カテゴリー「ハワード・フィリップス・ラヴクラフト」の5件の記事

2014年4月 9日

青空文庫にラヴクラフトが!

Nyarlathotep 2014年4月青空文庫にハワード・フィリップス・ラヴクラフトの作品が登録された。

「ニャルラトホテプ」
著者:ハワード・フィリップス・ラヴクラフト
訳者:大久保ゆう

青空文庫とは、同公式サイトによると、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、図書館のようにインターネット上に集めようとする活動で、著作権の消滅した作品と、「自由に読んでもらってかまわない」とされたものを、テキストとXHTML(一部はHTML)形式に電子化した上で揃えている、とのこと。

「ニャルラトホテプ」は非常に短い作品なので、関心がある方は是非。

余談だが、件のニャルラトホテプ(Nyarlathotep) は、日本語ではナイアーラトテップ、ナイアーラソテップ、ナイアルラトホテップ、ニャルラトテップ等の表記が存在する。

「ニャルラトホテプ」の表記はやっぱ「這いよれ!ニャル子さん」の影響だと思うよね。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2013年8月10日

「パシフィック・リム」がラブクラフトの影響を!?

「パシフイック・リム」 さて、今日は全ての事象は翻訳小説の影響を受けている、と言うホンヤクモンスキーの妄想的エントリー。

今日、俎上に乗せるのは、ギレルモ・デル・トロ監督作品「パシフイック・リム」 

「パシフィック・リム」は、2013年8月9日に日本公開となったSF怪獣映画。

「パシフィック・リム」
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:トラヴィス・ビーチャム、ギレルモ・デル・トロ
出演:チャーリー・ハナム、菊地凛子、イドリス・エルバ、チャーリー・デイ、バーン・ゴーマン、マックス・マルティーニ、ロバート・カジンスキー、クリフトン・コリンズ・Jr、ロン・パールマン、ディエゴ・クラテンホフ、芦田愛菜

あらすじ:太平洋の深海から突如巨大な生命体が出現した。“KAIJU”と名付けられた巨大な生命体は大都市を次々と襲撃し、容赦ない破壊を繰り返す。

滅亡の危機を迎えた人類は世界中の英知を結集し、人型巨大兵器“イェーガー”を開発する。当初は優勢を誇ったイェーガーだったが、出現するたびにパワーを増していくKAIJUたちの前に次第に苦戦を強いられていく。

そんな中、かつてKAIJUとの戦いで兄を失い、失意のうちに戦線を離脱した名パイロット、ローリーが復帰を決意する。彼が乗る旧式イェーガー“ジプシー・デンジャー”の修復に当たるのは日本人研究者の森マコ。彼女は幼い頃にKAIJUに家族を殺された悲しい記憶に苦しめられていた。やがて彼女はローリーとの相性を買われ、ジプシー・デンジャーのパイロットに大抜擢されるのだったが・・・・。

本作「パシフィック・リム」は8月9日に日本公開されたばかりの作品であるから、詳細は控えるが、どう考えても映画史に残るような素晴しい作品に仕上がっている。もちろん怪獣映画としてではなく、映画としてである。

ところで、ときどきだが、この世にはスタッフもキャストも自分の力量を遥かに超えた結果をフィルムに定着させたような、言わば奇跡のような作品が出てくるのだが、本作「パシフイック・リム」も、それらの作品と同様に悪いところが全くない奇跡みたいな作品の一本だと言える。

いつものくせで、映画を観ると、あれは《ルビーの靴》のメタファーで、これは「オズの魔法使い」でいうところの《竜巻》で、とか、いろいろとくだらない解釈をしてしまうところなのだが、本作「パシフイック・リム」は、そんなスノッブな解釈をするのが恥ずかしくなるような、解釈なんかしている場合ではないほどの素晴しさに感涙ものの作品である。

