カテゴリー「●tkr」の346件の記事

2019年5月 1日

「スパイダーマン:スパイダーバース」は「初秋」なのか

Spiderverse

2019年3月8日に日本公開された「スパイダーマン:スパイダーバース」を観た。

本作「スパイダーマン:スパイダーバース」 は、ピーター・パーカー亡き後新たなスパイダーマンになる決意をしたマイルス・モラレスと他の次元(スパイダーバース)に存在する多くのスパイダーマンたちの物語。

主人公のマイルス・モラレスはブルックリン生まれの13歳。マイルスは遺伝子操作された蜘蛛に噛まれスパイダーパワーを手に入れる。キングピンに倒されたピーター・パーカーの遺志を継ぎスパイダーマンとして生きる決意をするのだが、いかんせんスパイダーパワーの経験やノウハウに乏しい。

一方、ピーター・パーカーを倒したキングピンは失った家族を復活させるため、異次元への扉を開き家族を召喚しようとしていた。

その異次元への扉を通って何人ものスパイダーマンがマイルスの世界にやってくるのだが・・・・

さて、今日の本題だが「スパイダーマン:スパイダーバース」 のどのあたりが「初秋」なのか、と言う話なのだが、まあこの時点で既におわかりの方もいらっしゃると思うのだが、キーワードとしては、異次元からやって来たスパイダーマンの1人の名前がピーター・B・パーカーである、と言うところ。

ピーター・パーカーに対する異次元のスパイダーマンと言うことで、Bをつけてピーター・B・パーカーと言うのは十分理解出来るのだが、なぜわざわざBにしたのか。「スタートレック」におけるNCC-1701に対してのNCC-1701Aと言うように、Aで良かったのではないか、フィクションならAにするだろ、と言う気がする。

そう考えた場合、これはロバート・B・パーカーへの言及だとしか思えない。尤もピーター・B・パーカーと言われれば、多くの人はロバート・B・パーカーを想起するのではないだろうか。もちろんホンヤクモンスキー的には。

そしてロバート・B・パーカーと言えば私立探偵スペンサーシリーズだろうし、スペンサーシリーズの代表作はなんといっても「初秋」だろう。

そんな「初秋」のあらすじは次の通り。

 離婚した夫が連れ去った息子を取り戻してほしい。スペンサーにとっては簡単な仕事だった。が、問題の少年、ポールは彼の心にわだかまりを残した。対立する両親の間で駆け引きの材料に使われ、固く心を閉ざして何事にも関心を示さない少年。スペンサーは決心する。ポールを自立させるためには、一からすべてを学ばせるしかない。スペンサー流のトレーニングが始まる。人生の生き方を何も知らぬ少年と、彼を見守るスペンサーの交流を描き、ハードボイルドの心を新たな局面で感動的に謳い上げた傑作。(「BOOK」データベースより)

厳しい冬が来る前、つまり初秋にスペンサーは少年ポールを鍛える事を決意する。

一方「スパイダーマン:スパイダーバース」では中年に差し掛かりお腹も出はじめたピーター・B・パーカーは、マイルスがスパイダーマンとして一人前になるように、つまり異次元から来たスパイダーマンたちがこの世界からいなくなったとしてもスパイダーマンとしてヴィランたちに対峙し、スーパーヒーローとして活躍できるようにマイルスを鍛えるのだ。

「スパイダーマン:スパイダーバース」はそんな物語なのである。ロバート・B・パーカーの「初秋」を読んだ上で「スパイダーマン:スパイダーバース」を観て欲しい。

 

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2018年3月 7日

越前敏弥 翻訳家人生を語る

Photo
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部のサイトで翻訳家 越前敏弥 のインタビュー記事が公開された。

文学部卒業生インタビュー #009
"翻訳"という仕事にめぐり合う 越前敏弥さん

翻訳と言う仕事を考える上で非常に興味深いインタビュー記事。

関心がある方は是非。

翻訳百景(文芸翻訳者・越前敏弥のブログ)

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2018年1月31日

キャラメルボックスが「夏への扉」と「無伴奏ソナタ」を2018年に再演する

2018
なんと演劇集団キャラメルボックスがロバート・A・ハインラインの「夏への扉」と、オースン・スコット・カードの「無伴奏ソナタ」の舞台を、それぞれ2018年3月、2018年5月〜月に再演する模様。

