだと推測する事が出来る。

なぜこんな話をしているのかと言うと、どうしても映画「猿の惑星」(1968)と比較してしまう自分がいるのだ。

映画「猿の惑星」で描かれた猿たちは、ライフル銃を使ってはいるものの、洞窟のようなものの中で暮らしているところを見ると、人類における中世(5〜16世紀)の文明レベルのような印象を受け、猿は猿なりに文化的な生活をおくっているものの、暴力と権力がニアリーイコールな世界。そんな猿たちが支配階級にいる、比較的野蛮な世界観を観客に与えてしまっているのだ。

また、興味深いのはチャールトン・ヘストン演じる宇宙飛行士テイラー大佐もどちらかと言うと野蛮な人物として描かれている。

映画「猿の惑星」は、野蛮な猿の世界に投げ込まれた野蛮な人間テイラー、と言う構造を持っているのだ。

それと比較すると小説「猿の惑星」に登場する猿たちの文化的で科学的な姿には愕然とする。

もっとも、本作「猿の惑星」が文明批判をしている以上、物語構造上、猿が野蛮であってはいけないのである。

残念ながら映画「猿の惑星」はそのあたりについて配慮が足りないと言わざるを得ない。もちろんそのあたりについて意図的である可能性は高いが。

個人的には映画「猿の惑星」は映画史に残る素晴らしい作品だと思っているが、原作と比較すると残念な気持ちがする。

おそらくだが制作者サイドは、意図的に知的なアメリカより、強いアメリカに舵をきったのではないか、と思えてならない。これは1968年と言う時代背景がそうさせている可能性が高い。

また、もう一点興味深いのは、本作「猿の惑星」の物語の構造は、所謂ブックエンド形式で、かつ叙述トリックが採用されている点である。

物語の冒頭、レジャーとして恒星間旅行を楽しんでいる2人の恋人たちが、その旅行中に宇宙空間を漂うひとつの瓶を見つけ、その中に、われわれが知っている「猿の惑星」の物語を記した手記が入っていた、と言う構造を持っているのだ。

そこでは、映画「猿の惑星」に存在する《英語問題》について、登場人物の1人が地球に留学していた経験があるため、地球の言語をマスターしている、と言う設定で物語が描かれている。そして2人の恋人たちの一方が、他方に「猿の惑星」の手記を読み聞かせる、と言う構造をもっているのだ。

そしておそらくだが、小説「猿の惑星」における地球の言語は、英語ではなくフランス語だと考えることができ、その場合、この小説がフランス語で書かれている点に大きな意義を感じる。

つまり、「猿の惑星」の物語では、地球の共通言語は英語から、何らかの事由でフランス語に変わっている、と言う背景を読み取る事ができる。

これは「猿の惑星」の物語にとって大きな意義がある。

また叙述トリックの内容については、趣向を削ぐので解説はしないが、エピローグにあたる部分で非常に興味深い描写が楽しめる。

尤も、「猿の惑星」が採用している叙述トリックは、レベルとしてはあなり高度ではなく、注意深い読者なら早いタイミングで、もしや、と思うと考える。

そんな訳で本作「猿の惑星」は、今読んでも大変面白く、大変興味深く、いろいろと考えさせる作品だと言える。

今更だが、関心がある方は是非、ご一読いただきたい。

@tkr2000
@honyakmonsky

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年5月 8日

「ルーム ROOM」をめぐる冒険

2016年5月8日、エマ・ドナヒューの小説「部屋(上・下)」を映画化した「ルーム ROOM」を観た。

「ルーム ROOM」
監督:レニー・アブラハムソン
原作・脚本:エマ・ドナヒュー
出演:ブリー・ラーソン(ママ/ジョイ)、ジェイコブ・トレンブレイ(ジャック)、ジョーン・アレン(ばあば/ナンシー)、ウィリアム・H・メイシー(じいじ/ロバート)、トム・マッカムス(レオ)、ショーン・ブリジャー(オールド・ニック)

 5歳の誕生日を迎えたジャックは、狭い部屋に母親と2人で暮らしていた。外の景色は天窓から見える空だけ。母親からは部屋の外には何もないと教えられ、部屋の中が世界の全てだと信じていた。2人はある男によってこの部屋に監禁されていたのだった。

