「心ゆさぶれ!先輩ROCK YOU」で小鷹信光の「マルタの鷹〔改訳決定版〕」翻訳秘話が!
2012年11月17日 日テレで放送された「心ゆさぶれ!先輩ROCK YOU」の《トゥルーストーリー》コーナーで、小鷹信光による「マルタの鷹〔改訳決定版〕」の翻訳秘話が紹介された。
以下、「心ゆさぶれ!先輩ROCK YOU」オフィシャルサイトより引用。
今夜のトゥルーストーリーは、翻訳の重鎮・小鷹信光さんが主人公。
彼が訳した小説「マルタの鷹」は、 日本にハードボイルドの世界を紹介し30年間読み継がれる大人気の作品。
しかし小鷹さんは73歳のある時、 「マルタの鷹」の誤訳を指摘する研究者を見つけます。 こんなに間違っていたなんて...。
しかも相手は自分の息子といってもおかしくないほど若い人物...。 人は誰でも間違うもの、問題はその先です。 小鷹さんが取った行動とは?
この『ハードボイルド界の権威再挑戦の物語/小鷹信光』は非常に興味深い内容でした。
特にホンヤクモンスキーにとってはたまらない内容だったと思いますし、ミステリー好き、ハードボイルド好きにとっても素晴らしい内容でした。
折角なので、見逃した方のために、「心ゆさぶれ!先輩ROCK YOU」の公式アカウントがリアルタイムでつぶやいていたツイートを紹介します。
心ゆさぶれ!先輩 ROCK YOU @senpai_rockyou
人は誰でも間違える。問題はその先だ。プライドを賭けた男の生き様を描くハードボイルド小説の翻訳を手掛けて40年。小鷹信光さんは、日本推理作家協会賞にも輝く重鎮です。けれど、73歳の時、誇りをかなぐり捨てて、教えを請うたのは、息子ほどに年の離れた若者でした。
日本のハードボイルドを語る上で、その名を知らぬ者はモグリだ…小鷹信光。若くして研究者、そして評論家として、注目を浴び、原案を提供したテレビドラマでは、主演の松田優作が…「日本のハードボイルドにいつ夜明けがくるのか?小鷹信光さん」とアドリブをつぶやくほど。
もうひとつの顔は翻訳家。その名を決定付けたのはハンフリー・ボガート主演で映画にもなった「マルタの鷹」。ファンの間でおよそ30年も読み継がれてきたバイブル。人は彼を「日本ハードボイルド界の父」と呼びます。ところが…足下が揺らいだのは「マルタの鷹講義」と題されたサイトに出会った時。
原作についての背景、深い文学的な解釈。筆者は30代の新進気鋭の英文学者。衝撃でした。そこには自分の翻訳の誤りの指摘が…「先刻ご承知のはずだ」つまり「知っている」ととらえた部分が「知らないというのなら教えてやる」とある。全く意味を取り違えていた…
俺のマルタの鷹は既に完成されていたはず…でもその指摘は正しかった。毎月更新される「講義」、次々と暴かれる、かつての自分の過ち。冷や汗のでる思いでした。さらに、決定的な指摘が。それは主人公のある台詞がシェイクスピアの「真夏の夜の夢」から引用されていたということ…
それは人物設定だけでなく、物語の世界観まで左右する重大な見落としでした。翻訳家として生きてきた40年。第一人者としてのプライドが…しかし、そのとき頭に浮かんだのは、自分の本をバイブルとして愛してくれていたファンたちのこと。オレはいままで読者をだましてきたんだ…。
これまでのプライドなんてクソくらえだ。読者に嘘をつかないことこそ、俺のプライドだ。意を決して、あの英文学者のもとへ。息子ほどにも年の離れた若者に頭を下げ、教えを請いました。そして一方で出版社へ出向きます。
しかし…編集部に改訳版を出したいと願い出たところ、古い版の在庫およそ2000部がはけない限り、不可能と言われてしまったんです。それはいくら翻訳を直したところで出版される可能性はゼロに等しいことを意味していました。
それでも諦めるわけにはいかなかった。指摘された誤りを、丹念に洗い出し、原書を確認…読者のために、そして自分のために。修正点は百箇所を越えました。たとえ直しても人目に触れることはないかもしれない。たとえ出せても73歳の俺は生きていないだろう。まるで遺書として残すような覚悟…
3年後、事態は意外な展開を迎えました。「先生…ようやく出版の目星がつきましたよ」なんと諦めかけていた改訂版の出版が決まったのです。そのころあの英文学者による『「マルタの鷹」講義』が出版され、注目を浴びることに。折からのミステリーブームと相まって、奇跡的に在庫が売り切れたのです。
2012年9月、悔いのない改訳決定版を世に問うことができました。そのあと書き「諏訪部講義に心からの感謝の意を表したい…」小鷹さんは、改訳までのいきさつを、包み隠さず綴りました。それは、権威を捨て、新たな一歩を踏み出した「男の想い」でした…
いやぁ、涙が出るくらいの良い話ですよね。
これこそ、ハードボイルドだど! 的なエピソードだと思いました。
ところで、わたしは松田優作主演のテレビシリーズ「探偵物語」の大ファンでして、そのせいもあり小鷹信光の翻訳については思い入れも深いものがあります。
前回、「マルタの鷹」、「赤い収穫」、「影なき男」とつづくダシール・ハメットの一連の作品の新訳が次々と出版されたのは1988年からの大きなプロジェクトでした。
そして、2012年に「マルタの鷹〔改訳決定版〕」が出版される訳ですが、その経緯が情報バラエティ番組で紹介されたのは、なんとも感慨深い印象を受けます。
と言うのも、これにより、ハードボイルド好き、ミステリー好きの読者だけではなく、一般の視聴者に小鷹信光の孤高な精神が敷衍されることになったのです。
これこそが、もしかすると、日本のハードボイルドの夜明け、のきっかけになるのではないだろうか。そんなことを考えました。
この番組のせいかどうか、現在Amazon.co.jpでは、「マルタの鷹〔改訳決定版〕」の新品の在庫は切れプレミアがついています。
(本文敬称略)
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