ここ最近、SNS上に安倍首相のスピーチ原稿の画像が流れている。
画像へのコメントの多くは(水を飲む)(間をとる)(力強く)と言った指示が書き込まれている原稿の存在に驚き、あきれている論調が多いようだが、これは一般的な事であり、特に問題を感じない。
しかしながらホンヤクモンスキーとしては、冒頭の画像にある「今、そこにある危機」に引っかかる。
特にかぎかっこ付きの「今、そこにある危機」に。
かぎかっこが付いていることを常識的に考えると、原稿上の「今、そこにある危機」とはどう考えてもトム・クランシーの小説「いま、そこにある危機」(1989)または同書を原作とする映画「今そこにある危機」からの引用であり、聴衆に対するほのめかしである。
さて、それではトム・クランシーの「いま、そこにある危機」はどのような物語なのだろうか。Wikipediaから一部引用する。
コロンビアの麻薬カルテルの資金洗浄を行っている銀行家とその家族が殺害される。殺害犯を拘束したFBIは麻薬カルテルの口座を確保、麻薬カルテルに対し財政的な打撃を与える事に成功するが、麻薬カルテルはその報復としてFBI長官を殺害する。
大統領はCIA、軍と共同で麻薬密輸阻止作戦を遂行していたが、FBI長官の暗殺を契機にそれを押し進め、カルテルの内部抗争に見せかけた上での麻薬精製工場の破壊やカルテルのボスたちの暗殺を命じる。
しかし、キューバ情報機関はアメリカが関与している事が知り、それが露見してしまうことを恐れた国家安全保障問題担当大統領補佐官は、真相の隠蔽と麻薬の密輸量削減と引き換えに、コロンビア領内に潜入した軽歩兵部隊への支援を絶ち、その情報をキューバ情報機関に渡してしまった。
現地で作戦を支援していたCIA工作員のジョン・クラークは、部隊への支援が絶たれて壊滅に瀕していることを知って急遽帰国し、事態打開のため奔走する。
一方、CIAのジャック・ライアン情報担当次官補佐官は、政府・CIA内の不審な動きに感付き、独自の調査によって作戦の全容を知り、潜入した軽歩兵部隊が今まさに見捨てられつつあることを知った。病で倒れた上司であるグリーア情報担当次官は死の床でクラークとライアン
を引き合わせ、2人は見捨てられた歩兵たちを救うため独自の行動を開始する。
端的に言うと、アメリカ合衆国大統領の麻薬カルテルのボスの暗殺の命によりコロンビア領内に潜入した軽歩兵部隊が見捨てられ、それをクラークとライアンが救出する物語である。
そしてその後ジャック・ライアンシリーズはどうなって行くのか。
「恐怖の総和」(1991) 中東和平に反発するテロリストがアメリカ国内でで核テロを実行。疑惑が疑惑を呼び合衆国はソ連と全面戦争の危機に。
「日米開戦」(1994) 日本の関税と同率にアメリカの関税を定める貿易改革法が成立。危機に陥った日本の経済的支配者がアメリカに対して戦争を仕掛けた。日本人パイロットがアメリカ合衆国議会議事堂にジャンボジェットを突入させ、アメリカ大統領、最高裁判事、閣僚、上・下両院議員など多数の政府要人が死亡した。
「合衆国崩壊」(1996) 日本の民間航空機によるテロがきっかけで、急遽合衆国大統領に就任したライアン。新大統領が弱腰と見た反米3ヶ国(イラン、インド、中国)は新たなる陰謀に乗り出す。また合衆国国内でエボラ出血熱が蔓延。異常な広がり方から生物テロの疑いが強まる。ライアンたちは綿密な調査の結果、事件を新興国イスラム連合の仕業と断定。
いかがだろうか、トム・クランシーの「いま、そこにある危機」をかぎかっこ付きで引用した安倍首相はどう考えてもトム・クランシーのジャック・ライアンシリーズのことを知っているだろうし、「いま、そこにある危機」後、物語が「恐怖の総和」「日米開戦」「合衆国崩壊」へと続くのもおそらく知っているのだろう。
その上で安倍首相は「いま、そこにある危機」をかぎかっこ付きで引用したのだ。
そして更に興味深いのは、トム・クランシーが1989年から1996年にかけて発表したこれらの作品は、911テロ、エボラ出血熱、TPP、過激派組織IS=イスラミックステート等を予言しているようにも感じられる。
まあ予言と言うよりは、トム・クランシーが当時の社会情勢を元に描いたフィクションが現実化しているのだろうが。
@tkr2000
@honyakmonsky
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