 しかし母親は真実を明かす決断をし、部屋の外には本物の広い世界があるのだとジャックに教える。そしてここから脱出するために、ついに行動を開始するのだったが・・・・。

本作「ルーム ROOM」は、非常にエモーショナルな素晴らしい作品に仕上がっている。作品が取り上げた題材、つまり少女の拉致・監禁事件は、現代的でセンセーショナルであり、その辺りに真っ向から勝負を挑んだ意欲的な作品である。

また原作者のエマ・ドナヒューが本作の脚本を担当し、米アカデミー賞脚本賞にノミネートされているのも興味深い。(脚本賞以外では、作品賞ノミネート、主演女優賞受賞、監督賞ノミネート)

キャストはジョイ役のブリー・ラーソン、ジャック役のジェイコブ・トレンブレイの天才ぶりに舌を巻くし、じいじ役のウィリアム・H・メイシーの登場に拍手喝采である。

17歳の娘が誘拐され暴行された事実を受け止められない父親の震えが悲しい。

そんな本作「ルーム」だが、理解する上でのヒントを少々。

◆オールド・ニック
 17歳のジョイを拉致・監禁した犯人のことをジョイとジャックはオールド・ニックと呼んでいる。オールド・ニック( Old Nick )は英語(口語)では《悪魔》を意味する。

 これは当然ながらジャックではなくジョイの考えであろう。

◆サムソン
 髪を伸ばしているジャックは、力の源は髪の毛にある、と考えており、母親のジョイもそれはサムソンのことだと理解している。

 わたしは最初は、ジャックがテレビでアニメーションを観ていたので、ハンナ・バーベラの「怪力サムソン」( "Young Samson and Goliath" )の影響かな、と思ったのだが、「怪力サムソン」は髪が長くはない。

 と言う事は、これは「旧約聖書」「士師記」「サムソンとデリラ」の物語の引用であろう。

 サムソンの物語をWikipediaより一部引用する。 

 イスラエルの民がペリシテ人に支配され、苦しめられていたころ、ダン族の男マノアの妻に主の使いがあらわれる。彼女は不妊であったが、子供が生まれることが告げられ、その子が誕生する以前からすでに神にささげられたもの(ナジル人)であるため次のことを守るよう告げられた。それはぶどう酒や強い飲み物を飲まないこと、汚れたものを一切食べないこと、そして生まれる子の頭にかみそりをあてないことの三つであった。神の使いはマノアと妻の前に再び姿をあらわし、同じ内容を繰り返した。こうして生まれた男の子がサムソンであった。

 サムソンは長じた後、あるペリシテ人の女性を妻に望み、彼女の住むティムナに向かった。その途上、主の霊がサムソンに降り、目の前に現れたライオンを子山羊を裂くように裂いた。ティムナの女との宴席で、サムソンはペリシテ人たちに謎かけをし、衣を賭けた。ペリシテ人は女から答えを聞きだし、サムソンに答えた。サムソンは主の霊が下ってアシュケロンで30人のペリシテ人を殺害してその衣を奪い、謎を解いたペリシテ人たちに渡した。ティムナの女の父はこの一件の後、娘をほかの男性に与えた。サムソンはこれを聞いて、300匹のジャッカルの尾を結んで、それぞれに一つずつ松明をむすびつけ、畑などペリシテ人の土地を焼き払った。ペリシテ人はその原因がティムナの父娘にあると考えて二人を殺したが、サムソンはこれにも報復してペリシテ人を打ちのめした。ペリシテ人は陣をしいてサムソンの引渡しを求め、ユダヤ人はこれに応じた。ペリシテ人はサムソンを縛り上げて連行したが、途中で主の霊が降ると縄が切れて縄目が落ち、サムソンはろばのあご骨をふるってペリシテ人1000人を打ち殺した。

 サムソンは二十年間、士師としてイスラエルを裁いた。その後、サムソンはソレクの谷に住むデリラという女性を愛するようになったため、ペリシテ人はデリラを利用してサムソンの力の秘密を探ろうとした。サムソンはなかなか秘密を教えなかったが、とうとう頭にかみそりをあててはいけないという秘密を話してしまう。デリラの密告によってサムソンは頭をそられて力を失い、ペリシテ人の手に落ちた。彼は目をえぐり出されてガザの牢で粉をひかされるようになった。

