カテゴリー「パオロ・バチガルピ」の6件の記事

2013年7月20日

第44回星雲賞海外部門にスコルジーとバチガルピ!

第52回日本SF大会 こいこん 2013年7月20日 広島県広島市で開催されている《第52回日本SF大会 こいこん》において第44回星雲賞が発表され、海外長編部門(小説)はジョン・スコルジーの「アンドロイドの夢の羊」が、海外短編部門はパオロ・バチガルピの「ポケットの中の法(ダルマ)」が受賞した。

第52回日本SF大会 こいこん
第44回星雲賞

第44回星雲賞受賞作

■日本長編部門(小説)
「屍者の帝国」
著者:円城塔、伊藤計劃

■日本短編部門(小説)
「いま集合的無意識を、」 (「いま集合的無意識を、」に収録)
著者:神林長平

■海外長編部門(小説)
「アンドロイドの夢の羊」
著者:ジョン・スコルジー
訳者:内田昌之

■海外短編部門(小説)
「ポケットの中の法(ダルマ)」 (「第六ポンプ」に収録)
著者:パオロ・バチガルピ
訳者:金子浩

■メディア部門
「モーレツ宇宙海賊(パイレーツ)」
監督:佐藤竜雄
制作:株式会社サテライト
製作:モーレツ宇宙海賊製作委員会
原作:笹本祐一

■コミック部門
「星を継ぐもの」
著者:星野之宣
原作:ジェイムズ・P・ホーガン「星を継ぐもの」シリーズ

■アート部門
鶴田謙二

■ノンフィクション部門
情報処理2012年05月号別刷「《特集》CGMの現在と未来: 初音ミク,ニコニコ動画,ピアプロの切り拓いた世界」
ゲストエディタ: 後藤真孝(産業技術総合研究所)

■自由部門
iPS細胞
受賞対象者:京都大学iPS細胞研究所

因みに、バチガルピはゲストとしてたまたま《こいこん》に参加しており、「Windup mapper 対談パオロ・バチガルピvs藤井太洋」とサイン会を行った模様。

この対談のタイトルの Windup はバチガルピの「ねじまき少女("Windup Girl")」から、mapperは藤井太洋のGene Mapperからきてますね。

パオロ・バチガルピ ちょっと気になったのですが、海外の作家が星雲賞を直接受賞するのって、もしかして珍しい事じゃないでしょうか。

ところで、ツイッター上でお付き合いがある人たちも何人かが《こいこん》に参加されていますが、ツイッター上でときどきお世話になっている、uchi/うっち( ‏@uis4uchi )さんも《こいこん》に参加し、見事バチガルピのサインをゲットしたようです。

しかも「第六ポンプ」に!

これは正直羨ましいでございます。

パオロ・バチガルピのサイン入り「第六ポンプ」

と言うのも、パオロ・バチガルピは現在、SFの最先端を突っ走っている、というか現代のSF界を牽引している作家のひとりですから。

こんなことなら、事前にお願いしておく作戦でしたかね。ちょっと残念です。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2013年2月24日

第3回 Twitter文学賞 海外部門 速報!