わかっている奴らが作品に真摯に向かい合い、そんな奴らの怪獣に対する深い愛情を溢れんばかりに作品に注ぎ込んだ、その結果がこの「パシフイック・リム」なのだ。

しかし、当ブログとしては「パシフイック・リム」と言う作品は、翻訳作品の影響を受けている、と言う方向に持って行きたいと思います。

まぁ実際のところは、今日のエントリーはそんな話をするのが目的ではなく、取りあえずすぐ劇場に行け、と言うこと。

さて、「パシフイック・リム」のどの辺が翻訳作品の影響を受けているか、と言う話なのだが、「パシフイック・リム」は、H・P・ラブクラフトの作品から派生する「クトゥルフ神話体系」の一つの作品だと思えてならない。

と言うのは「パシフイック・リム」に登場するKAIJUの出自が「クトゥルフ神話体系」によるところの《古きもの》(旧支配者)の眷属として描かれているのだ。

「パシフィック・リム」本編のセリフや設定でそのあたりも描かれているのだが、前述の通り公開直後と言う事もあり詳細は割愛する。

ここで考えられるのは、ギレルモ・デル・トロの「パシフィック・リム」以前の頓挫した「狂気の山脈にて」(H・P・ラブクラフト)の映画化企画の設定を「パシフィック・リム」に取り込んだのではないか、と言う事。

事実、
「パシフィック・リム」のKAIJUは、物理法則を超えた手法で、われわれの地球に来ているのだ、と言う描写がある。つまり「パシフィック・リム」は一見するとSF怪獣映画に見えるのだが、その背景にはコズミック・ホラーの側面をも持っている、と言えるのだ。

ここまで来て、一体何が言いたいかと言うと、さっきも言ったように、取りあえず劇場に走れ、と言う事だけである。

ラブクラフトがどうしたとか、コズミック・ホラーがどうしたとか、ルビーの靴がどうしたとか、そんなのどうでも良い話なのだ。

@tkr2000
@honyakmonsky


ところでだが、「パシフィック・リム」に登場する日本の女優陣は凄い。

菊地凛子のヒロイン振りは世界を魅了しているだろうし、芦田愛菜は完全に女優をしている。

彼女等は、日本のドラマや何かで普段見られるような演技からは考えられない素晴しい演技を見せている。

また、「パシフィック・リム」は日本の特撮やアニメの影響下にある作品である。

アメリカ人が侍にあこがれ侍になる映画である「ラストサムライ」(2003)の後、侍と言う馬鹿げた生き方を止める(描く)映画を、山田洋次(「隠し剣 鬼の爪」(2004))、行定勲(「北の零年」(2005))、是枝裕和(「花よりもなほ」(2006))らがそれぞれ撮っていることを考えると、今後、日本映画界が「パシフィック・リム」に対してどんなアンサーを出すのか非常に楽しみです。

また、「パシフィック・リム」で描かれている怪獣やロボットとの戦いについても、現在望みうる最高の形態ではあるとは思うけど、もう少しゴニョゴニョと言う気もしますけど。

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2012年12月 5日

「未完少女ラヴクラフト」の書影が!?

2013年1月にPHP研究所から刊行される黒史郎の「未完少女ラヴクラフト」の書影が素晴しい。

「未完少女ラヴクラフト」

「未完少女ラヴクラフト」
著者:黒史郎
イラスト:コバシコ
内容紹介:何かとあれば正気を失ってしまう身心惰弱(だじゃく)な少年カンナは、片思い中の女性の顔面に突如として開いた穴に吸い込まれ、異世界スウシャイへと迷い込む。そこで出会ったラヴと名乗る少女に救われたカンナは、少女が呪いによって「愛」に関する言語を奪われていることを知る。取り戻すにはカンナの世界へと赴き、<もう一人の自分>の創作活動を止め、スウシャイを歪みから解放しなくてはならない。そんな目的を持つラヴとともにカンナは旅立つが、二人を待っていたのは人面鼠(ねずみ)、蟹、しゃべる脳、毒の言葉を持つ魔女などとの禍々しき出会いだった。クトゥルフ神話の祖・怪奇小説作家ラヴクラフトを美少女化! 名状しがたき暗黒冒険ファンタジー!

