「クリスマスに少女は還る」
■著者 キャロル・オコンネル
■訳者 務台 夏子
■出版社 創元社(創元推理文庫)
■価格 ¥1,260(税込み)
突然だが、私は「幼児誘拐/虐待もの」が余り好きではない。
痛々しくて読んでいられなくなるし、何よりも後味が悪い事が多いのが嫌なのである。
何故、そういう風に感じるようになったかと云うと… 忘れもしない、ジョナサン・ケラーマンの「大きな枝が折れる時」を読んだこと… それこそがトラウマの原因なのだ。 お話は面白かったんだけれど、何しろ後味が異様に悪く… 何で読んでしまったんだろうと珍しく後悔までしたりして。
とにかく、それ以来、幼児誘拐ものにはなかなか手が出なくなり、同じテーマであるらしいことのみ伝聞で推定してしまっていた「クリスマスに少女は還る」にも全く食指が動かなかったのだ。
だって、題名からしておどろおどろしいし(「還る」って云う漢字が何だかとっても禍々しく感じられませんか? この漢字が選ばれているのには理由があるのは今は解るけれど)如何にも幼児(しかも女児!)が理不尽なとんでもなく酷い目に遭いそうな気がして全然読む気になれななかったんだもん!
時は流れ、昨年のこと… 「クリスマスに少女は還る」と同じ作者の「愛おしい骨」が話題になり、ちょっと読んでみようかな… という気持ちになった。 しかし、勿論、「クリスマスに少女は還る」を読まずして「愛おしい骨」は読めないではないか! 仕方なく(←済みません! でもこの時は本当にこう云う気持ちだったんです!)「クリスマスに少女は還る」と「愛おしい骨」を購入してはみたものの、やはり、どうしても読む気になれない。 そんなこんなで、結局「愛おしい骨」もろともにひっそりと未読の暗黒の塔の中に埋もれさせてしまった… の、だが…
ところが、ひと月程前だったか、Twitter上で同好の士とお喋りしていてたまたま「クリスマスに少女は還る」の話になったのだ。 その時に、とても熱心にこの本について語り、まぎれもない【愛】を感じておられる方が何人かいらっしゃる事に気づいた。 しかも、悲惨とか暗いとか後味が悪いとか、そういうネガティブな感想では全くなく、寧ろ、明るさ元気さを思わせる話しっぷり…
もしかして、私って何か誤解しているのかも?
疑ってみて正解!
私の予断は完全に誤りであった。
この「クリスマスに少女は還る」は、二人の女の子の友情と努力と諦めない気持ちに彩られた希望のある非常にポジティブなお話だったのだ!
このお話は、ある小さな町で起こる少女誘拐事件が発端になる。
捜査官として誘拐された少女を追う刑事は、実はかつて自分の双子の妹が誘拐され殺された過去を持つ。 時期も同じクリスマスの前… 同一犯の犯行か? しかし、過去の事件では既に犯人が逮捕がされているのだ。
このような背景の下、この物語は、刑事の胸に去来する複雑な思いと過去の誘拐事件の隠された真相、そして、誘拐された少女たちの脱出するため生き延びるためのバイタリティ溢れる試行錯誤の様、というふたつの大きな動きが軸になって構成されている。
誰が誘拐犯なのか… という興味やクリスマスが近づく緊張感もさることながら、このお話の主軸は【少女たちの冒険】にある。
普段から仲の良い、ホラー映画好きで一筋縄ではいかない破天荒な性格の少女サディーと地元の名士の令嬢グウェン… その二人が力を合わせ閉じ込められた場所から逃れようと知恵を絞り勇気を振り絞る。 時に絶望しながらも雄々しく逆境に立ち向かう二人。 特に、ホラーマニアの少女サディーの活躍によって、暗く閉塞感溢れる状況の中でも読者として軽妙さや助かるかもしれないと云う希望を感じることが出来るのがいい。
そして、最後に明かされる衝撃の事実。
ラストシーンは、あのキングの傑作「デッドゾーン」を思わせる静謐さと感動で涙を押しとどめる事が出来ないだろう。
(この後、若干内容に触れます)
この物語を読んで思い出すのは、オースン・スコット・カードの「消えた少年たち」である。
「消えた少年たち」はカードの宗教観(カードは敬虔なモルモン教徒)が前面に出過ぎていて、正直に云って読み辛い部分も多いのだが、ストーリーの大筋と最後の最後で告げられる【真実】による衝撃たるや爆弾ものである。 それが「クリスマスに少女は還る」に通じる所があるのかな… と思っちゃった訳である。
お… それから、ディーン・クーンツの「オッド・トーマスの霊感」なんかも…
まあ、そんな事はどうでもいいんだけれど。
それでは、本日のまとめ。食わず嫌いは程々にしよう! でした。
(告白。「愛おしい骨」は、まだ積んでます…)
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