カズオ・イシグロは「裏切りのサーカス」を理解できなかった!?
公募した質問や相談に村上春樹が返事を書くサイト「村上さんのところ」で、ホンヤクモンスキー的に興味深いやりとりがあった。
英語で小説を読むのが好きな44歳の男性です。新作を楽しみに待っている作家は、バルガス・リョサ(1936-)、ラッセル・バンクス(1940-)、ポール・オースター(1947-)、カズオ・イシグロ(1954-)といったところです。年上の作家ばかりで、そのうち新作を読む楽しみがなくなってしまうのではと恐れています。そこで村上さんにお願いです。おすすめの若手作家がいたら教えて下さい。 (オダンゴパン、男性、44歳、会社員)
ぜんぜん関係ないんですが、このまえイシグロと話していて、映画の話になって、『裏切りのサーカス(Tinker Tailor Soldier Spy)』の話になりました。で、「ハルキ、あの映画の筋わかった?」と言うから、僕は「あの原作 (ル・カレ)を二度読んでいるから、だいたいわかるよ」と言うと、「ぼくはあれ、筋がほとんどよくわかんなかったよ」と少し悲しそうな顔で言いました。あの映画、僕のまわりでも「よくわからん」という人が多かったけど、イシグロさんでもわからないんだと妙に感心しました。
あなたの好きな作家の中で僕が会ってないのはリョサだけですね。最近の若手の作家、僕もあまりよく知らないんです。だんだん年寄り専門になっているんで。 ああ、そうだ、やっぱりジュノ・ディアスが面白いですね。ずっと昔、彼が僕をMITに呼んでくれて、朗読会での紹介スピーチまでやってくれました。そのときは「好青年」という感じだったんだけど、今はずいぶん立派になりました。 村上春樹拝
確かにジョン・ル・カレの「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」は難しいし、その映画か作品「裏切りのサーカス」も難しい。
映画の背景や描かれている環境もわからないし、伏線や暗喩も難解である。
実際のところ多くの観客はスクリーン上で、一体何が起きているのか、よくわからなかったのかも知れない。
映画の雰囲気やニュアンスで映画がわかったような、面白かったような、感動したような気持ちになってしまっているのではないだろうか。
しかし振り返ってみると、「裏切りのサーカス」はわからない。
そんな映画のような気がする。
カズオ・イシグロが村上春樹に対し、映画「裏切りのサーカス」の筋がよくわからない、と言ったのも、凄い勇気がある言葉だと思うし、カズオ・イシグロの正直さも感じられる。
そんな印象を受けた。
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