第3回Twitter文学賞 結果発表座談会
2013年2月24日 Ustreamで第3回Twitter文学賞が発表された。

海外部門の速報をお伝えする。

1.「青い脂」
著者:ウラジミール・ソローキン
訳者:望月哲男、松下隆志
出版社:河出書房新社

2.「ならずものがやってくる」
著者:ジェニファー・イーガン
訳者:谷崎由依
出版社:早川書房

2.「ブルックリン・フォリーズ」
著者:ポール・オースター
訳者:柴田元幸
出版社:新潮社

3.「2666」
著者:ロベルト・ポラーニョ
訳者:野谷文昭、内田兆史、久野量一
出版社:白水社

4.「夜毎に石の橋の下で」
著者:レオ・ペルッツ
訳者:垂野創一郎
出版社:国書刊行会

4.「地図集」
著者:董啓章
訳者:藤井省三、中島京子
出版社:河出書房新社

4.「極北」
著者:マーセル・セロー
訳者:村上春樹
出版社:中央公論新社

5.「第六ポンプ」
著者:パオロ・バチガルピ
訳者:中原尚哉、金子浩
出版社:早川書房

6.「居心地の悪い部屋」
編集:岸本佐知子
訳者:岸本佐知子
出版社:角川書店

7.「無声映画のシーン」
著者:フリオ・リャマサーレス
訳者:木村榮一
出版社:ヴィレッジブックス

8.「黄金の少年、エメラルドの少女」
著者:イーユン・リー
訳者:篠森ゆりこ
出版社:河出書房新社

9.「タイガーズ・ワイフ」
著者:テオ・オブレヒト
訳者:藤井光
出版社:新潮社

9.「フリーダム」
著者:ジョナサン・フランゼン
訳者:森慎一郎
出版社:早川書房

9.「残念な日々」
著者:ディミトリ・フェルフルスト
訳者:長山さき
出版社:新潮社

10.「罪悪」
著者:フェルディナント・フォン・シーラッハ
訳者:酒寄進一
出版社:東京創元社

10.「世界が終わるわけではなく」
著者:ケイト・アトキンソン
訳者:青木純子
出版社:東京創元社

10.「占領都市 TOKYO YEAR ZERO II」
著者:デイヴィッド・ピース
訳者:酒井武志
出版社:文藝春秋

10.「悪い娘の悪戯」
著者:マリオ・バルガス=リョサ
訳者:八重樫克彦、八重樫由貴子
出版社:作品社

なお、第3回Twitter文学賞 結果発表座談会の出演は、豊崎由美(書評家)、大森望(書評家・翻訳家)、佐々木敦(批評家)、杉江松恋(ライター)、石井千湖(ライター)。

関連エントリー
『「第3回Twitter文学賞」は2月5日投票スタート!』

@tkr2000
@honyakmonsky

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2012年5月12日

パオロ・バチガルピのインタビュー

2012年4月26日 Publishers Weeklyで、パオロ・バチガルピのインタビュー記事が掲載された。

Q & A with Paolo Bacigalupi
By Carolyn Juris

ご存知のように、パオロ・バチガルピの「ねじまき少女」(2009)はヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞等のSF文学賞を総なめし、続く初めてのヤング・アダルト小説「Ship Breaker」(2010)はYALSA(全米図書館協会ヤングアダルト図書館サービス部会)マイケル・L・プリンツ賞を受賞、2012年5月に新作「The Drowned Cities」を出版している。

また、日本国内では「ねじまき少女」と短篇集「第六ポンプ」が出版されており、パオロ・バチガルピについては世界中が大絶賛している。

今回のインタビュー記事はあまりにも長いインタビュー記事なので全てを紹介する事はできませんが、気になった部分を紹介したいと思います。

Q:あなたの小説はSF、推測的なフィクション(speculative fiction)、バイオ・パンクと紹介されていますが、自作のジャンル分けについてはどう考えていますか?

A:自分の作品を明確にジャンル分けしている訳ではないが、どちらかと言えばSFを書いている。

しかし、陰鬱なフィクションをSFに分類する事には違和感を持っている。と言うのは、SFと言う言葉は、ある意味ポップで、未来に対する前向きなイメージを持っているから。

(ディストピア小説について)「われら」(エフゲニー·ザミャーチン)、「一九八四年」(ジョージ・オーウェル)、「すばらしい新世界」(オルダス・ハクスリー)等の古典的なディストピア小説は素晴らしい。

Q:あなたの小説はSFのSienceを強調しているような印象を受けますが、そのあたりについてはどう考えていますか?

A:わたしはハイ・カントリー・ニュースというオンライン新聞で、科学ジャーナリストをやっていました。科学ジャーナリストや環境ジャーナリストとして活動していると、地球温暖化の問題や珊瑚の死、または絶滅危惧種についての記事を書く事ができます。そしてわたしは例えば珊瑚の最後のDNAを持っていると言う設定で数百年後の物語を書く事が出来ます。科学ジャーナリストは一般の人々がスルーしてしまうようなことについて気づいています。それを一般の人々の悪夢として描く事ができるのです。

Q:あなたの作品は、湾岸地方(「Ship Breaker」)、東南アジア(「ねじまき少女」)、ワシントンD.C.(「The Drowned Cities」)等、様々な地域を舞台にしていますが、それについて何か特別な理由はありますか?

