カテゴリー「ジョナサン・サフラン・フォア」の2件の記事

2012年2月 1日

「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」 第二夜

■著者 ジョナサン・サフラン・フォア
■訳者 近藤 隆文
■出版社 NHK出版
■価格 ¥2,300(税抜き)

さて、それでは「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」に関しての二回目…

前回は、この本に対する熱い思いの丈を伝えたのみだったのですが、今回は、ちょっとした細かいところについて…

まず、この本を手に取った時に真っ先に気付くこと。

それは… 小口に現れている色の違うページの存在です。
チョイとばかりパラリと捲ってみましょう。 そうすると、どうやらそこここに写真が使われていることが判る筈です。

読み進んでゆくと次第にこの写真群の存在意義が大きくなっていきます。

最初に現れる写真はドアノブ… 鍵が閉まっている、開いている、閉められたドアの意味するものは? ドアノブは同じもの違うものも含め何度か登場しますが、多分に象徴的な意味を持っていると思います。

また、序盤にある多色カラー刷りのページも目を引きます。 これは、丁寧な仕事! 
以前、ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」など二色刷りのものは見たことがありましたが、これは、四色刷り(そう?)、凄い!

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【はてしない物語】(絶版)

■著者 ミハエル・エンデ
■訳者 上田 真而子、 佐藤 真理子

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さらに読み進むと、次第に、写真によるビジュアルからのインパクトが非常に強く感じられはじめることでしょう。
ストーリーの重さが実感されてくるタイミングと相俟って、読み続けることが苦しくなってくるのです。
更に、ページを繰る事で、本の最後の部分にどうも連続した写真が十数ページに渡って存在することに気付くでしょう… 

これが、曲者。

私はこれに気付いた事で、余計に、読み進むのが=この最後の写真の部分に到達してしまうことが恐ろしくなりました。
何を知ることになるんだろう… と。

この挿入されている写真が本のストーリーの一部となり、一体となって相乗効果を上げ、心に迫る登場人物の心情をよりくっきりと描き出しているのは特筆すべき事だと思います。

そして、写真の挿入だけではなく、所謂、タイポグラフィが効果的に使われています。

このお話は三人の視点から描かれており、それぞれに特徴のある文字組がなされていて、それぞれの語り手の性格や心情、立ち位置をとてもよく表現していると思います。

特に、【父親の父親】のパートが白眉です。

こういったタイポグラフィの工夫で面白い効果を出している本として真っ先に思い付くのは、ダニエレブスキーの「紙葉の家」ですが、「紙葉の家」は、どちらかというと外連身がいっぱい… と云いますか、異様さを効果的に演出するための手段としての役割が大きいと思います。 そういう意味では、云ってしまえば作意が目立つ印象です。

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【紙葉の家】(絶版)



■著者 マーク・Z・ダニエレブスキー
■訳者 嶋田 洋一

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しかし、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」では、とても自然に物語の一部となっているのが素晴らしいのです。

未読ですが、少し前に話題になったサルバドール・プラセンシアの「紙の民」はどうやら「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」に近いイメージのページデザインがされているようです。
積んでいるので、早く読まなきゃ!

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【紙の民】

■著者 サルバドール・プラセンシア
■訳者 藤井 光
■出版社 白水社
■価格 ¥3,400(税抜き)

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(この先、若干、内容に触れます。)

物語の語り手の一人である少年オスカーには、有名人に頻繁に手紙を送る癖があります。

彼がしつこく手紙を送る相手の中に、彼に対して定形で返事を送ってくる人物がいます。 その遣り取りが積み重なった後のカタルシスが凄い…

そもそも、このお話って【積み重ねる】事がテーマだと思うのです。
先に挙げているタイポグラフィの中にも、それを象徴する表現がありますし…

積み重ねた先にある、悟りといったものがとても明快なのが感動を呼ぶんだと。

最後に、個人的にちょっと気になるところを。

語り手のひとり、オスカー君の「なんぞ?」と、四文字言葉の代わりの「シッイタケ」、何だか解らないけれど卑猥語の代わりの「ナメタガレイ」…

「なんぞ?」に関しては、「GANTZ」を思い出しちゃって居心地が悪いだけなんですが、「シッイタケ」と「ナメタガレイ」については… もっと素直に元の言葉が想像できるものだったらな… と感じました。

まあ、そんな細かいことはどうだっていいくらい素晴らしい本なのでどうでもいいようなものなのですけれど。


最後にひとこと。

読む前に私を怖がらせたこの本の最後にある連続写真ですが…
その部分を決して先に見ないようにしてください。

すべての物語を読んだ後、その写真を見ることによって、あなたは至福の時を味わうことになるからです。

@unyue
@honyakmonsky


 

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2012年1月30日

「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」

■著者 ジョナサン・サフラン・フォア
■訳者 近藤隆文
■出版社 NHK出版
■定価 ¥2,300(税抜き)

わたしは、この本を読む前に全く予備知識を持たなかった。

単に、あの「エブリシング・イズ・イルミネイテッド」のジョナサン・サフラン・フォアの新作が出たから、こりゃ読まなきゃと思ったのである。

だから、わたしは、ダメージを受けてしまった。

どういうテーマで書かれた作品か、モチーフは何か、何も知らなかったわたしは、語られる物語への覚悟が足りなかった。

この本を読むには、一定の覚悟が必要である。

モチーフは9/11。
そして、ドレスデンの空爆とユダヤ人への迫害。
ヒロシマ。

父と子。
あるようでいて、ないもの。
絶対的な別れ。
探索。

覚悟が足りなかったわたしには、この本をいつものようにぐいぐいと読み進むことが出来なかった。
途中で何度も読み進めなくなって立ち止まった。

しかし、次第に積み重なる物語の重みが逆にわたしにこの本を読み進む力を与えてくれた。

別れなんて生易しいものではない。
再生なんて言葉で簡単に括れるものでもない。

そして、昇華する心。

多くを語るより、自らの目で確かめて欲しいです。

この「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」ですが、いよいよ、2月18日に映画化作品が公開されるようです。

わたしは、それほど原作物の映画を好まない方なのですが、予告編を見てみたら実に良さそうなんですよね…
子役の少年の姿がイメージにぴったり… 本の内容を思い出して切ない気分になっちゃいそうな予告編です。

公式サイトに予告編がありましたので、是非ご覧ください。

映画「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」
監督 スティーヴン・ダルドリー
出演 トム・ハンクス/サンドラ・ブロック/トーマス・ホーン

公式HP/予告編もあります。

また、冒頭にも紹介したジョナサン・サフラン・フォアの「エブリシング・イズ・イルミネイテッド」も、イライジャ・ホビット・ウッド主演で映画化されています。 こちらも探求の物語です。 残念ながら原作は重版未定になっているようですが、この機会に是非、文庫で復刊して欲しいものです。

映画「僕の大事なコレクション」

監督 リーヴ・シュレイバー
出演 イライジャ・ウッド/ユージン・ハッツ

実は、この作品には細かいところで色々と書きたいこともあるのですが、ここで、そんな細かいことを書いても仕様がない… と思いまして、今回は遠慮しました。その辺りは第二弾で書きますので、お楽しみに!

@unyue
@honyakmonsky


 

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