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2016年5月 8日

「ルーム ROOM」をめぐる冒険

2016年5月8日、エマ・ドナヒューの小説「部屋(上・下)」を映画化した「ルーム ROOM」を観た。

「ルーム ROOM」
監督:レニー・アブラハムソン
原作・脚本:エマ・ドナヒュー
出演:ブリー・ラーソン(ママ/ジョイ)、ジェイコブ・トレンブレイ(ジャック)、ジョーン・アレン(ばあば/ナンシー)、ウィリアム・H・メイシー(じいじ/ロバート)、トム・マッカムス(レオ)、ショーン・ブリジャー(オールド・ニック)

 5歳の誕生日を迎えたジャックは、狭い部屋に母親と2人で暮らしていた。外の景色は天窓から見える空だけ。母親からは部屋の外には何もないと教えられ、部屋の中が世界の全てだと信じていた。2人はある男によってこの部屋に監禁されていたのだった。

 しかし母親は真実を明かす決断をし、部屋の外には本物の広い世界があるのだとジャックに教える。そしてここから脱出するために、ついに行動を開始するのだったが・・・・。

本作「ルーム ROOM」は、非常にエモーショナルな素晴らしい作品に仕上がっている。作品が取り上げた題材、つまり少女の拉致・監禁事件は、現代的でセンセーショナルであり、その辺りに真っ向から勝負を挑んだ意欲的な作品である。

また原作者のエマ・ドナヒューが本作の脚本を担当し、米アカデミー賞脚本賞にノミネートされているのも興味深い。(脚本賞以外では、作品賞ノミネート、主演女優賞受賞、監督賞ノミネート)

キャストはジョイ役のブリー・ラーソン、ジャック役のジェイコブ・トレンブレイの天才ぶりに舌を巻くし、じいじ役のウィリアム・H・メイシーの登場に拍手喝采である。

17歳の娘が誘拐され暴行された事実を受け止められない父親の震えが悲しい。

そんな本作「ルーム」だが、理解する上でのヒントを少々。

◆オールド・ニック
 17歳のジョイを拉致・監禁した犯人のことをジョイとジャックはオールド・ニックと呼んでいる。オールド・ニック( Old Nick )は英語(口語)では《悪魔》を意味する。

 これは当然ながらジャックではなくジョイの考えであろう。

◆サムソン
 髪を伸ばしているジャックは、力の源は髪の毛にある、と考えており、母親のジョイもそれはサムソンのことだと理解している。

 わたしは最初は、ジャックがテレビでアニメーションを観ていたので、ハンナ・バーベラの「怪力サムソン」( "Young Samson and Goliath" )の影響かな、と思ったのだが、「怪力サムソン」は髪が長くはない。

 と言う事は、これは「旧約聖書」「士師記」「サムソンとデリラ」の物語の引用であろう。

 サムソンの物語をWikipediaより一部引用する。 

 イスラエルの民がペリシテ人に支配され、苦しめられていたころ、ダン族の男マノアの妻に主の使いがあらわれる。彼女は不妊であったが、子供が生まれることが告げられ、その子が誕生する以前からすでに神にささげられたもの(ナジル人)であるため次のことを守るよう告げられた。それはぶどう酒や強い飲み物を飲まないこと、汚れたものを一切食べないこと、そして生まれる子の頭にかみそりをあてないことの三つであった。神の使いはマノアと妻の前に再び姿をあらわし、同じ内容を繰り返した。こうして生まれた男の子がサムソンであった。

 サムソンは長じた後、あるペリシテ人の女性を妻に望み、彼女の住むティムナに向かった。その途上、主の霊がサムソンに降り、目の前に現れたライオンを子山羊を裂くように裂いた。ティムナの女との宴席で、サムソンはペリシテ人たちに謎かけをし、衣を賭けた。ペリシテ人は女から答えを聞きだし、サムソンに答えた。サムソンは主の霊が下ってアシュケロンで30人のペリシテ人を殺害してその衣を奪い、謎を解いたペリシテ人たちに渡した。ティムナの女の父はこの一件の後、娘をほかの男性に与えた。サムソンはこれを聞いて、300匹のジャッカルの尾を結んで、それぞれに一つずつ松明をむすびつけ、畑などペリシテ人の土地を焼き払った。ペリシテ人はその原因がティムナの父娘にあると考えて二人を殺したが、サムソンはこれにも報復してペリシテ人を打ちのめした。ペリシテ人は陣をしいてサムソンの引渡しを求め、ユダヤ人はこれに応じた。ペリシテ人はサムソンを縛り上げて連行したが、途中で主の霊が降ると縄が切れて縄目が落ち、サムソンはろばのあご骨をふるってペリシテ人1000人を打ち殺した。

 サムソンは二十年間、士師としてイスラエルを裁いた。その後、サムソンはソレクの谷に住むデリラという女性を愛するようになったため、ペリシテ人はデリラを利用してサムソンの力の秘密を探ろうとした。サムソンはなかなか秘密を教えなかったが、とうとう頭にかみそりをあててはいけないという秘密を話してしまう。デリラの密告によってサムソンは頭をそられて力を失い、ペリシテ人の手に落ちた。彼は目をえぐり出されてガザの牢で粉をひかされるようになった。

 ペリシテ人は集まって神ダゴンに感謝し、サムソンを引き出して見世物にしていた。しかしサムソンは神に祈って力を取り戻し、つながれていた二本の柱を倒して建物を倒壊させ、多くのペリシテ人を道連れにして死んだ。このとき道連れにしたペリシテ人はそれまでサムソンが殺した人数よりも多かったという。

ジャックはおそらくだが、産まれてからの5年間、一切髪を切っていないのだと推測することが出来る。

なぜなら髪を切ってしまうとその力が失われる、とジャックは信じているから。

サムソンはデリラのために捕らえられ、髪を剃られるが、監禁されている間に髪が伸び、神に祈る事により怪力を取り戻す。この辺りも「ルーム」に生かされている。

また、ジャックが母親ジョイの抜けた歯を持って、人生に立ち向かったのは、サムソンがロバのあごの骨を使ってペリシテ人を1000人殺したからである。

◆ジャックの父親は

本作「ルーム」の後半部分で、テレビの取材を受けるジョイがジャックの父親についてインタビューに答える。

この回答が「聖書」的には象徴的な印象を観客に与える事になる。

この点を考えると、ジョイはキリスト教的な背景を持ったキャラクターだと考える事が出来、それは両親であるロバートとナンシーの教育によるものだと推測することができる。

オールド・ニック、サムソン、非生物学的な処女懐胎、そんなキーワードを基に本作「ルーム」を解釈してはいかがだろうか。

@tkr2000
@honyakmonsky

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