A:キャラクターにしろプロットにしろ全てに関連性があり、物語の舞台となる地域もランダムに設定されている訳ではありません。

最近の作品でも、実際その地域で発生した自然災害、政治経済、問題となっている自然環境の変化を参考にしています。

その地域が物語の舞台とするには、常に物語の大きなテーマを与えてくれているのです。

Q:あなたは2009年9月に「ねじまき少女」を、2010年5月に「Ship Breaker」を出版しています。最初に書かれた作品はどちらですか?

A:わたしはそれらの作品を同時に書いています。「ねじまき少女」を書くのに3年かかりました。

インタビューの後半については、ヤング・アダルト小説「Ship Breaker」と同世界の物語「The Drowned Cities」に関するものなので割愛します。

@tkr2000
@honyakmonsky


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2012年2月25日

「第六ポンプ」

「第六ポンプ」 先日のエントリー『〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉創刊によせて(「火星の大統領カーター」をめぐる冒険)』で紹介した〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉の第2回配本作品であるパオロ・バチガルピの短篇集「第六ポンプ」を読了した。

「第六ポンプ」
著者:パオロ・バチガルピ
訳者:中原尚哉、金子浩
装画:鈴木康士
出版:早川書房〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉

先ず、本書「第六ポンプ」は期待に違わない大変素晴らしい短篇集に仕上がっていた。

これは日本のSFファンにとってそうである、と言うだけではなく、これを〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉の第2回配本作品として出版した早川書房にとっても、そしてもちろん当の〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉にとっても、素晴らしい短篇集になった、と言うことであろう。

ところで、本書「第六ポンプ」を一読して興味深く感じたのは、本書に収録されているそれぞれの短篇に登場するSF的な設定やガジェットの説明がほとんどない、と言うこと。

本書に収録されている短篇には、自然に成長して行く建築物や、楽器化された人間たち、体内に生物を飼うことにより土壌を食料にすることができる人間たち、遺伝子特許で高カロリー穀物を独占する穀物メジャーや水メジャー、もちろん我々の世界のように内燃機関が発達した世界ではなく所謂ディファレンス・エンジンであるゼンマイが発達し浸透している世界や、そのゼンマイを巻くためだけに遺伝子操作された生物、そして失われた技術等々、多くのSF的な設定やガジェットが登場する。

しかし、それらの設定やガジェットの名称は出てくるもののそれらの具体的な説明はほとんどない。

この何だかわからない設定やガジェットを名称から想像しつつ物語を読む楽しさ。

本書「第六ポンプ」は、最近の説明過多な小説では味わえないような楽しみを体験できる短篇集なのだ。

しかし、これらの物語がそれらSF的な設定やガジェットに頼っているのか、と言うとそう言うわけではなく、物語自体はいたって普通の物語なのである。

大切なものを運ぶことになってしまった男の物語、パトロンのために音楽を演奏しなければならなくなってしまった少女たちの物語、鉱山を警備する人間たちの物語、外国で学業を修め故郷に帰った男の物語、重要人物を護衛することになった男たちの物語、立ち退きを余儀なくされる人間たちの物語、法を破る人間を捕らえることを生業としている男の物語、どんな汚い手を使っても仕事にありつきたいと考える男の物語、与えられた職務を全うしようとする男の物語。

そのSF的な設定やガジェットあふれる世界において、世界中のあらゆる民族が共感できるような、誰でも理解できる普遍的な物語が描かれているのだ。

これは作品として強いと思う。

ところで、本書「第六ポンプ」の巻末に掲載されている、中原尚哉の訳者あとがきによると、バチガルピは中国に住んでいたことがあるらしい。

その経験からか、本書に掲載されている作品のほとんどは、アジアを舞台にしている。そこで描かれているのは、搾取する側と搾取される側の物語、つまり貧富の差から生まれる物語である。