演劇集団キャラメルボックス
「夏への扉」
「無伴奏ソナタ」

なお「夏への扉」は初演は2011年でその再演。
また「無伴奏ソナタ」は初演は2012年、2014年に再演され、今回は三回目の公演。

わたし「夏への扉」は2011年3月27日の楽日を《ル テアトル銀座》で観劇している。311の直後である。
ブログにレビューを書いていると思ったがどうやら書いていなかった模様。

また「無伴奏ソナタ」は2012年5月29日に《東京グローブ座》で観劇している。
当時のレビューはこちら

個人的にはキャラメルボックスのSF小説を原作とした舞台は良いものが多い印象を受ける。

関心がある方は是非。

@tkr2000

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2017年12月 4日

「秘密の知識 巨匠も用いた知られざる技術の解明」

Secretknowledge デイヴィッド・ホックニーの「秘密の知識 巨匠も用いた知られざる技術の解明」を読んだ。

そもそもはこうだ。

藤田新策氏の絵本「ちいさなまち」がフランスで「Le long d’un reflet」として出版される事を記念した原画展において、2017年11月25日に行われたトークショーに衝撃を受けたのだ。

わたしの人生が変わる程の衝撃を。

当日のトークショーの概要は次の通り。

1. 「秘密の知識」
最初は美術史における発見としてBBCなどでも放映された、デイヴィッド・ホックニーの「Secret Knowledge」からアングルやフェルメールが使っていたカメラルシーダやカメラオグスキュラなどの光学機械について話します。

2. 「土と釉薬」「土性絵の具とニス」
次は「土と釉薬」「土性絵の具とニス」というテーマで陶芸と絵画の類似点について。

3. 「美術と美顔術」
ルネサンス期から皮膚の下地として使われたテルベルト(イタリアのVerona(ベローナ)近くの緑土)が現代でも泥パックとして美顔術に使用されていることについて話します。

4. 「鏡のゲーム」
一つのデッサンが反転されて左右(上下)対象に作図される構図は、現代ではフォトショップなどで行われています。 しかし、実はすでに15世紀頃からフレスコ画で行われていました。

「秘密の知識 巨匠も用いた知られざる技術の解明」
著者:デイヴィッド・ホックニー
訳者:木下哲夫
出版社:青幻舎

ここ最近日本では、漫画家のトレパク問題が顕在化している。
これは商業誌において連載を持っているような漫画家が、権利上問題があるインターネット上の画像等をトレースし、自作の漫画に使用しているような問題である。

わたしはこのトレパク問題に関心を持っていたのだが、その状態で藤田新作氏の「秘密の知識 巨匠も用いた知られざる技術の解明」に関するトークを聴いたのである。

画家のデイヴィッド・ホックニーは、過去600年間の西洋絵画を精査・比較検討しひとつの結論に達する。

西洋絵画における多くの巨匠たちは、当時最新の科学技術であった光学装置を使用し、現実の風景を人物を、つまり絵画の題材自体を光学的にトレースしていたと言うのだ。

なんと言う事だろう。
今まで信じていた事が文字通り瓦解していく。

ホックニーがどのように過去600年間の西洋絵画を精査・比較検討しこの結論に達したかは割愛する。

ここからはわたしの所見だが、当時の画家は工房を持っていたのではないか、とわたしは想像している。

そして、どこかの工房が光学装置を使用した写実的な絵画を発表し始める。工房の優位性が重要だと考える工房はその《知識を秘密》にする。

しかし当然ながらその作品を見た他の工房がその《秘密の知識》を探り始める。

従ってその門外不出の《秘密の知識》は現代まで伝わっていないのだ。と想像していた。

しかし、ロジャー・ベーコンの引用が出てくるあたりで考えが変わってくる。

もしかしたら科学技術を使用した絵画は《悪魔の仕業》ということで宗教上の弾圧を受ける可能性があったため、その技術は《秘密の知識》にせざるを得なかったのではないか。

「薔薇の名前」や「ロバート・ラングドン」シリーズを思い出す。

関心がある方は是非。


デイヴィッド・ホックニーは、「秘密の知識 巨匠も用いた知られざる技術の解明」の後、美術批評家のマーティン・ゲイフォードと共に絵画の歴史  洞窟壁画からiPadまで」を著している。

