カテゴリー「翻訳作品の影響」の32件の記事

2018年3月 7日

越前敏弥 翻訳家人生を語る

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東京大学大学院人文社会系研究科・文学部のサイトで翻訳家 越前敏弥 のインタビュー記事が公開された。

文学部卒業生インタビュー #009
"翻訳"という仕事にめぐり合う 越前敏弥さん

翻訳と言う仕事を考える上で非常に興味深いインタビュー記事。

関心がある方は是非。

翻訳百景(文芸翻訳者・越前敏弥のブログ)

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2015年6月28日

「ピパの唄」をめぐる冒険 #2 「ドクター・スリープ」

ロバート・ブラウニングの「ピパの唄」"Pippa's Song")の最後の2行( God's in His heaven, All's right with the world. )の翻訳を集める企画の第二回はスティーヴン・キングの「ドクター・スリープ」(文藝春秋社刊/翻訳:白石朗)から。

「ドクター・スリープ(上)」のp237にはこうある。

すべてよし、問題なし、世はなべてこともなしだった。

前後の文脈があるので正確には、おそらく次の通り。

世はすべてこともなし

わたしの探求はつづく。

@tkr2000

@honyakmonsky

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2015年2月28日

安倍首相のスピーチはトム・クランシーの影響を!?

安倍首相のスピーチ原稿
ここ最近、SNS上に安倍首相のスピーチ原稿の画像が流れている。

画像へのコメントの多くは(水を飲む)(間をとる)(力強く)と言った指示が書き込まれている原稿の存在に驚き、あきれている論調が多いようだが、これは一般的な事であり、特に問題を感じない。

しかしながらホンヤクモンスキーとしては、冒頭の画像にある「今、そこにある危機」に引っかかる。
特にかぎかっこ付きの「今、そこにある危機」に。

かぎかっこが付いていることを常識的に考えると、原稿上の「今、そこにある危機」とはどう考えてもトム・クランシーの小説「いま、そこにある危機」(1989)または同書を原作とする映画「今そこにある危機」からの引用であり、聴衆に対するほのめかしである。

さて、それではトム・クランシーの「いま、そこにある危機」はどのような物語なのだろうか。Wikipediaから一部引用する。

コロンビアの麻薬カルテルの資金洗浄を行っている銀行家とその家族が殺害される。殺害犯を拘束したFBIは麻薬カルテルの口座を確保、麻薬カルテルに対し財政的な打撃を与える事に成功するが、麻薬カルテルはその報復としてFBI長官を殺害する。

大統領はCIA、軍と共同で麻薬密輸阻止作戦を遂行していたが、FBI長官の暗殺を契機にそれを押し進め、カルテルの内部抗争に見せかけた上での麻薬精製工場の破壊やカルテルのボスたちの暗殺を命じる。

しかし、キューバ情報機関はアメリカが関与している事が知り、それが露見してしまうことを恐れた国家安全保障問題担当大統領補佐官は、真相の隠蔽と麻薬の密輸量削減と引き換えに、コロンビア領内に潜入した軽歩兵部隊への支援を絶ち、その情報をキューバ情報機関に渡してしまった。

現地で作戦を支援していたCIA工作員のジョン・クラークは、部隊への支援が絶たれて壊滅に瀕していることを知って急遽帰国し、事態打開のため奔走する。

一方、CIAのジャック・ライアン情報担当次官補佐官は、政府・CIA内の不審な動きに感付き、独自の調査によって作戦の全容を知り、潜入した軽歩兵部隊が今まさに見捨てられつつあることを知った。病で倒れた上司であるグリーア情報担当次官は死の床でクラークとライアン を引き合わせ、2人は見捨てられた歩兵たちを救うため独自の行動を開始する。

端的に言うと、アメリカ合衆国大統領の麻薬カルテルのボスの暗殺の命によりコロンビア領内に潜入した軽歩兵部隊が見捨てられ、それをクラークとライアンが救出する物語である。

そしてその後ジャック・ライアンシリーズはどうなって行くのか。

「恐怖の総和」(1991) 中東和平に反発するテロリストがアメリカ国内でで核テロを実行。疑惑が疑惑を呼び合衆国はソ連と全面戦争の危機に。

「日米開戦」(1994) 日本の関税と同率にアメリカの関税を定める貿易改革法が成立。危機に陥った日本の経済的支配者がアメリカに対して戦争を仕掛けた。日本人パイロットがアメリカ合衆国議会議事堂にジャンボジェットを突入させ、アメリカ大統領、最高裁判事、閣僚、上・下両院議員など多数の政府要人が死亡した。

