2013年8月18日 東京有楽町TOHOシネマズ日劇で「ワールド・ウォーZ 3D」を観た。
「ワールド・ウォーZ」
監督:マーク・フォースター
原作:マックス・ブルックス 「WORLD WAR Z」(文藝春秋)
脚本:マシュー・マイケル・カーナハン、ドリュー・ゴダード、デイモン・リンデロフ
出演:ブラッド・ピット(ジェリー・レイン)、ミレイユ・イーノス(カリン・レイン)、ジェームズ・バッジ・デール(スピーク)、ダニエラ・ケルテス(セガン)、デヴィッド・モース(元CIAエージェント)、ルディ・ボーケン(ユルゲン)、ファナ・モコエナ(ティエリー)、アビゲイル・ハーグローヴ(レイチェル・レイン)、スターリング・ジェリンズ(コニー・レイン)
あらすじ:その日、ジェリー(ブラッド・ピット)と妻、2人の娘を乗せた車は渋滞にはまっていた。一向に動かない車列に、これがいつもの交通渋滞でないことに気付くが、次の瞬間、背後から猛スピードで暴走するトラックが迫ってくる。必死で家族を守り、その場から逃げ出したジェリー。全世界では爆発的に拡大する《謎のウイルス》によって感染者は増加し続け、大混乱に陥っていた。元国連捜査官として世界各国を飛び回ったジェリーに事態を収束させるべく任務が下る。怯える家族のそばにいたいという想いと、世界を救わなければならないという使命の狭間で、ジェリーは究極の選択を迫られる。感染の速度は加速する一方で、人類に残された時間はわずかだった。(オフィシャルサイトよりほぼ引用)
先ずは「ワールド・ウォーZ」は誰にでもオススメできる普通の娯楽作品だった。
ゾンビ映画なのに、ショックシーンもゴアシーンもほぼ皆無なのでお子さまにも安心。
毒もない素直な娯楽作品で、ゾンビ映画ながら、観賞後普通にお肉も食べられる。
何しろゾンビが人肉を食べないのだ。
だとしたら、何のためにゾンビは人を襲っているのか。
理解に苦しむ。
ところで、本作「ワールド・ウォーZ」のフォーマットは「007」シリーズや「インディ・ジョーンズ」シリーズと同様で、
1.オープニング・アクション
2.Mのオフィス/マーシャル大学
3.冒険開始。
4.世界中を回って手掛かりを探す
と言う感じ。
このフォーマットはある意味無敵で、ちょっとくらいひどい脚本でも結構まともな作品に見えてしまう。
ところで、マックス・ブルックスの「WORLD WAR Z」と言う物語は、世界中あらゆる国と地域でゾンビが発生してから数年後、人類はゾンビをほぼ駆逐し、囲い込む事に成功した。
《世界ゾンビ大戦(WORLD WAR Z)》とは一体何だったのか、世界中あらゆる国と地域で何が起こったのか、どうやってゾンビを駆逐することに成功したのか、その聞き取り調査の記録を纏めたものが「WORLD WAR Z」そのものなのだ。
つまり、「WORLD WAR Z」は、実際の戦争が集結した後に、複数の戦争の当事者たちにインタビュー取材を敢行し、ありのままの戦争を再構築しようとする「NHKスペシャル」みたいなものなのだ。
われわれは、その硬質なスタンスを、孤高な精神を、圧倒的なリアリティを「ワールド・ウォーZ」に求めていた、と言う訳。
物語のプロットとして「アイ・アム・レジェンド」に酷似している。
「アイ・アム・レジェンド」を観てあんなに激怒したわたしだったが、今回の「ワールド・ウォーZ」を観て不思議と腹が立たない。
2作とも《オレ様映画》だし、《一打逆転のプロット》も備えているし、原作を基本的に無視しているし、前半部分と後半部分のテイストが異なっているし、でも不思議と腹が立たない。
ところで、《一打逆転のプロット》の話が出たが、もうそろそろ《一打逆転のプロット》はやめていただきたいと心から思う。
脚本は、冒頭のオープニング・アクションから、アパートの屋上からのヘリコプターによる脱出までは素晴しい。
オープニング・アクションの掴みはOKだし、アパートに入ってからのサスペンスも良い。また屋上の縁に立つジェリーも素晴しい。
フォーマット上は《Mのオフィス》にあたる艦船での描写も良いのだが、ジェリーの行動原理の部分がやはり釈然としない。
また韓国のウイルス学者のシークエンスはマイケル・クライトン原作の「タイムライン」(2003)を思い出した。フランス語を話す必要があったから過去に行ったのに、すぐ死んじゃって、途中からフランス語なんて関係なくなるし。
イスラエルの分離壁のシークエンスは「未知との遭遇」(1977)を思い出したし、壁のシークエンスの原因となる行為が良かった。
次は例の旅客機のシークエンス。
やり過ぎ感は否めないけど、脚本上は良いですね。
そしてWHO。
脚本の書き直し、撮影のやり直しで全取っ替えが行われた部分。
話は良いのだが、物語のサイズが一気に小さくなる。
WHOのシークエンスはサスペンス満載で大変面白いのだがスケールダウン感は否めない。
また、ブラッド・ピットのバールのようなものでのアクションが全て画面の外なのが残念である。
ラストの様々なフッテージのコラージュは良かった。
ある意味「WORLD WAR Z」の原作が生きていた部分だと言える。
キャストは、本作「ワールド・ウォーZ」自体が、ブラッド・ピットやデヴィッド・モースは出演しているものの、基本的にはノンスター・ムービーである。
そんな中、個人的にはダニエラ・ケルテス(セガン)が良かった。
本作を「007」として観ると、ダニエラ・ケルテスは「スカイフォール」(2013)のナオミ・ハリスみたいな感じで、もう視線が釘付けだったよ。
プロット上も非常に面白い位置にいたしね。
ところで本作「ワールド・ウォーZ」は配給会社の広告戦略上、ゾンビ映画である事を伏せられて公開されている。
マックス・ブルックスの原作ファンとしては、ソンビ小説の白眉であり、エポック・メイキングなゾンビとの戦いを描いた「WORLD WAR Z」の映画化作品なのに、原作のテイストが全然生きていない上に、ゾンビの存在まで否定されたら、ゾンビファンとしては立つ瀬がないのだが、本作「ワールド・ウォーZ」は最早ゾンビ映画とは言えないので、まあどうでも良いや、と言う印象に変わった。
まあ、とにかく、「ワールド・ウォーZ」は誰にでもオススメできる普通の娯楽作品で怖くもなんともないしゴアシーンもない楽しいホラー映画に仕上がってますので、是非劇場へ。
@tkr2000
@honyakmonsky
ところで、「ワールド・ウォーZ」では、韓国の農村で発生したゾンビが世界中に拡がっていく、と言うのはなんとなく暗喩的な印象を受けますね。
また、イスラエルの分離壁についても批判的だし。
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