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2016年8月 6日

「ガール・セヴン」の日本向けプロモーションが凄い

2016年8月5日に公開された「ガール・セヴン」の日本向けのプロモーション映像が凄い。

『ガール・セヴン』(文春文庫) 著者ハンナ・ジェイミスンによるビデオクリップ

手本があるとは言え、英語圏の人がこんなにたくさんの日本語を一気に書くのは大変だと思いますね。

もちろん日本を題材にした作品なので著者のハンナ・ジェイミスンは日本に関する造詣は深いとは思いますが。

「ガール・セヴン」
著者:ハンナ・ジェイミスン
訳者:高山真由美
出版社:文藝春秋(文春文庫刊)

私は必ず日本に帰ってみせる。石田清美、21歳。家族を何者かに惨殺され、ロンドンの底で生きている。そこに飄々とした冷血の殺し屋マークがやってきた。僕が君の家族を殺した人間を探してみようかとマークは言うが―暗黒街からの脱出を願う清美の必死の苦闘を描き切る鋭利なる文体。徹頭徹尾、女子が女子を書いたノワール。

で、このプロモーション映像制作の背景には、こんな流れが。

そんな「ガール・セヴン」は文春文庫から絶賛発売中。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2016年7月25日

「羊たちの沈黙」も「指輪物語」の影響を!?

まずはこちらを観ていただきたい。
映画「羊たちの沈黙」のクライマックスシーンである。

The Silence of the Lambs (11/12) Movie CLIP - Pitch Black (1991) HD 

なぜ、トマス・ハリスの「羊たちの沈黙」に登場するバッファロー・ビルは暗視ゴーグルをつけているのか。

これに関するヒントは、バッファロー・ビルが飼っている犬の名前にある。

犬の名前は "Precious" 菊池光訳の「羊たちの沈黙」では "Precious" は、"可愛い子ちゃん" と訳出されている。

では一体 "Precious" とは何か。

「指輪物語」における "いとしいしと" つまり "一つの指輪" のことである。
実際は、"my precioussss" だが。

つまり、バッファロー・ビルは、 "Precious" こと "一つの指輪" の力で、クラリス・スターリングの前から "暗視ゴーグル" を使う事により、相対的に姿を消すことが出来るのだ。

いかがだろう。ガッテンしていただけただろうか。

なお、手元には、高見浩の新訳「羊たちの沈黙」がないので、新訳版の "Precious" の訳語は確認しておりません。念の為。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2016年6月27日

「猿の惑星」をめぐる冒険

「猿の惑星」
故あって、ピエール・ブールの「猿の惑星」(1963)を読んだ。

わたしの「猿の惑星」(創元推理文庫)は、1975年6月の28版で価格は220円。と言う事は、わたしは「猿の惑星」をずっと前に買ったものの全然読んでいなかったことになる。

《アラン・バートン、ピート・バーグ、そしてゲイランの三人は、苦難に満ちた逃亡の道を歩き始める。 だが、三人の行く手には、必ず何かが待ち受けている。 ここは、猿の惑星なのだ》のナレーションでおなじみのテレビシリーズ「猿の惑星」のジョージ・A・エフィンガーのノベライズは「逃亡者人間」「明日への脱出」「疫病をやっつけろ」は読んでいるのだが、そもそものピエール・ブールの「猿の惑星」は恥ずかしながら読んだことがなかったのだ。

一読して驚いた。
「猿の惑星」に登場する猿たちは、知的で文化的な生活をおくっており科学水準も人類を凌駕しているのだ。

と言うのも、「猿の惑星」の物語の中盤以降、人工衛星(猿工衛星)に動物(人間)を乗せる計画が語られるところを見ると、われわれ人類の文明レベルと比較すると、ライカ犬を乗せたスプートニク2号が打ち上げられたのが1957年であるから、「猿の惑星」における猿たちは、おそらく1950〜1960年代の人類と同程度の文明レベルだと推測する事が出来る。

なぜこんな話をしているのかと言うと、どうしても映画「猿の惑星」(1968)と比較してしまう自分がいるのだ。

映画「猿の惑星」で描かれた猿たちは、ライフル銃を使ってはいるものの、洞窟のようなものの中で暮らしているところを見ると、人類における中世(5〜16世紀)の文明レベルのような印象を受け、猿は猿なりに文化的な生活をおくっているものの、暴力と権力がニアリーイコールな世界。そんな猿たちが支配階級にいる、比較的野蛮な世界観を観客に与えてしまっているのだ。

