カテゴリー「読書会」の7件の記事

2013年8月28日

「機械男」を読み解くためのメモ その2

2013年7月27日に開催された《第7回ネタバレ円卓会議》に参加した。
課題書はマックス・バリーの「機械男」だったので、ネタバレ円卓会議向けに色々考えたことを紹介します。今日はその第2回目。

第1回目はこちら。
『「機械男」を読み解くためのメモ その1』 2013/08/04

「機械男」

「機械男」
著者:マックス・バリー
訳者:鈴木恵
出版社:文藝春秋

概要:機械を愛するあまり自分を機械化した理系オタク技術者を軍事企業が狙う。初めてできた彼女を守るため、機械男は死地へ赴く!

編集者コメント:映画「ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキーによる映画化が決定しているのが、この「機械男」。雑誌「ワイアード」が絶賛を送る、あまりに21世紀的な理系サスペンスの傑作です。題名どおり自分の身体を機械化してゆく青年エンジニアが主人公。いわば「ロボコップ」ならぬ「ロボオタク」、生まれてはじめてできた彼女を軍事産業の陰謀から守るため、彼は機械の身体を駆使して死地へ飛び込んでゆきます。皮肉な現代批判に切ない恋愛を載せてサスペンスフルに突き進む快作です。(SN) (文藝春秋の「機械男」紹介ページより引用)

◆ローラ・シャンクス(Lola Shanks)について

人生に大切な事の多くを映画で学んでいるわたしは、ローラの名前を聞いて思い出す映画があった。

それは黒澤明の「天国と地獄」(1963)である。

冒頭、製靴会社の常務権藤金吾の自宅に重役連中が集まっていた。
社長のやり方はもう時代に合わない、と言う重役連中が持ってきた女性靴の見本は社長や権藤がすすめる上質なものではなく、すぐに壊れてしまう品質だった。
彼らは、手縫の上質で、何度も直しながら何十年も使える靴の時代は終わり、大量生産の安物の時代が来ていると考えているのだ。

その話を聞いて激昂した権藤は見本の靴を手でバラバラにしてしまう。

その際に、靴の背骨にあたるシャンクがボール紙で出来ている、と言う描写がある訳です。

Shankにはいろいろな意味があるので、関心がある方は調べてみて下さい。

そんな訳で、義肢装具士ローラ・シャンクスの名前は興味深い訳です。

◆章立て(Chapter)について

「機械男」の章立ては、1、2、3、4・・・・12、13、0となっている。

驚いたことに《ネタバレ円卓会議》に参加した多くの人がこの構成に気付いていなかった。

13章のラスト。
非常に感動的なシーンがあるのだが、これは言わば「天空の城ラピュタ」(1986)の滅びの言葉のシークエンスにも匹敵するシーンだと思う。

そして0章。

ここで描かれているのは、《死と再生》のメタファーであり、フリードリヒ・ニーチェの言うところによる《超人の誕生》である。

「ロボコップ」より、保安部長のジョーンズ(ロニー・コックス)とED-209 そもそも《美脚》のビジュアル・イメージは「ロボコップ」(1987)に登場するED-209(写真はオムニ社の保安部長ジョーンズとED-209)に似ているし、第0章で描かれているのは、「ロボコップ」の誕生シークエンスに酷似している。

しかしながら、物語は「ロボコップ」と言うよりは、アーサー・C・クラークの「2001年宇宙の旅」における《スターチャイルド》の誕生のメタファーであり、イメージとして近いのはオースン・スコット・カードの「エンダーのゲーム」シリーズに登場するジェインの誕生のような印象も受ける。

または、スティーヴン・キング原作の「バーチャル・ウォーズ」(1992)のラストシーン、あの素晴しいラストシーンのような印象をも受ける。

マックス・バリーは1973年生まれだと言う事を考えると、「機会男」はマックス・バリーが多感な時代を過ごした1980〜1990年代の様々な作品の影響が見え隠れしている。