 ペリシテ人は集まって神ダゴンに感謝し、サムソンを引き出して見世物にしていた。しかしサムソンは神に祈って力を取り戻し、つながれていた二本の柱を倒して建物を倒壊させ、多くのペリシテ人を道連れにして死んだ。このとき道連れにしたペリシテ人はそれまでサムソンが殺した人数よりも多かったという。

ジャックはおそらくだが、産まれてからの5年間、一切髪を切っていないのだと推測することが出来る。

なぜなら髪を切ってしまうとその力が失われる、とジャックは信じているから。

サムソンはデリラのために捕らえられ、髪を剃られるが、監禁されている間に髪が伸び、神に祈る事により怪力を取り戻す。この辺りも「ルーム」に生かされている。

また、ジャックが母親ジョイの抜けた歯を持って、人生に立ち向かったのは、サムソンがロバのあごの骨を使ってペリシテ人を1000人殺したからである。

◆ジャックの父親は

本作「ルーム」の後半部分で、テレビの取材を受けるジョイがジャックの父親についてインタビューに答える。

この回答が「聖書」的には象徴的な印象を観客に与える事になる。

この点を考えると、ジョイはキリスト教的な背景を持ったキャラクターだと考える事が出来、それは両親であるロバートとナンシーの教育によるものだと推測することができる。

オールド・ニック、サムソン、非生物学的な処女懐胎、そんなキーワードを基に本作「ルーム」を解釈してはいかがだろうか。

@tkr2000
@honyakmonsky

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年2月 7日

「センター18」をめぐる冒険

センター18 ウィリアム・ピーター・ブラッティの「センター18」を読了した。

「エクソシスト」(1971)はともかく、2012年に翻訳が刊行された「ディミター」(2010)が素晴らしかったので「センター18」には期待をしていたのだが、あまりも薄い本だったので、おいおい大丈夫かよ、と思いながら読みはじめた。

「センター18」
著者:ウィリアム・ピーター・ブラッティ
訳者:大瀧啓裕
出版社:東京創元社

内容紹介:一九六〇年代後半、ヴェトナム戦争の時代。妄想に取りつかれた合衆国軍の将校たちは、仮病と疑われながら秘密収容所に送りこまれ、治療と研究の対象となっていた。最後の収容所となったセンター18には、元宇宙飛行士のカットショー大尉を始め、様々な強迫観念に囚われた兵士たちが収容されていた。

新たに配属された海兵隊の精神科医ハドスン・ケイン大佐は、収容者たちの話を聞き続ける中で、かつての患者が見ていた悪夢に繰り返し苛まれる── 館に蔓延する狂気と悪夢。そして〝奇蹟〟の顕現。『エクソシスト』の鬼才が贈る傑作。訳者あとがき=大瀧啓裕

「センター18」は小説なのだが戯曲のような印象を受ける。

物語の前半部分は、所謂精神病院の患者と医師が散文的に会話をしているだけで、あまり大きな出来事は起きない。

その会話は、精神病院を舞台とした多くの作品と同様に暗喩と引用に満ちている。

しかも、その引用されている固有名詞がわれわれが知っている固有名詞と少しずつ異なっているのだ。

これは後に、日本語の表記を英語の発音に近づけただけだ、と言うことがわかるのだが、わたしはこの手法から、この物語はわれわれが知っている世界と別の、つまりパラレルワールドか、異なった世界線上の物語なのだろうと想像しながら読んでしまった。

そちらの方向に意識が向いていたため、「センター18」の物語に素直に没入できなかったことが残念である。わざわざ一般的な日本語と異なる表記をするのは翻訳としてはいささか問題だと思った。

本作は翻訳でわずか175ページの作品だが、129ページあたりまでは、前述のような患者と医師の会話が続くのだが、129ページから物語の本質が見えてくる。

そこからは俄然面白くなって行く。

わずか175ページの物語だが、読了後もう一度最初から読みたくなる、そんな感じの小説である。

The Ninth Configuration 余談だが本作「センター18」("The Ninth Configuration")は、1966年の "Twinkle, Twinkle, "Killer" Kane" を書き直した作品らしく、1980年には "The Ninth Configuration" と言うタイトルで映画化もされている。制作・監督・脚本はウィリアム・ピーター・ブラッティ。