また、興味深いのはチャールトン・ヘストン演じる宇宙飛行士テイラー大佐もどちらかと言うと野蛮な人物として描かれている。

映画「猿の惑星」は、野蛮な猿の世界に投げ込まれた野蛮な人間テイラー、と言う構造を持っているのだ。

それと比較すると小説「猿の惑星」に登場する猿たちの文化的で科学的な姿には愕然とする。

もっとも、本作「猿の惑星」が文明批判をしている以上、物語構造上、猿が野蛮であってはいけないのである。

残念ながら映画「猿の惑星」はそのあたりについて配慮が足りないと言わざるを得ない。もちろんそのあたりについて意図的である可能性は高いが。

個人的には映画「猿の惑星」は映画史に残る素晴らしい作品だと思っているが、原作と比較すると残念な気持ちがする。

おそらくだが制作者サイドは、意図的に知的なアメリカより、強いアメリカに舵をきったのではないか、と思えてならない。これは1968年と言う時代背景がそうさせている可能性が高い。

また、もう一点興味深いのは、本作「猿の惑星」の物語の構造は、所謂ブックエンド形式で、かつ叙述トリックが採用されている点である。

物語の冒頭、レジャーとして恒星間旅行を楽しんでいる2人の恋人たちが、その旅行中に宇宙空間を漂うひとつの瓶を見つけ、その中に、われわれが知っている「猿の惑星」の物語を記した手記が入っていた、と言う構造を持っているのだ。

そこでは、映画「猿の惑星」に存在する《英語問題》について、登場人物の1人が地球に留学していた経験があるため、地球の言語をマスターしている、と言う設定で物語が描かれている。そして2人の恋人たちの一方が、他方に「猿の惑星」の手記を読み聞かせる、と言う構造をもっているのだ。

そしておそらくだが、小説「猿の惑星」における地球の言語は、英語ではなくフランス語だと考えることができ、その場合、この小説がフランス語で書かれている点に大きな意義を感じる。

つまり、「猿の惑星」の物語では、地球の共通言語は英語から、何らかの事由でフランス語に変わっている、と言う背景を読み取る事ができる。

これは「猿の惑星」の物語にとって大きな意義がある。

また叙述トリックの内容については、趣向を削ぐので解説はしないが、エピローグにあたる部分で非常に興味深い描写が楽しめる。

尤も、「猿の惑星」が採用している叙述トリックは、レベルとしてはあなり高度ではなく、注意深い読者なら早いタイミングで、もしや、と思うと考える。

そんな訳で本作「猿の惑星」は、今読んでも大変面白く、大変興味深く、いろいろと考えさせる作品だと言える。

今更だが、関心がある方は是非、ご一読いただきたい。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2016年5月 8日

「ルーム ROOM」をめぐる冒険

2016年5月8日、エマ・ドナヒューの小説「部屋(上・下)」を映画化した「ルーム ROOM」を観た。

「ルーム ROOM」
監督:レニー・アブラハムソン
原作・脚本:エマ・ドナヒュー
出演:ブリー・ラーソン(ママ/ジョイ)、ジェイコブ・トレンブレイ(ジャック)、ジョーン・アレン(ばあば/ナンシー)、ウィリアム・H・メイシー(じいじ/ロバート)、トム・マッカムス(レオ)、ショーン・ブリジャー(オールド・ニック)

 5歳の誕生日を迎えたジャックは、狭い部屋に母親と2人で暮らしていた。外の景色は天窓から見える空だけ。母親からは部屋の外には何もないと教えられ、部屋の中が世界の全てだと信じていた。2人はある男によってこの部屋に監禁されていたのだった。

 しかし母親は真実を明かす決断をし、部屋の外には本物の広い世界があるのだとジャックに教える。そしてここから脱出するために、ついに行動を開始するのだったが・・・・。

本作「ルーム ROOM」は、非常にエモーショナルな素晴らしい作品に仕上がっている。作品が取り上げた題材、つまり少女の拉致・監禁事件は、現代的でセンセーショナルであり、その辺りに真っ向から勝負を挑んだ意欲的な作品である。

また原作者のエマ・ドナヒューが本作の脚本を担当し、米アカデミー賞脚本賞にノミネートされているのも興味深い。(脚本賞以外では、作品賞ノミネート、主演女優賞受賞、監督賞ノミネート)

キャストはジョイ役のブリー・ラーソン、ジャック役のジェイコブ・トレンブレイの天才ぶりに舌を巻くし、じいじ役のウィリアム・H・メイシーの登場に拍手喝采である。

17歳の娘が誘拐され暴行された事実を受け止められない父親の震えが悲しい。

そんな本作「ルーム」だが、理解する上でのヒントを少々。

◆オールド・ニック
 17歳のジョイを拉致・監禁した犯人のことをジョイとジャックはオールド・ニックと呼んでいる。オールド・ニック( Old Nick )は英語(口語)では《悪魔》を意味する。