そして、「機会男」のラストはなぜ第0章だったのか。

まあ解釈としてはいろいろと考えられるのだが、わたしは新たな物語の始まりを表していると考えている。

◆なぜ6年後なのか

第0章で描かれているのは、第13章のラストの6年後である。

なぜ6年後なのか。

どう考えても6年後、6と言う数字に何らかの意味があるに決まっている。

p191にこんなセリフがある。

「子供のころ木から落っこちたことがあってさ」ぼくは言った。「脚を切っちゃったんで、縫ってもらったんだ。跡が残った。小さな白い筋が。いまそれがなくなってみると、ちょっぴり寂しいよ。過去との肉体的なつながりだったから。大したものじゃないけど。それでもさ。思いもしない形でつながりを断たれちゃったわけだから。ぼくの体には時間が記憶されている。歴史が埋め込まれているんだ」ジェイソンは何も言わない。「もちろん、人間の組織は七年ごとにすっかり新しくなってしまう。その傷が当時と同じ分子でできていたとは考えにくい。きみは人を七年前のそいつと同一の存在だと見なすことが、本当に適切だと思うか? だって肉体的には別物なんだぞ。元のそいつとつながってはいても、各部はみんな入れ替わってるんだからな。改修した家みたいにさ。なんだか、七年経てば自分がしたことに責任を取らなくてもいいように思えてきたな。別の肉体がしでかした犯罪で、なぜ刑務所にはいらなきゃならないんだ? 結婚の誓いを述べたときと同じ分子をひとつも持たなくなった夫婦に、あくまで夫婦でいることを求めるべきか? ぼくはそうは思わないな。そんな単純な話じゃないのはわかるけど、それがぼくの意見だね」

そう、7年経ってしまったら、人間の組織の分子は全て入れ替わってしまうのだ。

と言う事は、もしかしたら、それが6年後だったら。
もしかしたら、まだ。

そう考えざるを得ない。

そして、「機会男」のラストを読んだ後、冒頭の一節に戻って欲しい。

 子供のころぼくは列車になりたかった。それがおかしなことだとは気づいていなかった・・・・ほかの子たちは列車になるのではなく、列車で遊ぶのだとは。(中略)ぼくにはそれが不思議でならなかった。ぼくが好きなのは自分の体を二百トンの驀進する鋼鉄に見立てること。自分はピストンやバルブやシリンダーなのだと空想することだった。
「それロボットだよ」と仲良しのジェレミーに言われた。「おまえロボットごっこがしたいんだよ」と。そんなふうに考えたことはなかった。ロボットと言うのは目が四角くて、動きがぎくしゃくしていて、たいてい地球を滅ぼそうとする。ひとつのことをきちんと行うのではなく、あらゆることをがさつに行なう。なんでも屋なのだ。ぼくはロボットのファンではなかった。ロボットはだめな機械だ。

さて、こんな回想をしているのは一体誰なんだろうか。
もちろんチャールズ・ニューマンその人なんだが、いつの時点のニューマンなのか。

第13章までのニューマンなのか、それとも第0章のニューマンなのか。

本当にこの「機械男」と言う物語は恐ろしい構造を持っているよね。

今日はここまで。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2013年7月21日

来週末は《第7回ネタバレ円卓会議》を開催します

ところで、開催が来週末に迫った《第7回ネタバレ円卓会議》ですが、気になる課題本はマックス・バリーの「機械男」でございます。

「機械男」 「機械男」
著者:マックス・バリー
訳者:鈴木恵
出版社:文藝春秋

概要:機械を愛するあまり自分を機械化した理系オタク技術者を軍事企業が狙う。初めてできた彼女を守るため、機械男は死地へ赴く!