なんと、「未完少女ラヴクラフト」は名状しがたき暗黒冒険ファンタジーだってさ。

「未完少女ラヴクラフト」の書影のどの辺が素晴しいのか、説明は不要ですよね。
ちよっと心配だけど、権利的にも多分大丈夫ですよね。

取りあえず買います。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2012年9月11日

「クトゥルフ神話への招待」をめぐる冒険

「クトゥルフ神話への招待 遊星からの物体X」と「ラヴクラフト全集2」
先日のエントリー『「クトゥルフ神話への招待」と「影が行く」』『「遊星からの物体X ファーストコンタクト」をめぐる冒険』でお伝えしたように、映画「遊星からの物体X」(1982)の前日譚、つまり〈エピソード0〉にあたる「遊星からの物体X ファーストコンタクト」(2011)が公開され、「這いよれ! ニャル子さん」(2012)のアニメ化に端を発する何度目かの〈クトゥルフ神話〉ブームが到来している中、ジョン・W・キャンベル・ジュニアの原作小説「影が行く」「遊星からの物体X」と翻訳出版が相次いでいる。

興味深いのは、創元SF文庫「影が行く」に収録されている、ジョン・W・キャンベル・ジュニアの「影が行く」(翻訳:中村融)は、SF小説として紹介されている一方、扶桑社ミステリー文庫「クトゥルフ神話への招待 遊星からの物体X」では、同「遊星からの物体X」(翻訳:増田まもる)を〈クトゥルフ神話体系〉の作品として紹介している。

更に興味深いのは「クトゥルフ神話への招待 遊星からの物体X」(以下「クトゥルフ神話への招待」)の構成と、同書に収録されている「クトゥルフの呼び声」(翻訳:尾之上浩司)。

先ずはその構成だが、「クトゥルフ神話への招待」の冒頭にはジョン・W・キャンベル・ジュニアの「遊星からの物体X」が〈クトゥルフ神話〉的な観点で増田まもるによって新たに翻訳されている。

続くラムジー・キャンベルの5つの短編は、同じ地名が何度も登場することから、同じ地域で起きたいくつかの事件を〈クトゥルフ神話体系〉に法った作品として紹介している。

そして本書の取りを飾るのは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの伝説的な傑作を尾之上浩司が新たに訳した「クトゥルフの呼び声」

特に興味深いのは「クトゥルフの呼び声」に尾之上浩司が付けたルビ。

該当部分を引用する。

カストロ老人が中国人から聞いて断片的に憶えている伝説は、神智学者をぞっとさせ、この世がまだ生まれたばかりのもののように感じさせる衝撃を持っていた。はるか昔、この地球は別のものたち(シングス)によって支配されていた。そして巨大な都市がいくつもあった。不死をきわめた中国人仙人によると、その都市の残骸が、いまも太平洋の島々に巨石として残っているのだとか。人類誕生以前の広大な時の流れのなかでかれらは滅んだが、永劫につづく時の流れとともに星が正しい位置にもどれば、絵や像として残るかれらはこの地によみがえる。じつは、よその星から来たかれらは、自分の姿に似せた像を持ってきたのである、というのだ。(尾之上浩司訳「クトゥルフの呼び声」/( )内は本文ではルビ)

さて、このルビはどう考えても翻訳者:尾之上浩司からの〈目配せ〉であろう。と言うのもジョン・カーペンター監督作品「遊星からの物体X」(1982)の原題は皆さんご存知のように「The Thing」なのであるから。

どう? 
「遊星からの物体X」
はラヴクラフトの影響受けてるでしょ。偶然じゃないよね。と言う感じで。

もっとも、ハワード・ホークス製作、クリスチャン・ネイビー監督の「遊星よりの物体X」(1951)の原題も「The Thing (From Another World)」なので、カーペンターがラヴクラフトの影響を受けている、とは言い難いですけど。

そして、このルビだけではなく、前述の「クトゥルフ神話への招待」の構成を含めた、尾之上浩司のデレクションが興味深い。

ところでこのルビは尾之上浩司のオリジナルなのだろうか、それを確認すべく創元推理文庫版の「クトゥルフの呼び声」(翻訳:宇野利泰/「ラヴクラフト全集2」に収録)を調べてみる。おそらく宇野利泰訳の「クトゥルフの呼び声」が日本国内ではスタンダードな翻訳だろう。