「合衆国崩壊」(1996) 日本の民間航空機によるテロがきっかけで、急遽合衆国大統領に就任したライアン。新大統領が弱腰と見た反米3ヶ国(イラン、インド、中国)は新たなる陰謀に乗り出す。また合衆国国内でエボラ出血熱が蔓延。異常な広がり方から生物テロの疑いが強まる。ライアンたちは綿密な調査の結果、事件を新興国イスラム連合の仕業と断定。

いかがだろうか、トム・クランシーの「いま、そこにある危機」をかぎかっこ付きで引用した安倍首相はどう考えてもトム・クランシーのジャック・ライアンシリーズのことを知っているだろうし、「いま、そこにある危機」後、物語が「恐怖の総和」「日米開戦」「合衆国崩壊」へと続くのもおそらく知っているのだろう。

その上で安倍首相は「いま、そこにある危機」をかぎかっこ付きで引用したのだ。

そして更に興味深いのは、トム・クランシーが1989年から1996年にかけて発表したこれらの作品は、911テロ、エボラ出血熱、TPP、過激派組織IS=イスラミックステート等を予言しているようにも感じられる。

まあ予言と言うよりは、トム・クランシーが当時の社会情勢を元に描いたフィクションが現実化しているのだろうが。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2015年2月21日

ペンギンのセーターがペンギンブックス

Penguinbooks

2015年2月16日にBuzzapが発信したニュースコラム『オーストラリア最高齢109歳のおじいちゃん、現役で傷ついたペンギンのためのセーターを編み続ける』の写真が興味深い。

『オーストラリア最高齢109歳のおじいちゃん、現役で傷ついたペンギンのためのセーターを編み続ける』

このニュースコラムのどの辺がホンヤクモンスキー的に興味深いかと言うと、まあ一目瞭然だと思うのだけど、左から二番目のペンギンが着ているセーターのデザインが、イギリスの出版社ペンギン・グループのロゴだから。

このセーターは、この記事によると、

羽が原油に塗れたペンギンは、冷たい水が羽の内側まで進入することから体を温めるのが困難となり、狩りにも支障をきたす上に、ベトついた羽を毛づくろいする時に汚泥を呑み込んでしまったりもするのですが、このセーターはそれらを防ぐ役割があります。

2001年にフィリップ島付近で438羽のフェアリーペンギンが原油塗れになる事故があった時、こうしたセーターによって96%が自然に帰ることができたという実績があり、Phillip Island Penguin Foundationは2013年に広くペンギン用のセーターの寄付を募集しました(現在は終了)。

そこで立ち上がったのが当時108歳だったAlfredさん。7人の父親であり20人の孫でもある109歳のおじいちゃんが初めて編み物をしたのは1930年代に赤ちゃんだったいとこのためのセーター。それから80年もの間編み物をしてきました。

とのこと。

因みにこのニュースを最初に報じたのは、オーストラリアのナイン・ネットワークナイン・ストーリーズと言うニュースコラム。

Australia's oldest man still knitting for human and animal friends at 109

まあ皆さんもそうだと思うのだけど、J・D・サリンジャーを思い出すよね。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2015年2月 9日

#翻訳書でしつこく繰り返される表現 が激オモ 

いまツイッターで流行っているハッシュタグ #翻訳書でしつこく繰り返される表現 が激オモ。

#翻訳書でしつこく繰り返される表現 ツイッターのハッシュタグ検索

このハッシュタグの仕掛人は翻訳家の越前敏弥(@t_echizen)。

翻訳書でしつこく繰り返される表現 越前敏弥氏によるトゥギャッターのまとめ。

翻訳書に出てくるよくわからない名詞も楽しそう。

フランス窓
アルコーブ
火かき棒
外套

翻訳書に出てくる食べたいものとか。

パンの実
プリン(「ナルニア国」シリーズのターキュッシュ・デライト)
レンバス(「指輪物語」
バタつきパン

@tkr2000
@honyakmonsky


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2015年1月31日

「はじめての海外文学フェア」はじまってます

『50人に聞きました!老いも若きもまずはこの1冊から はじめての海外文学フェア』
2015年1月26日頃から全国14書店でじわじわと始まっている模様。

『50人に聞きました!老いも若きもまずはこの1冊から はじめての海外文学フェア』についてはこちらをご覧ください。

「はじめての海外文学フェア」開催!(執筆者・酒井七海[丸善津田沼店])