編集者コメント:映画「ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキーによる映画化が決定しているのが、この「機械男」。雑誌「ワイアード」が絶賛を送る、あまりに21世紀的な理系サスペンスの傑作です。題名どおり自分の身体を機械化してゆく青年エンジニアが主人公。いわば「ロボコップ」ならぬ「ロボオタク」、生まれてはじめてできた彼女を軍事産業の陰謀から守るため、彼は機械の身体を駆使して死地へ飛び込んでゆきます。皮肉な現代批判に切ない恋愛を載せてサスペンスフルに突き進む快作です。(SN) (文藝春秋の「機械男」紹介ページより引用)

《第7回ネタバレ円卓会議》
日程:2013年7月27日(土) 14:00〜
会場:東京都渋谷区某所
幹事:内田桃人( @momoto_u )

乞うご期待でございますね。

「Machine Man」 余談ですが、わたしが購入したkindle版の「Machine Man」の表紙には、スコット・スミスの絶賛コメントがついてました。

"Wickedly Entertaining, A Brilliant Book"

"意地悪で面白い、素晴しい作品"

「シンプル・プラン」「ルインズ 廃墟の億へ」のスコット・スミスには、"Wickedly" なんて言われたくないですよね。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2013年6月10日

「最速!海外ミステリ先読みスニークプレビュー#5」にデイヴィッド・ゴードンがおしのびで!?

2013年6月8日に東京新宿のLive Wire Biri-Biri酒場 新宿で開催された「最速!海外ミステリ先読みスニークプレビュー#5」に、デイヴィッド・ゴードンがおしのびで来場した。

Live Wire [180] 13.6.8(土) 最速!海外ミステリ先読みスニークプレビュー#5

日程:2013年6月8日(金) 16:00〜
会場:Live Wire Bari-Bari酒場 新宿
   東京都新宿区新宿5丁目11-23 八千代ビル2F
出演:若林踏、酒井貞道
料金:500円

因みにこのイベント、翻訳ミステリのゲラを基に、2人の若手書評家が出版前の話題作をレビューするイベント。

なお、今回の《先読みスニークプレビュー》に取り上げられたのは次の3冊。

「ミステリガール」デイヴィッド・ゴードン著、青木千鶴訳
「冬のフロスト」R・D・ウイングフィールド著、芹澤恵訳
「殺人者の娘たち」ランディ・マイヤーズ著、鹿田昌美訳

そんな中、デイヴィッド・ゴードン氏が「ミステリガール」のプロモーションのためなのか、《映画「二流小説家」公開前夜祭 デイヴィッド・ゴードンTokyo Talk Session》の会場の下見なのか、 おしのびで来場した模様。

また、「冬のフロスト」の翻訳家の芹澤恵さんも来場していました。

わたしは、この《先読みスニークプレビュー》の後に開催された「二流小説家」の読書会に参加するため、《先読みスニークプレビュー》が終わる少し前に会場入りして、びっくりしてしまった。

で、読書会のために持っていった「二流小説家」にサインをもらった訳。

デイヴィッド・ゴードンのサイン入り「二流小説家」
デイヴィッド・ゴードンのサイン入り「二流小説家」

因みに先日お伝えしたように、6月14日(金)には、デイヴィッド・ゴードンを招いたトークショー&質問会が開される。

詳細は次の通り。

Live Wire [182] 13.6.14(金) 映画「二流小説家」公開前夜祭 デイヴィッド・ゴードンTokyo Talk Session

日程:2013年6月14日(金) 19:00〜
会場:Live Wire Bari-Bari酒場 新宿
   東京都新宿区新宿5丁目11-23 八千代ビル2F
出演:デイヴィッド・ゴードン、杉江松恋(聞き手)
料金:1,500円

@tkr2000
@honyakmonsky

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2013年6月 2日

デイヴィッド・ゴードン来日情報

映画「二流小説家 シリアリスト」特報

2013年6月15日公開の映画「二流小説家 シリアリスト」のプロモーションのため、原作者のデイヴィッド・ゴードンが来日する模様。

しかも、公開前日の14日(金)にはビリビリ酒場においてデイヴィッド・ゴードンを招いたトークショー&質問会が開される。

詳細は次の通り。

Live Wire [182] 13.6.14(金) 映画「二流小説家」公開前夜祭 デイヴィッド・ゴードンTokyo Talk Session

日程:2013年6月14日(金) 19:00〜
会場:Live Wire Bari-Bari酒場 新宿
   東京都新宿区新宿5丁目11-23 八千代ビル2F
出演:デイヴィッド・ゴードン、杉江松恋(聞き手)
料金:1,500円