カストロ老人の記憶は断片に過ぎなかったが、その伝承の奇怪さは、見神論者の考察をたじろがせ、人類とこの世界をまだ根が浅く、暫定的なものにすぎぬと思わせる何かがあった。人類誕生以前のこの地球は、星から渡ってきた《あるもの》が支配していて、彼らは各地に壮麗豪華な大都市を建設した。それがいまなお----不死の中国人僧の言葉によれば----太平洋上の島々に、巨石文化の遺跡として残存している。彼らは人類が生まれてくる以前に死に絶えたが、宇宙は永遠の周回を繰り返しているので、いつかまた、星座が正しい位置に復帰する日が訪れる。その日、彼らは、星から地球に降下するときに携えてきた聖像の力で蘇る。(宇野利泰訳「クトゥルフの呼び声」)

いやぁ、ドキドキしますね。

尾之上浩司版は『別のものたち(シングス)』で、宇野利泰版では『《あるもの》』と翻訳されてました。

それでは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの「The Call of Ctulhu」の原文にあたってみましょう。

Old Castro remembered bits of hideous legend that paled the speculations of theosophists and made man and the world seem recent and transient indeed. There had been aeons when other Things ruled on the earth, and They had had great cities. Remains of Them, he said the deathless Chinamen had told him, were still to be found as Cyclopean stones on islands in the Pacific. They all died vast epochs of time before men came, but there were arts which could revive Them when the stars had come round again to the right positions in the cycle of eternity. They had, indeed, come themselves from the stars, and brought Their images with Them.

なんと『things』じゃなくて『Things』でした。『T』が大文字です。

宇野利泰訳で『《あるもの》』と《 》がついていたのも頷けますね。

偶然と言うか、見事なシンクロニシティではないでしょうか。

しかしながら、事実関係は判明したものの、やっぱりおそろしいのは、尾之上浩司のデレクション、と言うか最早フォーシングですよね。

と言う訳で、「遊星からの物体X」(「影が行く」)が〈クトゥルフ神話体系〉に法った作品だと、信じるのも信じないものもあなた次第、ですね。

いかがですか?
ルビひとつで楽しい時間が過ごせましたよね。

@tkr2000
@honyakmonsky

 

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2012年4月22日

クトゥルフ神話ブーム到来!? お色気とパロディ満載の邪神コメディ「這いよれ!ニャル子さん」放送開始!

「這いよれ!ニャル子さん」オフィシャルサイト/スクリーンショット
2012年4月19日に日刊サイゾーが伝えるところによると、日本国内にはクトゥルフ神話ブームがきている模様。

クトゥルフ神話ブーム到来!? お色気とパロディ満載の邪神コメディ「這いよれ!ニャル子さん」

記録のため、全文を引用する。

クトゥルフ神話がブームである。

……ごめん、ウソ。ちょっと話を盛りました。正確にはアニメやライトノベル、エロゲーのユーザーの間で局所的に、少しだけ盛り上がっている。  

「そもそもクトゥルフ神話って何?」という方も日刊サイゾー読者には多い気がするので、ごくごく簡単に解説しよう。クトゥルフ神話とは、H・P・ラヴクラフトという20世期初頭に活躍した作家の怪奇小説に登場する神々の名前や地名を用いて、彼の作家仲間たちが作り上げた架空の神話体系のことだ。「架空の神話体系」というのはつまり、どこかに信者がいたり、なんらかの民族と関わりがあったりしないということ。  

これだけじゃなんのことかわからん人は、「藤沢周平の死後もほかの時代小説作家が海坂藩ものを書き続けて、『海坂藩史』というひとつの体系ができました」みたいな事態を想像してみれば、なんとなーくイメージはつかめるのではないかと。もしくは、日本のサブカルチャーでいちばん雰囲気が近いのは「機動戦士ガンダム」。最初のテレビシリーズを監督した富野由悠季が関わっていなくても、「宇宙世紀」や「モビルスーツ」といった単語や世界観を共有するシリーズ作品がたくさんある、というようなことを思い浮かべてもらえれば、ざっくりと雰囲気がつかめるのではなかろうか(もちろん、厳密にはどちらのたとえも違うのだけれども)。  