このフェアで興味深いと思ったのは、

従来の入門フェアに入るような古典的なものは避けること。

これは素晴らしいコンセプトですね。

なんとか文庫の100冊とかも本来はおそらく同様のコンセプトで企画したいのではないかな、と想像していますが、まあ大人の事情と言うかどこかの誰かの何かしらの思惑で古典的でスタンダードな作品が選出されているケースがあります。

2015年の現代に生きる人たちに古典的でスタンダードな作品を薦めるのはやはり問題があるのではないか、と考えています。

もちろん良い作品は良いし、時代を感じさせないエバーグリーンな作品はたくさんありますが、そんな作品はあとで読めば良いのです。

と言うのも、日本の国語教育の中で古典的でスタンダードな作品を教科書や読書感想文の課題書として読まされて、それが原因で文学や海外文学に親しめなくなってしまった人々が多い、と言う可能性が否定出来ない、と考えるからです。

余談ですが、以前「バトル・ロワイヤル」(2000)と言う映画の指定(R18+とかR15+とかPG12とか)をどうこうする際に「バトル・ロワイヤル」の指定を上げるべきだと言っていたある政治家がマスコミにどんな映画が好きですか、と質問され、どや顔で「風と共に去りぬ」と答えたことを思い出します。

2000年当時に1939年の作品をベストだとして推す神経と無知に脱力したのを覚えています。こんな人たちが日本の文化をレイティングしているのか、と。

もちろん今回の「はじめての海外文学フェア」にもちょっと古い作品やスタンダードな作品も入っていますが、これを機に、はじめての海外文学に挑戦していただければ、と思います。

開催書店はこちらでご確認願います。

50人が選んだ、2500円以下のオススメ海外文学。「はじめての海外文学」フェア 

余談ですがジャック・ケッチャムの「オフシーズン」「はじめての海外文学フェア」に入っているのは、古典的な作品が入っているのとは逆の意味でまずいんじゃないかな、と思いました。

まあ「隣の家の少女」が入っているより随分とましだと思いますが。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2015年1月15日

「ピパの唄」をめぐる冒険 #1 「でかした、ジーヴス!」

今日たまたまP・G・ウッドハウスの「でかした、ジーヴス!」を読んでいたら、またもやロバート・ブラウニングの「ピパの唄」"Pippa's Song")の最後の2行が引用されているのを発見した。

そんな「ピパの唄」だが、わたしが「ピパの唄」(の最後の2行)に関心を持ったのは、アニメーション作品「赤毛のアン」の最終回。サブタイトルは文字通り「ピパの唄」の最後の2行の翻訳「神は天にいまし、すべて世は事もなし」

この「ピパの唄」の最後の2行は「新世紀エヴァンゲリオン」に登場するネルフのロゴタイプで引用されていることでも有名だし、様々な欧米作品に引用されている。

God's in His heaven, All's right with the world.

原文は唯一無二だが、日本語では千差万別。
そんな千差万別の日本語訳を人力で検索して行きたいと思う。

そんな訳で、わたし自身が発見した「ピパの唄」の最後の2行の翻訳を集めてみることにした。

その第1回目は前述の通りP・G・ウッドハウスの短篇集「でかした、ジーヴス!」に収録されている「ビンゴ夫人の学友」。翻訳は森村たまき。

神、そらに知ろしめしてすべて世は事も無し

@tkr2000
@honyakmonsky

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2014年5月26日

「?」から「!」へ、ってヴィクトル・ユーゴー!?

Piri-it! / サンスター文具
2014年5月25日のGIZMODO JAPANの記事が興味深い。

「?」から「!」へ。意味の変わる付箋があるらしい

まずは、この動画を。

Piri-it! ピリット サンスター文具

いかがでしょう。
これは結構面白いコンセプトの文房具ですよね。

それはともかく、なぜ当ブログ「ホンヤクモンスキーの憂鬱」がこの商品を取り上げているのか、と言う話ですが、「?」と「!」の話なので、既に皆さんご承知だと思うのですが、これは世界最短の手紙として有名な二通の手紙の内容なんですね。

1862年の「レ・ミゼラブル」の出版直後、海外旅行に出かけたヴィクトル・ユーゴーは、その売れ行きが心配になりそれを尋ねるため出版社に「?」と一言書いた手紙を送ったところ、出版社はそれに対し「!」と言う返事を送ったと言う話ですね。

サンスター文具はヴィクトル・ユーゴーの影響を受けている、と言う訳。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2014年1月 3日

「ゼロ・グラビティ」は「オズの魔法使い」の影響を!?