この "The Ninth Configuration" のポスターが格好いい。

これも機会があれば観てみたいと思う。

@tkr2000
@honyakmonsky

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年2月 6日

文庫本が高いです

先日のエントリー【ガレス・L・パウエル「ガンメタル・ゴースト」の装画を気に入る】で紹介したガレス・L・パウエル「ガンメタル・ゴースト」とロバート・A・ハインラインの新訳版「宇宙の戦士」を購入しようとして書店の会計でびっくりした。

なんと文庫本2冊で2,484円もするのだ。

本を買う際に価格を確認しないわたしも悪いのだが、文庫本2冊で2,500円弱とは驚きである。

どっちが高いのかなと思い、ここで初めて価格を確認するわたしだったが、「ガンメタル・ゴースト」が税抜1,300円、税込1,404円でガレス・L・パウエルに軍配が上がった。

わたしは本を買う際に、あまり価格を確認しない方だし、本は高いとは思わない方なのだが、さすがにこれには驚いた。

ちょっと前に買ったウィリアム・ピーター・ブラッディの「センター18」は極薄のハードカバーで税抜1,700円、税込1,836円なので、もう文庫本とハードカバーの本は似たような価格帯になってきているのだ。

どうせなら「ガンメタル・ゴースト」もシリーズ全訳前提でハードカバーで出せば良かったのにな、と思ってしまう。

おっさんの読書離れも進むよね。

@tkr2000
@honyakmonsky

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

A・E・ヴァン・ヴォークト C・S・ルイス E・E・スミス E・L・ジェームズ F・スコット・フィッツジェラルド Gary L. Stewart H・G・ウェルズ J・D・サリンジャー J・G・バラード J・K・ローリング J・R・R・トールキン Matthew De Abaitua P・D・ジェームズ P・G・ウッドハウス S・J・ボルトン S・S・ヴァン・ダイン ■SF ■コメディ ■ノンフィクション ■ファンタジー ■ホラー ■ミステリー ■児童書 ■冒険小説 ■叙事詩 ■幻想 ■文芸 ■漫画 ■美術 ■詩歌 ●tkr ●unyue 「ピパの唄」 はじめに アイザック・アシモフ アイラ・レヴィン アガサ・クリスティ アゴタ・クリストフ アニメーション アラン・グレン アルフォンス・ドーテ アルフレッド・ウーリー アルフレッド・ベスター アンソニー・ドーア アンソニー・バージェス アンディ・ウィアー アンデルセン アントニイ・バークリー アンネ・フランク アン・ライス アーサー・C・クラーク アーサー・コナン・ドイル アーナルデュル・インドリダソン アーネスト・ヘミングウェイ イアン・フレミング イアン・マクドナルド イーユン・リー ウィリアム・ギブスン ウィリアム・シェイクスピア ウィリアム・ピーター・ブラッティ ウィリアム・ボイド ウィリアム・リンク ウォルター・ウェイジャー ウォルター・テヴィス ウラジミール・ソローキン エドガー・アラン・ポー エドガー・ライス・バローズ エドワード・D・ホック エド・ファルコ エマ・ドナヒュー エミリー・ブロンテ エラリー・クイーン エリザベス・ビショップ エリック・シーガル エルモア・レナード オースン・スコット・カード カズオ・イシグロ カレル・チャペック カート・ヴォネガット カート・ヴォネガット・ジュニア ガレス・L・パウエル キャロル・オコンネル ギャビン・ライアル ギレルモ・デル・トロ クリストファー・プリースト グレアム・グリーン ケイト・アトキンソン ケイト・モートン ケン・キージー コニー・ウィリス コーマック・マッカーシー サルバドール・プラセンシア シャルル・ボードレール シャーリイ・ジャクスン シャーロット・ブロンテ ジェイムズ・P・ホーガン ジェイムズ・エルロイ ジェイン・オースティン ジェニファー・イーガン