また、このイベントに先駆け8日(土)には「二流小説家」の読書会と「デイヴィッド・ゴードン来日緊急対策サミット」と題し、14日のイベントに備えデイヴイッド・ゴードンへの質問を募集する模様。

Live Wire [181] 13.6.8(土) Biri-Biri酒場ワンコイン読書会#3 デイヴィッド・ゴードン『二流小説家』

日程:2013年6月8日(土) 18:00〜
会場:Live Wire Bari-Bari酒場 新宿
   東京都新宿区新宿5丁目11-23 八千代ビル2F
出演:若林踏
料金:500円

因みにビリビリ酒場はキャパが比較的小さな非常にフレンドリーな会場で、おそらくデイヴイッド・ゴードンと普通に会話が出来る場になると思います。
関心がある方は是非。

わたしもスケジュールを調整して是非参加したいと考えています。

「二流小説家」予告編

「二流小説家 シリアリスト」オフィシャル・サイト

「二流小説家 シリアリスト」
監督:猪崎宣昭
脚本:尾西兼一、三島有紀子
原作:デイヴィッド・ゴードン 「二流小説家」(早川書房刊)
出演:上川隆也、片瀬那奈、平山あや、小池里奈、黒谷友香、賀来千香子、でんでん、高橋恵子、長嶋一茂、戸田恵子、中村嘉葎雄、佐々木すみ江、本田博太郎、伊武雅刀、武田真治

あらすじ:売れない小説家・赤羽一兵。彼のもとにある日、連続殺人犯の死刑囚・呉井大悟から「告白本を書いて欲しいという」執筆依頼が舞い込む。
「この告白本を書けば一流の小説家になれるかもしれない・・・・」。欲望に駆られた赤羽は呉井に会いに行く。しかし告白本の出版には条件があった。それは呉井を主人公にした小説を書くこと。しぶしぶ承諾した赤羽は、小説を執筆するために3人の女性の取材をはじめるが・・・・。(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

わたしがデイヴィッド・ゴードンに個人的にしたい質問としては、「二流小説家 シリアリスト」のアートワークについてどう思っているか、を聴いてみたい。

まあ、いろいろと大人の事情があるので、難しい質問かも知れないが、個人的にはそこか一番気になっている。

なお、デイヴイッド・ゴードンの長編第二作目にあたる期待の「ミステリガール」は、6月5日にハヤカワ・ミステリ(ポケミス)から刊行される模様。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2013年4月22日

「世界が終わるわけではなく」をめぐる冒険 その1

2013年4月20日 第6回ネタバレ円卓会議「世界が終わるわけではなく」に参加した。

「世界が終わるわけではなく」
著者:ケイト・アトキンソン
訳者:青木純子
出版者:東京創元社

先ずはこちら、ネタバレ円卓会議向けにPreziで作成したプレゼンテーションをご覧ください。

ネタバレ円卓会議と言う読書会は、参加者の妄想まじりのアカデミックな考察が楽しめる読書会なのだが、今回の課題書「世界が終わるわけではなく」に対する参加者の妄想半分のアカデミックな考察も興味深かった。

例えばこんな具合。

◆ヴンダーカンマー(驚異の部屋/不思議の部屋)

@momoto_uさんの「世界が終わるわけではなく」に頻発するヴンダーカンマー的な博物学的な描写を基に作品を読み解こうとするアプローチ。

◆ギリシア神話

@varietasdelectさんと@nahanohanaさん、そして@yoshida222320さんの原書「Not the End of the World」の扉絵にもなっているギリシア神話のエピソードから作品を読み解こうとするアプローチ。