「ゼロ・グラビティ」 さて、今日は全ての事象は翻訳小説の影響を受けている、と言うホンヤクモンスキーの妄想的エントリー。

今日、俎上に乗せるのは、アルフォンソ・キュアロン監督作品「ゼロ・グラビティ」

「ゼロ・グラビティ」は、2013年12月13日に日本公開となったSF・ヒューマン・サスペンス映画。

「ゼロ・グラビティ」"Gravity"
監督:アルフォンソ・キュアロン
脚本:アルフォンソ・キュアロン、ホナス・キュアロン
撮影:エマニュエル・ルベツキ
出演:サンドラ・ブロック(ライアン・ストーン)、ジョージ・クルーニー(マット・コワルスキー)、エド・ハリス(ミッション・コントロール)

本作「ゼロ・グラビティ」は、みなさんお気付きのように、どう考えても様々なSF作品への暗喩や言及に満ちていると思えてならない。
作品名をあげるならば「2001年宇宙の旅」「猿の惑星」「アポロ13」「バーバレラ」「エイリアン」「アビス」等々。

しかし、当ブログ『ホンヤクモンスキーの憂鬱』としては「ゼロ・グラビティ」と言う作品は、翻訳作品の影響を、その中でも特にライマン・フランク・ボームの「オズの魔法使い」の影響を受けている、と言う方向にお話を持って行きたいと考えている。

わたしが最初に「オズの魔法使い」の影響を感じたのは、サンドラ・ブロック演じるライアン・ストーン博士が、事故死した娘の赤い靴を見つけた話をするシーン。
赤い靴は当然ながら「オズの魔法使い」の《ルビーの靴》のメタファーである。

そして、赤い靴を見つけた、ということは、我が家(Home)への、つまり地球への帰還の方法を見つけた、ということに他ならない。

ライアンが赤い靴を見つけた話をする背景には、ジョージ・クルーニー演じるマット・コワルスキーが、宇宙を漂流するライアンを元気づけるため、家族の話をしたことに端を発するのだが、そのマットはジョークやほら話が好きなキャラクターとして設定されており、いい加減なことを常々つぶやいている。

「ゼロ・グラビティ」より
命綱で繋がれたライアンとマットはマットのMMUを使ってISSに向かう。

赤い靴の発見までの「ゼロ・グラビティ」のストーリーは概ね次の通り。

ライアン・ストーン博士はミッション・スペシャリストとしてスペースシャトル・エクスプローラー号に乗り込み、地上約600kmの衛星軌道上を周回するハッブル宇宙望遠鏡(HST)の修理を行っていた。そこにロシアが破壊した人工衛星の大量の破片がスペースデブリとなり高速で接近しつつある、という通信が地球のミッション・コントロールから入る。

エクスプローラー号に避難しようとするライアンとマットだったが、大量のスペースデブリがエクスプローラー号を直撃、ライアンとマットは宇宙空間に別々に放り出されてしまう。

離ればなれになった二人は、有人機動ユニット(MMU)を装着しているマットの機転と行動力でなんとか合流し自分たちを命綱で繋ぎ、一時はエクスプローラー号に帰還する。しかし被害状況が芳しくなく二人は国際宇宙ステーション(ISS)に向かう決断をする。

MMUの燃料不足もあり、不可抗力からISSに衝突してしまった二人はその反動でISSからはじき飛ばされてしまいそうになる。ライアンは辛うじてISS上の宇宙船ソユーズのパラシュートのロープに引っかかるが、マットの命綱に引かれてライアンもソユーズから離れそうになってしまう。マットはライアンを助けるため、自ら命綱を切断する。

「ゼロ・グラビティ」より

辛くもISSに入ったライアンだったが、ISS内部で発生した火災のため宇宙船ソユーズに避難する。しかしソユーズは燃料切れのためエンジンが作動せず、ライアンは死を覚悟し船内の酸素供給を停止させる。

しかし、マットが突然ソユーズのハッチの向こう側に現れ、船外活動の新記録だ、とかなんとか言いながらソユーズに入ってくる。

マットは、ソユーズの燃料がなくても、自動制御の着陸時の逆噴射システムによりソユーズをISSから離脱させ、中国の宇宙ステーション天宮へ向かう推進力に使えるのではないか、と示唆する。つまり、マットはライアンに機械を騙す方法を考えろ、と言う訳だ。