近未来の世界を描く上で、物語の背景として貧富の差が顕著な世界を描くのは最早定番となり、既に手垢がついたありふれた世界観だと思わざるを得ないのだが、それをそう感じさせない、その圧倒的で美しいほどの猥雑感が素晴らしい。

この猥雑感とSFガジェットに感する素敵な説明不足、そして誰もが共感できる普遍的な物語。
本書「第六ポンプ」は、そんな訳で非常に興味深い特徴を持っている作品なのだ。

機会があれば、本書「第六ポンプ」を是非手に取って欲しい。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2012年2月23日

〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉創刊によせて(「火星の大統領カーター」をめぐる冒険)

「火星の大統領カーター」「リヴァイアサン」「第六ポンプ」

みなさんどうですか?
〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉第二回配本作品パオロ・バチガルピの「第六ポンプ」は読み終わりましたか?

と言う訳で今日は〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉に関する余談。

2011年秋 早川書房から新しい叢書〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉の創刊がアナウンスされた。

その直後、叢書名〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉に含まれている〈☆〉について賛否両論の議論が始まり、〈☆〉とはいったい何のつもりだ、まさかライトノベルのレーベルでも始めるつもりなのかよ、そういった否定的な意見が目についた。

2011年12月1日 翻訳家大森望(@nzm)のツイートにより、〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉 第一回配本作品であるスコット・ウエスターフェルドの「リヴァイアサン クジラと蒸気機関」の書影が公開された。

これが新☆ハヤカワSFシリーズだ!/大森望

わくわくした。

ながらく眠っていた少年時代のぼくらの心が呼び起こされたような気がした。

放課後の薄暗い図書館。
日が落ちるのにもかかわらず、友だちと奪い合うようにして、小説を読んでいた頃の、ジュブナイル向けに翻案された世界中のSF小説を読んでいた頃のぼくらの心が。

もちろん、この書影や装画に対し、否定的な意見を投げかけた人もいたにはいたのだが、わたしにとってこの「リヴァイアサン クジラと蒸気機関」の書影は、ぼくらが愛していた、血湧き肉踊る冒険活劇の復活を告げるような素晴らしい装画に思えた。

そんな「リヴァイアサン クジラと蒸気機関」の書影をみて、わくわくする気持ちと同時に、感傷的に思い出したものがある。

それは、1984年に〈ハヤカワ・SF・スペシャル〉として、ハヤカワ・SF・シリーズの体裁で出版された栗本薫の「火星の大統領カーター」のあとがきである。

もし書棚に「火星の大統領カーター」がある人は、いますぐそのあとがきを読んでいただきたい。

「火星の大統領カーター」を持っていない人のために、そのあとがきの一部を引用するので、是非読んでみて欲しい。

SFへの、そして〈ハヤカワ・SF・シリーズ〉への愛に溢れる素晴らしいあとがきである。事実、28年前にたった一回読んだだけにも関わらず、完全に覚えていたあとがきなのだから。

「火星の大統領カーター」
著者:栗本薫
出版:早川書房〈ハヤカワ・SF・スペシャル〉

あとがき

この本を買って、それとも本屋の店先であとがきだけをみているすべての読者の皆さん。
いま、私は、とても、とても、とても、嬉しいのです。
いや、あえて、正直に感動している、と申しましょう。私は感動しています。ああーーついにここへ来た。ここまで辿りついた……と。

どうして? それはこの本が「ハヤカワ・SF・シリーズ」だからです。あの、ハヤカワ・SF・シリーズーーああ、私の感じていることが、若いあなたにわかってもらえるでしょうか。

私はSFファンでした。小学校五年ではじめて「SFマガジン」を買って以来、つねに熱烈で何も知らぬ、仲間もいないたった一人のSFファンの女の子でした。

そのころはSFといえば「ハヤカワポケットSF」しかなかった、といっても過言ではないのです。毎週私はハヤカワポケットSFを買い、そしてむさぼり読みました。酒とバラの日々。黄金の、幸せなーー「火星年代記」も「鋼鉄都市」も「裸の太陽」も、「火星人ゴーホーム」も「夏への扉」も私のはポケットSFなのです。そして「火星で最後の……」「虎は目覚める」「ベトナム観光会社」「地には平和を」。