◆夢中の夢/胡蝶の夢

@gya_sanさんの夢中の夢、胡蝶の夢から作品を読み解こうとするアプローチ。

◆黄道十二星座

@yoshida222320さんの西洋占星術というか、黄道十二宮から作品を読み解こうとするアプローチ。

◆映画とゲーム

これはわたしのアプローチ。
なぜ、こんなに多くの映画やゲームへの言及が、しかも作品の本質をついた言及が執拗に繰り返されているのか。

◆アルファベット

これもわたしのアプローチ。
検証していないので恐縮だが、作品に登場するキャラクターの頭文字はA〜Zになっているのではないか。

◆繰り返し

これもわたしのアプローチ
なぜ、同じような描写が何度もなんども執拗に繰り返されるのか。

参加者が持ち寄った「世界が終わるわけではなく」考察資料の山
参加者が持ち寄った「世界が終わるわけではなく」考察資料の山。
参加者が美味しくいただきました。

因みに今回のネタバレ円卓会議には、スペシャル・ゲストとして「世界が終わるわけではなく」の翻訳家である青木純子さんにご参加いただき、同書の翻訳の裏話や、翻訳業界の現状等、いろいろな興味深いお話を伺う事が出来ました。

お忙しいのにも関わらず、
ネタバレ円卓会議は3時間。
二次会の懇親会も3時間強。
三次会の懇親会は1時間強。
なんと14時から23時くらいまでお付合いいただきました。
大変お疲れさまでした。

余談ですが、ネタバレ円卓会議では、参加者の中には原書をちょぼちょぼと読んで来ている人もたまにいるので、翻訳ではこうなっているけど、原書ではどうなっているのか、と、そのあたりの表現の相違を円卓会議の俎上に乗せる事もままあるのですが、それも円卓会議の楽しみのひとつだと言えます。

また、先程紹介した@yoshida222320さんは、わたしたちの中では《吉田探偵》と呼ばれていて、作品の背景に潜む様々な闇を白日の下に引きずり出す事に喜びを感じ、わたしたちはそれを彼に半ば強要しているのですが、今回は黄道十二星座からの考察で、ある画像をプロジェクターでスクリーンに映した瞬間の、参加者の絶叫の渦と言うか阿鼻叫喚と言うか、は恐ろしいものがありました。

そしてここからがわたしの結論。

実はこれらのアプローチが全て一つの結論、つまり「世界が終わるわけではなく」でケイト・アトキンソンがやろうとした事を指し示しているのです。

残念ながら@unyueさんの結論とほとんど同じになってしまいました。

まあ、途中経過は異なっているんですけど。

長くなってきましたので、つづきは次回。

@tkr2000
@honyakmonsky 

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2013年3月17日

「比類なきジーヴス」第3回札幌読書会をめぐる冒険 その2

こんにちは、ところてん2000です。(嘘)

と言う訳で、2013年2月16日に北海道札幌市で開催された《第3回札幌読書会》のレポートが出揃った模様。

『第3回札幌読書会レポート・前編(執筆者・畠山志津佳)』
2013/03/16 「翻訳ミステリー大賞シンジケート」  

『第3回札幌読書会レポート・後編(執筆者・畠山志津佳)』
2013/03/17 「翻訳ミステリー大賞シンジケート」

『2/16読書会 2次会レポート ~白い恋人編~』
2013/03/14 JUST FOR KICKS

『2/16読書会 2次会レポート ~黒革の手帖編~』
2013/03/17 JUST FOR KICKS

『「比類なきジーヴス」第3回札幌読書会をめぐる冒険』
2013/02/19 「ホンヤクモンスキーの憂鬱」 

余談ですが、『2/16読書会 2次会レポート ~黒革の手帖編~』 で、森村たまきさんがサインをしている際、森村さんがサインしやすいよう手が添えられていますが、その手はわたしの手ですね。見た事があると思いました。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2013年2月19日