しかしマットはライアンが見た幻に過ぎなかった。

そこで、ライアンは赤い靴を見つけた話をする。

亡くなった娘が生前探していた赤い靴を自宅で見つけたわよ、とライアンは亡き娘に独り言で報告するのだ。

「ゼロ・グラビティ」における赤い靴は前述のように「オズの魔法使い」に登場する《ルビーの靴》のメタファーであり、我が家(Home)に帰るための唯一の方法のメタファーである。

《ルビーの靴》
《ルビーの靴》 映画「オズの魔法使」より

ここで、ジョージ・クルーニー演じるマット・コワルスキーはオズの大魔王の役柄を振られている事が明らかになる。

マットがジョークやほら話が好きな理由はそういう訳なのである。

というのも、オズの大魔王は魔法使いでもなんでもなく、ただのほら吹きのペテン師で、機械装置で大魔王の威厳や魔法を演出していただけなのである。

ソユーズに入ってくるマットがライアンの幻に過ぎないのは、マットがオズの大魔王であり、その存在自体がいかさまであることを明示している。

《オズの大魔王》
《オズの大魔王》 映画「オズの魔法使」より

しかし、ここで考えなければならないのは、もしライアンの娘が事故に遭う前に赤い靴を見つけていたら、ライアンの娘はおそらくは事故死せず、我が家(Home)に帰る事が出来たであろう、ということ。その場合、つまり娘が生きていた場合はライアンは赤い靴を見つけられずに、地球(Home)へ帰る事が出来なかった、と推測することが出来る。

ライアンは亡き娘の代わりに、我が家(Home)へ帰る手段である《ルビーの靴》を見つけたのである。

つまり、娘の代わりに生き延びる事が出来た、娘の命の代わりに命を得た、と言う解釈が出来る。

ところで「オズの魔法使い」の物語の中で、ドロシーと旅をするブリキの木こりは《知恵》を、かかしは《心》を、臆病ライオンは《勇気》を手に入れる事を願っている。

「ゼロ・グラビティ」の物語は端的に要約すると、ライアンが《知恵》《心》《勇気》を取り戻し、オズの大魔王の助言で《ルビーの靴》を見つけ、《我が家》に帰る物語なのである。

そして、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)、スペースシャトル・エクスプローラー号、国際宇宙ステーション(ISS)、宇宙船・ソユーズ着陸船、宇宙ステーション天宮、宇宙船・神船、地球へと続く道は、スペースデブリで出来たイエロー・ブリック・ロードに他ならない。

どうだろう、「ゼロ・グラビティ」「オズの魔法使い」の影響を受けている事にはガッテンしていただけただろうか。

There is no place like home!

※ 実際の「オズの魔法使い」の物語では《ルビーの靴》は《銀の靴/スリッパ》であり、ドロシーに《銀の靴》を使ってカンザスに戻る方法を教えるのは、《南の魔女・グリンダ》。「ゼロ・グラビティ」では、《オズの大魔王》と《グリンダ》のキャラクターを統合し、マット・コワルスキーのキャラクターとしていると解釈できます。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2013年8月10日

「パシフィック・リム」がラブクラフトの影響を!?

「パシフイック・リム」 さて、今日は全ての事象は翻訳小説の影響を受けている、と言うホンヤクモンスキーの妄想的エントリー。

今日、俎上に乗せるのは、ギレルモ・デル・トロ監督作品「パシフイック・リム」 

「パシフィック・リム」は、2013年8月9日に日本公開となったSF怪獣映画。

「パシフィック・リム」
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:トラヴィス・ビーチャム、ギレルモ・デル・トロ
出演:チャーリー・ハナム、菊地凛子、イドリス・エルバ、チャーリー・デイ、バーン・ゴーマン、マックス・マルティーニ、ロバート・カジンスキー、クリフトン・コリンズ・Jr、ロン・パールマン、ディエゴ・クラテンホフ、芦田愛菜

あらすじ:太平洋の深海から突如巨大な生命体が出現した。“KAIJU”と名付けられた巨大な生命体は大都市を次々と襲撃し、容赦ない破壊を繰り返す。

滅亡の危機を迎えた人類は世界中の英知を結集し、人型巨大兵器“イェーガー”を開発する。当初は優勢を誇ったイェーガーだったが、出現するたびにパワーを増していくKAIJUたちの前に次第に苦戦を強いられていく。