 これは当然ながらジャックではなくジョイの考えであろう。

◆サムソン
 髪を伸ばしているジャックは、力の源は髪の毛にある、と考えており、母親のジョイもそれはサムソンのことだと理解している。

 わたしは最初は、ジャックがテレビでアニメーションを観ていたので、ハンナ・バーベラの「怪力サムソン」( "Young Samson and Goliath" )の影響かな、と思ったのだが、「怪力サムソン」は髪が長くはない。

 と言う事は、これは「旧約聖書」「士師記」「サムソンとデリラ」の物語の引用であろう。

 サムソンの物語をWikipediaより一部引用する。 

 イスラエルの民がペリシテ人に支配され、苦しめられていたころ、ダン族の男マノアの妻に主の使いがあらわれる。彼女は不妊であったが、子供が生まれることが告げられ、その子が誕生する以前からすでに神にささげられたもの(ナジル人)であるため次のことを守るよう告げられた。それはぶどう酒や強い飲み物を飲まないこと、汚れたものを一切食べないこと、そして生まれる子の頭にかみそりをあてないことの三つであった。神の使いはマノアと妻の前に再び姿をあらわし、同じ内容を繰り返した。こうして生まれた男の子がサムソンであった。

 サムソンは長じた後、あるペリシテ人の女性を妻に望み、彼女の住むティムナに向かった。その途上、主の霊がサムソンに降り、目の前に現れたライオンを子山羊を裂くように裂いた。ティムナの女との宴席で、サムソンはペリシテ人たちに謎かけをし、衣を賭けた。ペリシテ人は女から答えを聞きだし、サムソンに答えた。サムソンは主の霊が下ってアシュケロンで30人のペリシテ人を殺害してその衣を奪い、謎を解いたペリシテ人たちに渡した。ティムナの女の父はこの一件の後、娘をほかの男性に与えた。サムソンはこれを聞いて、300匹のジャッカルの尾を結んで、それぞれに一つずつ松明をむすびつけ、畑などペリシテ人の土地を焼き払った。ペリシテ人はその原因がティムナの父娘にあると考えて二人を殺したが、サムソンはこれにも報復してペリシテ人を打ちのめした。ペリシテ人は陣をしいてサムソンの引渡しを求め、ユダヤ人はこれに応じた。ペリシテ人はサムソンを縛り上げて連行したが、途中で主の霊が降ると縄が切れて縄目が落ち、サムソンはろばのあご骨をふるってペリシテ人1000人を打ち殺した。

 サムソンは二十年間、士師としてイスラエルを裁いた。その後、サムソンはソレクの谷に住むデリラという女性を愛するようになったため、ペリシテ人はデリラを利用してサムソンの力の秘密を探ろうとした。サムソンはなかなか秘密を教えなかったが、とうとう頭にかみそりをあててはいけないという秘密を話してしまう。デリラの密告によってサムソンは頭をそられて力を失い、ペリシテ人の手に落ちた。彼は目をえぐり出されてガザの牢で粉をひかされるようになった。

 ペリシテ人は集まって神ダゴンに感謝し、サムソンを引き出して見世物にしていた。しかしサムソンは神に祈って力を取り戻し、つながれていた二本の柱を倒して建物を倒壊させ、多くのペリシテ人を道連れにして死んだ。このとき道連れにしたペリシテ人はそれまでサムソンが殺した人数よりも多かったという。

ジャックはおそらくだが、産まれてからの5年間、一切髪を切っていないのだと推測することが出来る。

なぜなら髪を切ってしまうとその力が失われる、とジャックは信じているから。

サムソンはデリラのために捕らえられ、髪を剃られるが、監禁されている間に髪が伸び、神に祈る事により怪力を取り戻す。この辺りも「ルーム」に生かされている。

また、ジャックが母親ジョイの抜けた歯を持って、人生に立ち向かったのは、サムソンがロバのあごの骨を使ってペリシテ人を1000人殺したからである。

◆ジャックの父親は

本作「ルーム」の後半部分で、テレビの取材を受けるジョイがジャックの父親についてインタビューに答える。

この回答が「聖書」的には象徴的な印象を観客に与える事になる。

この点を考えると、ジョイはキリスト教的な背景を持ったキャラクターだと考える事が出来、それは両親であるロバートとナンシーの教育によるものだと推測することができる。

オールド・ニック、サムソン、非生物学的な処女懐胎、そんなキーワードを基に本作「ルーム」を解釈してはいかがだろうか。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2016年2月 7日