「比類なきジーヴス」第3回札幌読書会をめぐる冒険

2013年2月16日に北海道札幌市で開催された《第3回札幌読書会》に参加した。

課題書は次の作品のいずれか。

「ジーヴズの事件簿/才知縦横の巻」
著者:P・G・ウッドハウス
訳者:岩永正勝、小山太一
出版社:文藝春秋(文春文庫)

内容紹介:20世紀初頭のロンドン。気はいいが少しおつむのゆるい金持ち青年バーティには、厄介事が盛りだくさん。親友ビンゴには浮かれた恋の片棒を担がされ、アガサ叔母は次々面倒な縁談を持ってくる。だがバーティには嫌みなほど優秀な執事がついていた。どんな難題もそつなく解決する彼の名は、ジーヴズ! 世界的ユーモア小説の傑作選。

「比類なきジーヴス」
著者:P・G・ウッドハウス
訳者:岩永正勝、小山太一
出版社:文藝春秋(文春文庫)

内容紹介:これであなたもウッドハウス中毒!! 全世界が爆笑? 比類なき大名作連作短編集。

そんな訳でわたしは、「ジーヴズの事件簿/才知縦横の巻」「比類なきジーヴス」、kindle版「The Inimitable Jeeves」を拾い読みして参加した。

今回の札幌読書会には東京から3名、国書刊行会の「ジーヴスシリーズ」の翻訳家である森村たまきさん( @morimuratamaki )と、《ネタバレ円卓会議》からの刺客である花さん( @nahanohana )とわたし( @tkr2000 )が参戦した。

森村たまきさんは国内初の「ジーヴスシリーズ」の読書会に参加する、と言う重要な任務を帯びての参戦であった。

われわれ東京組が参加する事により、札幌在住の方々の参加枠を減らしてしまった事をお詫びしつつの読書会への参加であった。

CAFEサーハビーの想いが伝わるドーナツの山
CAFEサーハビーの想いが伝わるドーナツの山。

さて読書会。

第3回札幌読書会の参加者は女性9名、男性2名の総勢11名。

会場は、ザ・ビートルズや映画関係のフィギュアやポスターやムックが所狭しと並ぶCAFEサーハビー。個人的に一番驚いたのは「海底二万哩」のノーチラス号のブループリントが飾ってあった事。

今回の課題書である「比類なきジーヴス」(今回の読書会の課題書は2冊ありますが、便宜上「比類なきジーヴス」とします)は、議論や激論の題材となるような種類の作品ではないので、どちらかと言うと「ジーヴスシリーズ」への愛や想いを語る読書会になりました。

特に森村たまきさんのジーヴス愛や、国書刊行会からの「ジーヴスシリーズ」出版の裏話など、感涙ものの興味深いお話を聞く事が出来ました。

また、森村さんからは、ジーヴスグッズや、国書刊行会からの販促グッズ等のプレゼントをいただき、二次会では大ジャンケン大会が実施されました。

《ネタバレ円卓会議》からの刺客である花さんからは、東京からの《旅の栞》「よしきたジーヴス札幌読書会だホー」や、読書会向けのジーヴスiPhoneカバーが話題の的に。

一方、札幌読書会のメンバーは硬軟入り混じり、良い意味で主張の強い方が多く、個人的にはひやひやする瞬間もありました。

また札幌読書会メンバーは、それぞれの皆さんの得意分野が大体決まっているようでしたが、その得意分野の知識はもとより、驚く程多くの作品を体系的に読んでいらっしゃる方が多い印象を受けました。

ところで余談ですが、今回の読書会の参加者は女性が9名、男性2名と言う事もあり、男性陣は若干肩身が狭かったような印象を受けました。

さて、せっかくなので、《ネタバレ円卓会議》からのもう一人の刺客であるわたしが用意したお話を少しさせていただきたいと思います。

◆文藝春秋と国書刊行会

国書刊行会から「比類なきジーヴス」が出版されたのは2005年2月。文藝春秋から「ジーヴズの事件簿」(「ジーヴズの事件簿/才知縦横の巻」「ジーヴズの事件簿」の分冊)が出版されたのは2005年5月。

