「魔界探偵ゴーゴリ」
ロシア国内興収No.1の映画「魔界探偵ゴーゴリ」三部作を観た。
- 「魔界探偵ゴーゴリ」三部作とは、ロシアの文豪ニコライ・ゴーゴリがダークヒーローとなり難事件に挑むミステリーで、ロシア版シャーロック・ホームズ×ハリー・ポッターともいわれている。
「魔界探偵ゴーゴリ 暗黒の騎士と生け贄の美女たち」(2017)
「魔界探偵ゴーゴリⅡ 魔女の呪いと妖怪ヴィーの召喚」(2018)
「魔界探偵ゴーゴリⅢ 蘇りし者たちと最後の戦い」(2018)
監督:イゴール・バラノフ
出演:アレクサンダー・ペトロフ(ゴーゴリ)、オレグ・メンシコフ(グロー)、ユリア・フランツ(オクサーナ)、セルゲイ・バディク(ヴァクーラ)、イフゲニー・スティチキン(ビンク)、アルチョム・トカチェンコ(ダニシェヴェスキー伯爵)、タイーシャ・ヴィルコヴァ(リザ)
1829年、サンクトペテルブルク。
駆け出しの作家ニコライ・ゴーゴリは腕の立つ探偵グローと知り合い、2人は若い美女だけが狙われる連続猟奇殺人事件の捜査の為にウクライナの小さな村、ディカーニカへ出発する。
探偵グローは2つの理由からゴーゴリを同伴者として選んでいた。1つはゴーゴリがディカーニカの近くで生まれ土地勘を持っていたこと、もう1つはゴーゴリが神秘な力を持ち、異世界の者と繋がることができたから。ゴーゴリは自分でもコントロールができない悪夢の力によって、容疑者として浮かび上がった“黒騎士” と事件の真相に近づいていく。そして自分が何者なのか、起源を明らかにしていくが・・・・。
先ず驚いたのは、物語の基本プロットは探偵グローと記録官吏ゴーゴリのバディものなのだが、その二人の吹替えがBBCの「SHERLOCK(シャーロック)の吹替えと同様の森川智之(ゴーゴリ)、三上哲(グロー)で、しかもスコアもBBCの「SHERLOCK」の雰囲気を踏襲していると思われ、かつゴーゴリやグローと警察署長ビンクとの掛け合いも「SHERLOCK」の雰囲気を醸し出している。
もちろん「魔界探偵ゴーゴリ」はBBCの「SHERLOCK」を意識しているのだとは思うが、その手法に全く違和感がなくおそらく日本のファンの中には「魔界探偵ゴーゴリ」を「SHERLOCK」の二次創作のような印象で受け取っているファンもいるのではないか、と思える。
またキャラクターも見事にキャラ立ちしており、ゴーゴリの文学というメインカルチャーの文脈ではなくサブカルチャーとしての文脈やライトノベル、中二病的な感覚も感じられる。
このあたりと本作「魔界探偵ゴーゴリ」三部作の今後の行く末を考えると「文豪ストレイドッグス」の方向性も見えてきている。
また物語の構成としては、まあ想定内だが本作「魔界探偵ゴーゴリ」三部作は、ニコライ・ゴーゴリの様々な実在の著作からの引用や言及が頻繁に行われている。
例えば冒頭では、ゴーゴリがV・アロフ名義で自費出版した「ガンツ・キュヘリガルテン」を回収し焼き捨てるシーンがあったり、中盤以降には「鼻」のない男が出てきたり、本筋とは関係ないが「外套」を修理しようとしているエピソードが語られ、また「魔界探偵ゴーゴリⅡ 魔女の呪いと妖怪ヴィーの召喚」 ではタイトルにもなっている通り「ヴィー」の有名なシークエンスがそのまま引用されている。
もちろん「魔界探偵ゴーゴリ」三部作の舞台となるのはディカーニカであり 「ディカーニカ近郷夜話」からの引用も多く、驚いたことに今回の事件を基に著されたと思われる短篇集「ディカーニカ近郷夜話」の朗読会サイン会を実施している描写まである。
これは逆説的にこの「魔界探偵ゴーゴリ」事件の経験がゴーゴリが著作を著す原因になっている、という構造も楽しめる。
さて本作だが、前述の通り物語の基本プロットは、サンクトペテルブルクの著名な探偵グローと駆け出しの作家の記録官吏ゴーゴリが小さな村ディカーニカで起きている超自然的な連続猟奇殺人事件を捜査する、と言う物語だが、それにリアリティを付与する美術が大変素晴らしい。
キャストについてはロシア人俳優についてはあまり詳しくないのだが、ゴーゴリにしろグローにしろビンクにしろ脚本も相まってかキャラ立ちが顕著なのが興味深い。
また、ホームズとワトソンに対比するキャラクターは本作ではグローとゴーゴリなのだが、主役はグローではなくあくまでもゴーゴリであり、今後の物語の行く末を考えた場合のグローとゴーゴリの関係性が非常に興味深い。
関心がある方は是非!
特にゴーゴリの著作好きの方、BBCの「SHERLOCK」好きの方へ。
余談だが、ゴーゴリの外見はゴーゴリの肖像画に寄せている。
ニコライ・ゴーゴリの肖像(F.A.モレル筆・1841年)
ゴーゴリ(左)とグロー(右)
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