「センター18」をめぐる冒険

センター18 ウィリアム・ピーター・ブラッティの「センター18」を読了した。

「エクソシスト」(1971)はともかく、2012年に翻訳が刊行された「ディミター」(2010)が素晴らしかったので「センター18」には期待をしていたのだが、あまりも薄い本だったので、おいおい大丈夫かよ、と思いながら読みはじめた。

「センター18」
著者:ウィリアム・ピーター・ブラッティ
訳者:大瀧啓裕
出版社:東京創元社

内容紹介:一九六〇年代後半、ヴェトナム戦争の時代。妄想に取りつかれた合衆国軍の将校たちは、仮病と疑われながら秘密収容所に送りこまれ、治療と研究の対象となっていた。最後の収容所となったセンター18には、元宇宙飛行士のカットショー大尉を始め、様々な強迫観念に囚われた兵士たちが収容されていた。

新たに配属された海兵隊の精神科医ハドスン・ケイン大佐は、収容者たちの話を聞き続ける中で、かつての患者が見ていた悪夢に繰り返し苛まれる── 館に蔓延する狂気と悪夢。そして〝奇蹟〟の顕現。『エクソシスト』の鬼才が贈る傑作。訳者あとがき=大瀧啓裕

「センター18」は小説なのだが戯曲のような印象を受ける。

物語の前半部分は、所謂精神病院の患者と医師が散文的に会話をしているだけで、あまり大きな出来事は起きない。

その会話は、精神病院を舞台とした多くの作品と同様に暗喩と引用に満ちている。

しかも、その引用されている固有名詞がわれわれが知っている固有名詞と少しずつ異なっているのだ。

これは後に、日本語の表記を英語の発音に近づけただけだ、と言うことがわかるのだが、わたしはこの手法から、この物語はわれわれが知っている世界と別の、つまりパラレルワールドか、異なった世界線上の物語なのだろうと想像しながら読んでしまった。

そちらの方向に意識が向いていたため、「センター18」の物語に素直に没入できなかったことが残念である。わざわざ一般的な日本語と異なる表記をするのは翻訳としてはいささか問題だと思った。

本作は翻訳でわずか175ページの作品だが、129ページあたりまでは、前述のような患者と医師の会話が続くのだが、129ページから物語の本質が見えてくる。

そこからは俄然面白くなって行く。

わずか175ページの物語だが、読了後もう一度最初から読みたくなる、そんな感じの小説である。

The Ninth Configuration 余談だが本作「センター18」("The Ninth Configuration")は、1966年の "Twinkle, Twinkle, "Killer" Kane" を書き直した作品らしく、1980年には "The Ninth Configuration" と言うタイトルで映画化もされている。制作・監督・脚本はウィリアム・ピーター・ブラッティ。

この "The Ninth Configuration" のポスターが格好いい。

これも機会があれば観てみたいと思う。

@tkr2000
@honyakmonsky

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2016年2月 6日

文庫本が高いです

先日のエントリー【ガレス・L・パウエル「ガンメタル・ゴースト」の装画を気に入る】で紹介したガレス・L・パウエル「ガンメタル・ゴースト」とロバート・A・ハインラインの新訳版「宇宙の戦士」を購入しようとして書店の会計でびっくりした。

なんと文庫本2冊で2,484円もするのだ。

本を買う際に価格を確認しないわたしも悪いのだが、文庫本2冊で2,500円弱とは驚きである。

どっちが高いのかなと思い、ここで初めて価格を確認するわたしだったが、「ガンメタル・ゴースト」が税抜1,300円、税込1,404円でガレス・L・パウエルに軍配が上がった。

わたしは本を買う際に、あまり価格を確認しない方だし、本は高いとは思わない方なのだが、さすがにこれには驚いた。

ちょっと前に買ったウィリアム・ピーター・ブラッディの「センター18」は極薄のハードカバーで税抜1,700円、税込1,836円なので、もう文庫本とハードカバーの本は似たような価格帯になってきているのだ。

どうせなら「ガンメタル・ゴースト」もシリーズ全訳前提でハードカバーで出せば良かったのにな、と思ってしまう。

おっさんの読書離れも進むよね。

@tkr2000
@honyakmonsky

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