ジェフリー・ディーヴァー ジェフ・キニー ジェラルディン ・ブルックス ジェームズ・クラベル ジェームズ・パターソン ジェームズ・マクティーグ ジム・トンプスン ジャック・ケッチャム ジャック・フィニィ ジャック・フットレル ジャネット・イバノビッチ ジュディ・ダットン ジュール・ヴェルヌ ジョイス・キャロル・オーツ ジョナサン・キャロル ジョナサン・サフラン・フォア ジョナサン・フランゼン ジョン・クリストファー ジョン・グリシャム ジョン・スコルジー ジョン・スラデック ジョン・ル・カレ ジョン・W・キャンベル・ジュニア ジョージ・A・エフィンガー ジョージ・オーウェル ジョージ・ルーカス ジョーゼフ・キャンベル ジョーン・G・ロビンソン ジョー・ヒル ジル・マーフィ ジーン・ヘグランド スコット・ウエスターフェルド スコット・スミス スコット・トゥロー スタンリー・キューブリック スティーグ・ラーソン スティーヴン・キング スティーヴ・ハミルトン スーザン・D・ムスタファ スーザン・オーリアン スーザン・コリンズ スーザン・ヒル セス・グレアム=スミス ダグラス・アダムス ダシール・ハメット ダニエル・キイス ダニエル・スティール ダフネ・デュ・モーリア ダンテ・アリギエーリ ダン・ブラウン チャイナ・ミエヴィル チャック・ホーガン チャールズ・M・シュルツ チャールズ・ディケンズ テオ・オブレヒト テレビムービー ディミトリ・フェルフルスト ディーン・クーンツ デイヴィッド・ゴードン デイヴィッド・ピース デイヴィッド・ホックニー デイヴィッド・ミッチェル デニス・ルヘイン デヴィッド・セルツァー トマス・H・クック トマス・ハリス トマス・ピンチョン トム・クランシー トム・ロブ・スミス トーベ・ヤンソン トーマス・マン ドナルド・E・ウェストレイク ドン・ウィンズロウ ナーダシュ・ペーテル ニコライ・ゴーゴリ ニール・スティーヴンスン ネビル・シュート ネレ・ノイハウス ノーマン・メイラー ノーラ・ロバーツ ハリイ・ケメルマン ハワード・フィリップス・ラヴクラフト ハンナ・ジェイミスン ハーマン・メルヴィル バルガス=リョサ バーナード・マラマッド パオロ・バチガルピ パトリシア・ハイスミス ビバリー・クリアリー ビル・S・バリンジャー ピエール・ブール フィリップ・K・ディック フィリップ・プルマン フィリップ・ロス フェルディナント・フォン・シーラッハ フランク・ハーバート フランツ・カフカ フリオ・リャマサーレス フリードリヒ・ニーチェ フレデリック・フォーサイス フレドリック・ブラウン ブライアン・セルズニック ブラム・ストーカー ホンヤクモンスキー ホンヤクモンスキーの憂鬱 ポール・オースター マイクル・コナリー マイケル・クライトン マイケル・コックス マザー・グース マックス・バリー マックス・ブルックス マック・レナルズ マリオ・バルガス=リョサ マリオ・プーゾ マーセル・セロー マーティン・スコセッシ メアリー・シェリー モーパッサン ヤン・マーテル ユッシ・エーズラ・オールスン ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト ライオネル・シュライバー ライマン・フランク・ボーム ライヤード・キップリング ラジオ ラッキー・マッキー ラムジー・キャンベル リチャード・スターク リチャード・バック リチャード・マシスン リチャード・レビンソン リリー・ブルックス=ダルトン リー・チャイルド ルイス・キャロル ルシアン・ネイハム レイモンド・チャンドラー レイ・ブラッドベリ レオ・ペルッツ レビュー ロアルド・ダール ロバート・A・ハインライン ロバート・B・パーカー ロバート・ブラウニング ロバート・ラドラム ロベルト・ポラーニョ ローレンス・ブロック ヴィクトル・ユーゴー 吾妻ひでお 図書館 手塚治虫 文学賞 映画 村上春樹 栗本薫 池井戸潤 湊かなえ 瀬名秀明 竹本泉 米澤穂信 翻訳作品の影響 舞台 董啓章 読書会 貫井徳郎 越前敏弥 黒史郎