〈スイス銀行〉から〈ケイマン諸島〉へ
今日は、海外小説、翻訳モノを読んでいるといろいろなところで少しは役に立つかもよ、と言うお話。
ここ最近、日本国内では、AIJ投資顧問が契約している企業年金の資金約2,000億円が、消失してしまっていると思われる事件が盛んに取り沙汰されている。
この事件の概要は、AIJ投資顧問が個別に契約を締結している84の企業年金の資金合計約2,000億円の資金を、AIJ投資顧問は、グループ企業のひとつであるアイティーエム証券を通じ、ケイマン諸島の私募投資信託へ流し、その資金は最終的にバミューダ銀行を通じて資金運用されていたのだが、2012年2月現在においてその資金のほとんどが消失してしまったとされている。
このような事件は時々フィクションの題材にされている。先ごろ日本公開された映画「ペントハウス」でも、超高級マンションの従業員の年金資金を金融界の大物に騙し取られてしまう物語が描かれている。
ところで、このAIJ投資顧問の事件にキーワードとして登場する〈ケイマン諸島〉と言う地名は、われわれのような海外の小説や映画を楽しむ人々にとっては非常になじみ深い地名のひとつである。
しかしながら、小説や映画のようなフィクションに登場する〈ケイマン諸島〉は、決して良いイメージではなく、悪いイメージで使われる事が比較的多い。
と言うのも〈ケイマン諸島〉は、タックス・ヘイヴンとして知られ、その性格からフィクション上ではオフショア・バンキングとして、資金洗浄いわゆるマネー・ロンダリングや租税回避、非合法な資金の保管場所として利用されているイメージが強い。
一昔前のフィクションなら、このような〈ケイマン諸島〉の役割を担っていたのは、いわゆる〈スイス銀行〉として知られるスイスのプライベートバンクであろう。
〈ケイマン諸島〉同様に様々なフィクションに登場する〈スイス銀行〉は、顧客情報の厳格な管理が行われていることが描かれ、また番号口座(ナンバーズアカウント)至上主義的な描写を見ることが多い。
その番号口座(ナンバーズアカウント)さえ知っていれば、自分の口座であろうがなかろうが、その口座内の資金の入・出金どころか、外部への資金の移動すら可能な金融機関として描かれていることが多々ある。
〈スイス銀行〉と言う金融機関の名称は、日本では「ブラック・ジャック」や「ゴルゴ13」、「ルパン三世」等にも頻繁に登場するため、日本国内での認知度は高いと思われる。
また、2002年に「ボーン・アイデンティティー」として映画化されたロバート・ラドラムの「ボーン」シリーズ第一作「暗殺者」(1980年発表)の中では、記憶を亡くした男の右臀部の皮膚の下に〈スイス銀行〉の口座番号が記されたネガフィルムが外科手術で埋め込まれていた。
しかし、1989年にべルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終結し世界地図が書きかえられた後、フィクションの世界にも影響が発生、〈スイス銀行〉に変わり〈ケイマン諸島〉が登場し始める。
そんなわたしが〈ケイマン諸島〉を意識したきっかけは、ジョン・グリシャムの「法律事務所」(1991年発表)であった。
ジョン・グリシャムの「法律事務所」の主人公ミッチはメンフィスのロー・ファーム(法律事務所)に就職し、激務の中、頭角を著していく。
そんなミッチの担当業務は〈ケイマン諸島〉などのタックス・ヘイヴンを利用し、持株会社や投資会社を設立し依頼人の節税を計るものだったが、この法律事務所には裏の顔があった。
〈ケイマン諸島〉のタックス・ヘイヴンを悪用し、マフィアが麻薬取引で得た多額の資金の資金洗浄(マネー・ロンダリング)を法律事務所が組織的に請け負っていたのだ。
そんな訳で、海外小説、いわゆる翻訳モノに親しんでいるわたしは、今回のAIJ投資顧問の事件の報道に触れ、こんな妄想をした。
■〈ケイマン諸島〉
報道に〈ケイマン諸島〉の地名が出た時点で、こいつら絶対やられたな、と妄想した。
被害者が50万人以上いる、と言う話なので、非常に大きな問題だと思いますし、〈ケイマン諸島〉自体にそんなに問題があるとは思いませんが、フィクションの世界ではあまり良い意味で〈ケイマン諸島〉と言う言葉は使われていないのです。
■分散投資
投資顧問の投資は分散投資が原則。分散投資をしている限り資金が完全に消失してしまうことは物理的に不可能。
資金が完全に消失してしまう可能性としては、単一の株式等の金融商品に投資し、その企業が破綻したような場合。もしくは、なんらかの犯罪に関与しているのではないか、と妄想した。
もしかしたら、FXで溶かしたと言う可能性も否定できないが、FXは、投資顧問の投資対象になるのだろうか。
■その他
余談だが、驚いた事にAIJ投資顧問の第22期事業報告書(2010/12/31決算)を読むと、従業員数は8名。役員は非常勤1名を含めた4名。
つまり、計12名で国内の運用資産1,832億円、海外の運用資産2,070億円を運用していたことになる。
でも資産自体は5億8千万円くらいで、営業損失は2億7千万円くらい。営業外収益があるので、経常利益6千5百万円くらい。
従業員数や資産が少ないから、どうこう、と言う話ではありませんが、一般的にみて投資をする会社としては不安に感じるレベルの数字ではありませんでしょうか。
なお、投資は国内海外ともに、投資一任契約を締結する海外管理会社(これがおそらくアイティーエム証券だと思われます)が設定する外国籍私募投資信託を対象としている、とのこと。
AIJ投資顧問の第22期事業報告書(リンク先はPDF)
AIJ投資顧問(ホームページはわずか3ページ)
この事業報告書はちょっと興味深いので、関心がある方は見てみてください。
pdfが斜めにスキャンされている、と言うのもちょっと信頼性を考えると微妙ですよね。
ちょっと脱線しました。
今日の結論としては、わたしはこんな訳でロバート・ラドラムの「暗殺者」やジョン・グリシャムの「法律事務所」を読んでいたおかげで、最近のAIJ投資顧問の事件の背景を理解(妄想)しやすかった、と言う事です。
そんな訳で、海外小説、翻訳モノの小説が現実に起きた事件を理解する上で役に立っている、と言うお話でした。
少し無理矢理ですけど。
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