興味深い事に「比類なきジーヴス」には引用の注が各所にあるが、「ジーヴズの事件簿」には注がない。しかし3ケ月の出版時期の差は大きく、kindle版と両書を並べて見ると、具体的な指摘はしないが、「比類なきジーヴス」の訳を参考に「ジーヴズの事件簿」の翻訳に手が入っているような印象を受けた。

また、興味深いのは「ジーヴズの事件簿/才知縦横の巻」の帯。

「ジーヴズの事件簿/才知縦横の巻」の本文中でジーヴズは《従僕》と言う表現であるのにも関わらず、帯には《"スーパー執事"ジーヴズ》と表記されている。これは文庫化された2011年当時話題になっていた、東川篤哉の「謎解きはディナーのあとで」の影響と言うか、それを利用した手法だと思われる。

◆国書刊行会の想い

「比類なきジーヴス」の初版第1刷の発行日は2005年2月14日。わたしの「比類なきジーヴス」は、初版第6刷で、第6刷の発行日は2009年2月14日。

ご存知の方もいらっしゃると思うが、2月14日はP・G・ウッドハウスの命日なのである。

しかし「比類なきジーヴス」のどこを読んでも、2月14日に初版を発行した経緯の記載はない。

わたしはこの国書刊行会の《想い》に感じるものがあった。

国書刊行会は人知れずウッドハウスの命日に記念すべき「ジーヴスシリーズ」の第一巻「比類なきジーヴス」を出版したのだ。黙っている所もなんとも格好良い。

そして、その想いが読者に確実に届いている。

札幌読書会の中で、わたしは「比類なきジーヴス」がなぜ2月14日に出版されたのか、その経緯を森村たまきさんに質問したところ、「比類なきジーヴス」が2月に出る事になった、と担当編集者に言われたので、それなら14日にして下さい、と頼んだと言う事のようである。

わたしはこの国書刊行会の粋なはからいに感涙だよ。

◆バーティーは本当に間抜けなのか

「比類なきジーヴス」は一人称小説である。

一人称小説には大きく分けて二つの種類がある。

その一つは、一人称の視点の持ち主が思った事や考えた事を著者が小説として書き留めた作品と、一人称の視点の持ち主自身が自ら小説を書いている設定の作品である。

本書はまぎれもなく後者である。

つまり、「比類なきジーヴス」と言う作品は、バーティー自身が小説を書いている設定の作品なのである。

そう考えた場合、バーティーは自分自身をおもしろおかしく間抜けに描いている、と言うが推測できる。

ところで本書の特徴の一つとして、様々な小説や戯曲の引用が多用されていることがあげられる。

これは貴族階級のバーティーの当り前の教養なのかも知れないが、わたしにはそうではなく、優秀な人物であるバーティーの知識がこぼれ落ちているのだと思えてならない。つまりバーティーは、小説を面白くするために、自分を間抜けに描いているのではないか、と思えるのだ。

ところで、「比類なきジーヴス」の最後に収録されている「大団円」は、バーティーにとっては最悪に酷い結末を迎える物語である。それを「大団円」("All's Well")とは何事か!

もうわたしは一読して怒り心頭状態である。

しかし、前述のようにバーティーが優秀な人物で、その優秀さを隠しておもしろおかしく小説を書いているとしたら、それはそれでありである。

つまり、その場合、バーティーとジーヴスは同等の優秀な小脳を持った人たちなのであろう、と。

ところで、読書会の後は、二次会と三次会で結局8時間くらい話し続けましたよ。

札幌読書会世話人のshizuka_lat43Nさん( @shizuka_lat43N )をはじめ、参加者の皆さんに感謝です。

ありがとうございました。

あと、CAFEサーハビーの粋なはからいにも感涙です。予約が読書会だと言う事と、みんなが同じ本を持っている所から類推し、その場で検索し、先程紹介した写真のようなサービスをしてくれたのです。

このCAFEサーハビーの《想い》にも感謝です。

@tkr2000
@honyakmonsky

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