そんな中、かつてKAIJUとの戦いで兄を失い、失意のうちに戦線を離脱した名パイロット、ローリーが復帰を決意する。彼が乗る旧式イェーガー“ジプシー・デンジャー”の修復に当たるのは日本人研究者の森マコ。彼女は幼い頃にKAIJUに家族を殺された悲しい記憶に苦しめられていた。やがて彼女はローリーとの相性を買われ、ジプシー・デンジャーのパイロットに大抜擢されるのだったが・・・・。

本作「パシフィック・リム」は8月9日に日本公開されたばかりの作品であるから、詳細は控えるが、どう考えても映画史に残るような素晴しい作品に仕上がっている。もちろん怪獣映画としてではなく、映画としてである。

ところで、ときどきだが、この世にはスタッフもキャストも自分の力量を遥かに超えた結果をフィルムに定着させたような、言わば奇跡のような作品が出てくるのだが、本作「パシフイック・リム」も、それらの作品と同様に悪いところが全くない奇跡みたいな作品の一本だと言える。

いつものくせで、映画を観ると、あれは《ルビーの靴》のメタファーで、これは「オズの魔法使い」でいうところの《竜巻》で、とか、いろいろとくだらない解釈をしてしまうところなのだが、本作「パシフイック・リム」は、そんなスノッブな解釈をするのが恥ずかしくなるような、解釈なんかしている場合ではないほどの素晴しさに感涙ものの作品である。

わかっている奴らが作品に真摯に向かい合い、そんな奴らの怪獣に対する深い愛情を溢れんばかりに作品に注ぎ込んだ、その結果がこの「パシフイック・リム」なのだ。

しかし、当ブログとしては「パシフイック・リム」と言う作品は、翻訳作品の影響を受けている、と言う方向に持って行きたいと思います。

まぁ実際のところは、今日のエントリーはそんな話をするのが目的ではなく、取りあえずすぐ劇場に行け、と言うこと。

さて、「パシフイック・リム」のどの辺が翻訳作品の影響を受けているか、と言う話なのだが、「パシフイック・リム」は、H・P・ラブクラフトの作品から派生する「クトゥルフ神話体系」の一つの作品だと思えてならない。

と言うのは「パシフイック・リム」に登場するKAIJUの出自が「クトゥルフ神話体系」によるところの《古きもの》(旧支配者)の眷属として描かれているのだ。

「パシフィック・リム」本編のセリフや設定でそのあたりも描かれているのだが、前述の通り公開直後と言う事もあり詳細は割愛する。

ここで考えられるのは、ギレルモ・デル・トロの「パシフィック・リム」以前の頓挫した「狂気の山脈にて」(H・P・ラブクラフト)の映画化企画の設定を「パシフィック・リム」に取り込んだのではないか、と言う事。

事実、
「パシフィック・リム」のKAIJUは、物理法則を超えた手法で、われわれの地球に来ているのだ、と言う描写がある。つまり「パシフィック・リム」は一見するとSF怪獣映画に見えるのだが、その背景にはコズミック・ホラーの側面をも持っている、と言えるのだ。

ここまで来て、一体何が言いたいかと言うと、さっきも言ったように、取りあえず劇場に走れ、と言う事だけである。

ラブクラフトがどうしたとか、コズミック・ホラーがどうしたとか、ルビーの靴がどうしたとか、そんなのどうでも良い話なのだ。

@tkr2000
@honyakmonsky


ところでだが、「パシフィック・リム」に登場する日本の女優陣は凄い。

菊地凛子のヒロイン振りは世界を魅了しているだろうし、芦田愛菜は完全に女優をしている。

彼女等は、日本のドラマや何かで普段見られるような演技からは考えられない素晴しい演技を見せている。

また、「パシフィック・リム」は日本の特撮やアニメの影響下にある作品である。

アメリカ人が侍にあこがれ侍になる映画である「ラストサムライ」(2003)の後、侍と言う馬鹿げた生き方を止める(描く)映画を、山田洋次(「隠し剣 鬼の爪」(2004))、行定勲(「北の零年」(2005))、是枝裕和(「花よりもなほ」(2006))らがそれぞれ撮っていることを考えると、今後、日本映画界が「パシフィック・リム」に対してどんなアンサーを出すのか非常に楽しみです。

また、「パシフィック・リム」で描かれている怪獣やロボットとの戦いについても、現在望みうる最高の形態ではあるとは思うけど、もう少しゴニョゴニョと言う気もしますけど。

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