「斬魔大聖デモンベイン」という、クトゥルフ神話を作品世界に取り入れつつ、美少女熱血ロボットバトルを描くというエロゲー(!)が2003年に発売されたことで、日本ではある意味、発祥の地であるアメリカ以上に、クトゥルフ神話に関してやりたい放題な空気が醸し出されてきた。この4月より放送が始まった「這いよれ!ニャル子さん」(テレビ東京ほか)は、そうした「なんでもあり」のカオスな土壌から生まれてきた作品のひとつだ。  

原作はGA文庫からシリーズ刊行中の人気ライトノベル(作:逢空万太、絵:狐印)。平凡な高校生・八坂真尋を保護するという名目で地球にやってきた、「美少女姿のニャルラトホテプ(クトゥルフ神話に登場する強大な力を持つ神の一柱)」=「ニャル子さん」が巻き起こす騒動を、マンガ・アニメ・特撮のパロディを織り交ぜつつコミカルに描いた作品だ。アニメーション制作を「ToLOVEる」「かのこん」「れでぃ×ばと!」「えむえむっ!」など、明るくてちょっぴりエッチなアニメを作ることには定評のあるジーベックが担当しており、健康的なお色気&密度の高いパロディという原作の魅力を見事に映像化している。

ニャル子さんを演じる阿澄佳奈のハイテンションな演技もポイントが高い。オタク気質でアニメやマンガ、ゲームには反応しまくり、隙あらば男子高校生・八坂真尋に性的な接触を迫るニャル子さんなのだが、イヤらしさや不潔さ、うっとうしさを感じさせないのは、阿澄の声の存在感によるところが大きいのではなかろうか。彼女がメインボーカルを務めるユニット「後ろから這いより隊G」によるOP主題歌「太陽曰く燃えよカオス」も、「(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!」のコーラスが印象的なお祭り感溢れる名曲で、これまた素晴らしい。  

コリン・ウィルソンやスティーブン・キングといった巨匠にも愛され、海外では高い認知度を誇るクトゥルフ神話だが、日本においては、1970年代初頭から80年代にかけて、ジャンル小説の読者やヤングアダルト小説の読者の間で瞬間風速的な盛り上がりを見せはしたものの、一般的な知名度を得るには至ってこなかった。ところが、
「這いよれ!ニャル子さん」第1話の放送直後には、創元推理文庫の「ラヴクラフト全集」第1巻がAmazonランキングを急上昇。ひょっとしたら、ここから、日本にも本格的なクトゥルフ神話ブームが巻き起こるのかもしれない。アナタも乗り遅れないうちに、クトゥルフの呼び声に耳をすませるべき……ああ……私にも聞こえる! 窓の外に! 宇宙的で冒涜的な恐怖の足音が!   

……(」・ω・)」うー! (/・ω・)/にゃー!
(文=麻枝雅彦)

「這いよれ!ニャル子さん」
監督:長澤剛
原作:逢空万太 「這いよれ!ニャル子さん」(GA文庫/ソフトバンク クリエイティブ刊)
声の出演:ニャル子(阿澄佳奈)、八坂真尋(喜多村英梨)、クー子(松来未祐)、ハス太(釘宮理恵)、シャンタッ君(新井里美)、ルーヒー・ジストーン(國府田マリ子)、八坂頼子(久川綾)、余市健彦(羽多野渉)、暮井珠緒(大坪由佳)、ニャル夫(草尾毅)、ノーデンス(島田敏)

2012年4月9日 テレビ東京ほかにて、アニメーション作品「這いよれ!ニャル子さん」の放送が始まって、こりゃもしかしてラヴクラフト売れるんじゃねーの、と冗談で言ってたら、どうやら本当に売れてるらしい。