まだ大切に本棚にあるそれらの本の、裏表紙の写真の筒井さんや豊田さん、小松さんの何という若さでしょう。小松さんはやせています。筒井さんは二十代です。そしてかれらの、「最初の本」への気負いと情熱にみちた、あとがき。

私はそれらをよみ、それらにひかれ、かれらを愛し、かれらの作品に夢中になって、ますますSFに入りこみ、ひたりきっていったのでした。

……好きな作品をあげろといわれたら、何十枚の原稿用紙をでも、私は埋めてしまうでしょう。……そのころ、読むすべてのSFを、すべての作家を、私は愛しました。私は他に何ももっていなかったので、SFやマンガや小説の世界だけがすべてでした。そういう、淋しい、内気な、何も知らぬ十代の女の子にだけできるすべての熱情を傾けて、私は、どんなにかれらを崇拝し、憧れたことか。

私はかつて、何かのあとがきに、これまで三回だけ夢かと思ったことがある、といったことがあります。一度は、SFマガジン、あのSFマガジンから依頼のあったとき。二度めは、SF作家クラブに入れて頂いて、その長年のアイドルだった、小松さん、星さん、筒井さんたちとお付合いできるようになったとき。

そうやって私の夢は一つ一つ叶えられてゆきました。私は幸福な人間でした。しかし、同時に、しだいに、ハヤカワ・SF・シリーズは刊行されなくなってゆきました。文庫と新書攻勢におされて、書く人がいなくなってゆきました。

それは、感傷かもしれません。しかし、私は、昔、「私もこのシリーズに入りたい」と夢のように思っていたのです。小松左京「神への長い道」筒井康隆「東海道戦争」……と並んでいる私の書棚、神聖な書棚のさいごのところに、「×××著『×××』」と私の本が並んだら。

ああ、そしたら私の長い夢もおわるのだ。私の、SFへの二十年来の片思いもむくわれるのだーーと。

しかし、二十年からの夢叶って、いま、私はなんと悲しいあとがきを書かねばならぬのでしょう。

SF界は、かつて私のとおくからあおぎ見ていたSFとは、すでに違ってしまいました。「ハヤカワ・SF・シリーズ」はたえてひさしく、売れないからと文庫にとってかわられました。ポケットSFは、遅れてきた私を待っていてはくれなかったのです。もう、ポケットSFが復活することは、少なくとも私が愛したころのラインナップで復活することはない。私は口寄せの巫女のように幽霊を呼びさましただけかもしれません。

この作品集は私にとって忘れがたいものとなりました。見はてぬ夢の叶った日ーーそれは、片思いへの花束を投げる日になることでしょう。この短篇集ーーテーマは、「SFへの愛」なのだといったらあまりにも気障でしょうか。

この本を、心からの愛となつかしさをこめて、私にSFを教えてくれた、私のアイドルであった、「日本SF」シリーズのかつての著者一人一人に捧げます。

I LOVED YOU。

一九八四年八月二十八日、暑いひるさがりに
(「火星の大統領カーター」あとがきより引用)

栗本薫さんどうですか?
〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉「リヴァイアサン」「第六ポンプ」「サイバラバード・デイズ」「ベヒモス」とつづくラインナップはあなたが愛したころのラインナップですか。

わたしはそう信じたい。そんな思いでいっぱいです。
因みに〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉は銀背でしかも5001番からですよ。

最後に〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉 創刊の辞 を引用する。

1950年代の終わり、まだ世の中に「空想科学小説」という言葉しかなかった時代に、 早川書房は、「センス・オブ・ワンダー」に満ちた「サイエンス・フィクション」の名作を紹介する 〈ハヤカワ・SF・シリーズ〉をスタートさせました。

そして21世紀のいま、装いも新たに、〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉がスタートします。 長年のSFファンはもちろん、アニメや漫画からSFが好きになった読者まで、 幅広いSF好きが満足できる作品を厳選したこの叢書で、 SFの原点である「センス・オブ・ワンダー」を存分にご堪能ください。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2012年2月 8日

「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」第二弾「第六ポンプ」発売!

2011年12月、SF好きには堪らない叢書がスタートしました。
あの往年の銀背の復活だ〜!

その名も「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」

最近、リニューアルして若々しくなったポケット・ミステリと同じサイズ感とこなしで装丁された、小粋なポケット版。 そして、ちょっとレトロでお洒落な小口の茶色が目印… この小口の塗装は、何と、一冊一冊、人の手で塗られているとの事… だからこそ、あの暖かい風合いの色むらが出るんですよ!

…とは云っても、私にとってはハヤカワのSFと云えば青背なんですけれど…

今回の新叢書は、往年のSFファンからアニメやマンガに親しんでいる若者まで、幅広い年代へ向けての「センス・オブ・ワンダー」のプレゼンテーション、と云う事で、実際に、第一回目の配本は少年少女向けの冒険小説「リヴァイアサン」からのスタートとなっています。

【リヴァイアサン ークジラと蒸気機関ー】

■著者 スコット・ウエスターフェルド
■訳者 小林 美幸
■出版社 早川書房(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
■価格 ¥1,680

この「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」の記念すべき一冊目となる「リヴァイアサン ークジラと蒸気機関ー」は、最近、トレンドセッターの間で話題の「スチームパンク」的テーマの冒険小説です。
歴史改変(っつーか、平行宇宙?)ものでもあり、産業革命を経て機械工学を尊ぶドイツなど【クランカー】と呼ばれる陣営と、イギリスを中心とした遺伝子工学を発達させ、バイオテクノロジーで作り出した獣を動力として使う【ダーウィニスト】が一触即発の状態にある世界が舞台となっています。 こちらの世界で云う所の第一次世界大戦前夜… ですね。 その中で出逢う少年と少女を中心にした冒険エンターテインメントなのです。

しかも、何と、この「リヴァイアサン」は三部作の第一作目!
まだまだ、物語の入り口に立ったばかりなのです!

勿論、同じ「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」の中で第二作、第三作も登場する予定です。
気になる二作目「ベヒモス」の配本は2012年6月、三作目の「ゴリアテ」は2012年12月の配本予定となっています。 丁度一年を掛けての完結! と云う事で、この叢書の記念碑的な作品となる事は間違いないのではないでしょうか。

そして!

来たる2012年2月9日には、待望の「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」の第二回目が配本となります。

気になるタイトルは、何と… 昨年の話題作「ねじまき少女」(エミコ!)のパオロ・バチガルピの第一短篇集「第六ポンプ」が満を持しての登場です!
「ねじまき少女」と世界観を同じにする「カロリーマン」他、初訳5篇を含む全10作品が収録されています。

【第六ポンプ】

■著者 パオロ・バチガルピ
■訳者 中原 尚哉/金子 浩
■出版社 早川書房(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
■価格 ¥1,680

【ねじまき少女(上下)】

■著者 パオロ・バチガルピ
■訳者 田中一江
■出版社 早川書房(ハヤカワSF文庫)
■価格 各¥882

これは、生本屋に走るしかないですね!

新☆ハヤカワ・SF・シリーズでは、この後も、「火星夜想曲(絶版)」イアン・マクドナルド「航路(絶版)」「ドゥームズ・デイ・ブック」コニー・ウィリス「都市と都市」が記憶に新しいチャイナ・ミエヴィル「奇術師」「双生児」クリストファー・プリーストなど、超豪華ラインナップ!

せっかく、今、この叢書がスタートした同じ空間にいると云う事は、ラインナップをコンプリートしないでは気が済まないように思えて来ちゃいます… 




ところで…

あなたは、【銀背】【青背】を何と発音していましたか?
私は「ぎんぜ」「あおぜ」だったのですが、多くの方が「ぎんせ」「あおせ」と読んでいた! と「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」の発売を機に、SF世界が一時騒然となりました。 こんな話題で楽しめたのも、新しい叢書が出来たお陰さま… これからも話題を振りまくキャッチーな作品を沢山読ませてくれるに違いありません!

そんなこんなで、この「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」、応援して行きたいです!

@unyue
@honyakmonsky 

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