身近な話題でも、知り合いの読書家の高校生のお子さんが「うちにクトゥルー神話の本ある?」と尋ねてきた、と言う話を聞いたり、昨日も飲み会で、東京創元社も「ラヴクラフト全集」に『これが「這いよれ!ニャル子さん」の原典だ!』とか言う帯でも付けたらバカ売れするんじゃねーの、と言う話をしたばかりである。

ところで、最近の映像作品の傾向として、古典的作品の映像化やその翻案がよく行われている。

しかし、その作品に触れて、視聴者が原典に遡ろうと思うかどうかは、その作品のスタンスによって異なるようだ。

例えば、最近公開された映画「シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム」やその前作である「シャーロック・ホームズ、または話題のアニメーション作品「探偵オペラ ミルキィホームズ」を観たとしても、アーサー・コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズを読もうとは誰も思わないと思う。

おそらく、2012年4月に北米公開予定になっているエドガー・アラン・ポーの「大鴉」を題材にした映画化作品「The Raven」を観たとしても、おそらくポーの作品を読もうとは思わないのではないだろうか。

それでは何故「這いよれ!ニャル子さん」を観た人がラヴクラフトやクトゥルフ神話体系に属する作品を読みたくなるのだろうか。

もし、この謎が解けば、手法によっては、翻訳小説もバカ売れするんじゃないのかな。

何故「這いよれ!ニャル子さん」を観た人がラヴクラフトを読みたくなるのか。

先ずは「這いよれ!ニャル子さん」は他の作品からの引用が非常に多いアニメーション作品である、と言うこと。

引用やパロディ、オマージュやリスペクトが多い作品に触れ、その作品の引用元のことを知らなければ、それを知りたい、と思うのは普通のことだと思う。

その引用だが、もちろん本作「這いよれ!ニャル子さん」はラヴクラフト作品やクトゥルフ神話体系からの引用が多いのだが、それ以外の作品からの引用も多い。例えば、興味深い事に「機動戦士ガンダム」からの引用も結構多い。しかし、だからと言って原典の「機動戦士ガンダム」にあたろうとは誰も思わないだろう。あぁこれは「機動戦士ガンダム」のパロディなんだな、と言うことがわかれば十分なのである。

しかし、ラヴクラフトやクトゥルフ神話体系からの引用については、引用だと言う事はわかっても、その引用元ではどのような設定なのか、どのような描写になっているのか、と言うことがおそらく知りたくなるのだろう。

これはやはり、大きな謎だとは思うのだが、おそらくクトゥルフ神話体系が世界中の人々を虜にしている所以だ、と言うこともできるだろう。

また、もうひとつ考えられるのは「這いよれ!ニャル子さん」はコメディ作品と言うこともあり、--作者によるとラブコメ(ラブクラフトコメディ)と言うことらしい--、作品に触れる敷居が低い割には、パロディとしての質が高いところもひとつの理由かも知れない。

ラヴクラフト好きにとっては非常に笑える作品だと思うし、そのパロディは非常によく考えられていると思う。

まあ、とにかく「這いよれ!ニャル子さん」は、不思議な魅力を持った作品であることは確かなので、しばらく見守って行きたいと思っている。

創元推理文庫版「ラヴクラフト全集」
因みに、手元にある創元推理文庫版「ラヴクラフト全集」をみてみたら、背の色が白の版と黒の版があるんですね。
ついでに、背の書名のフォントも、黒版はゴシック体で、白版は明朝体ですね。

実は「ラヴクラフト全集」は実家にもう1セット持ってるんですが、そっちは多分全部黒背だったと思うんですが。

どう言う経緯なんでしょうか。謎ですね。

@tkr2000
@honyakmonsky

余談だけど、「クトゥルー/クトゥルフ神話作品発掘記」「這いよれ!ニャル子さん」のパロディの引用元に詳しいので紹介しておく。

ニャル子さん第一話のクトゥルフネタ全部解説

ニャル子さん第2話のクトゥルフネタ全部解説

ニャル子さんから入った人のためのお薦めクトゥルフ神話作品

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