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2013年9月

2013年9月20日

「マン・オブ・スティール」をめぐる冒険

2013年9月15日、109シネマズ川崎でザック・スナイダーの「マン・オブ・スティール IMAX 3D」を観た。

大昔、わたしが少年だった頃。

クリストファー・リーヴがタイトルロールを演じたリチャード・ドナーの「スーパーマン」(1978)を観た時の話。

ジョー=エル(マーロン・ブランド)が自分の息子であるカル=エルをトゲトゲのカプセルに入れて惑星クリプトンから地球へと送ったのを観て、これ「十戒」(1956)じゃねえの、と思ってから幾星霜。

「スーパーマン」(1978)より「十戒」(1956)指数が高いスーパーマン物語「マン・オブ・スティール」(2013)が公開された。

先ずは予告編を観て驚いた。

と言うのも、この「マン・オブ・スティール」の予告編には「十戒」的に興味深いセリフがあったのだ。

ジョー=エル:さらばだ 息子よ お前に希望を託す
ララ・ロー=ヴァン:恐れられ 殺されるわ
ジョー=エル:いや 救世主になるよ

Jor-El: Goodbye, my son. Our hopes and dreams travel with you.
Lara Lor-Van: He will be an outcast. They'll kill him.
Jor-El: How? He'll be a god to them.

これは驚きである。
死から逃れ、籠に乗せられて地球に流された赤ん坊が地球で救世主になる、とジョー=エルは言っているのだ。

さて、ご承知のように「十戒」では、と言うか本来は「旧約聖書」では、と言うべきなのだが、こんな物語が語られている。

ヘブライ人がエジプトの奴隷とされていた時代、一人のヘブライ人の男の子が生まれる。ファラオは救世主の誕生を恐れたため、ヘブライ人の男の幼児をすべて殺すように命令する。難を逃れるため、その子は籠に入れられ、ナイル川に流されたが、沐浴していたエジプトの王女ベシアに拾われる。ベシアはその子をモーセと名付け、自分の子として育てる。

後にモーセは神の啓示を受け、エジプトからヘブライ人を解放するため、王ラメセスと交渉する。

一時はそれを許したラメセスだったが、エジプト軍を率いてヘブライ人を紅海まで追い詰める。

そしてモーセは紅海をふたつに割るのである。

さて、そこまで考えた上で、「マン・オブ・スティール」を考えてみる。

冒頭、惑星クリプトンの壊滅のシーンは予告編で描かれている通りであるが、描かれていない部分で、ジョー=エルは息子カル=エルにコデックスを託す。

このコデックスが実は曲者で、コデックスには惑星クリプトンの全人類の遺伝子コードが記録されているのだ。そしてそのコデックスに内包されている遺伝子コードを活用し、惑星クリプトンの全人類が、一種のクローンとして誕生している訳なのだ。

そんな中、惑星クリプトンでは数百年の間、自然分娩の子どもは産まれていないのだが、ジョー=エルはララ・ロー=ヴァンとの間に、クローンではなく自然分娩で息子カル=エルをもうける。

そして、ジョー=エルは息子カル=エルにコデックスを託すのだが、これは何を表現しているのか、と言うと、当然ながらモーセがヘブライ人を率いてエジプトから脱出することのメタファーとなっている。

つまり、カル=エルは幼くしてクリプトンの全人類を率いてクリプトンから脱出したことを描いている。カル=エルは、遺伝子コードの民を率いる預言者(救世主)なのだ。

ゾッド将軍/「マン・オブ・スティール」より
「マン・オブ・スティール」のゾッド将軍(マイケル・シャノン)。エジプトの王に見える。

更に、それを追うゾッド将軍(マイケル・シャノン)は王ラメセスのメタファーであり、そのルックスもエジプト王のように見えるではないか。

モーセ/「十戒」より
「十戒」
のモーセ(チャールトン・ヘストン)。預言者モーセはスーパーマンなのか。

それでは、「十戒」の紅海をふたつに割るシーンはどこで描かれているか、と言うと、もうそれは「スーパーマン」シリーズのお約束、海上を飛ぶスーパーマンはソニックブームで海をまっぷたつに割っているではないか。

余談だが、「スーパーマン」シリーズの設定では、クラーク・ケントでいる間は強烈なグリースで頭髪をオールバックに固めているのだが、いざスーパーマンになるとそのスーパーパワーでグリースがはじけ飛び、前髪がちょうどSの形に、いわゆるアホ毛のような状態になってしまう。

因みにモーセは、神の啓示を受けると角が生えるのだが、「十戒」の映画では髪の色が変わり、髪が固まったように表現されている。

「マン・オブ・スティール」では従来のスーパーマンのような、アホ毛と言うよりは、胸毛が顔を出しているのだけども。

クラーク・ケント/「マン・オブ・スティール」より
「マン・オブ・スティール」
のクラーン・ケント(ヘンリー・カヴィル)。「十戒」のモーセ(チャールトン・ヘストン)に酷似している。

また「マン・オブ・スティール」の成長したクラーク・ケントの髭面は「十戒」のモーセ(チャールトン・ヘストン)とそっくりですよね。

まあそんなことを考えながら「マン・オブ・スティール」を観た訳ですよ。

まあ「マン・オブ・スティール」はそんな訳で大変素晴しい映画に仕上がっているので、関心がある方は是非。

わたしが一番グッときたのは、次のセリフ。

Welcome to The Planet.

ダブルミーニングが利いた良いセリフですよね。

余談だけど、ゾッド将軍の副官ファオラ=ウル(アンチュ・トラウェ)は八極拳使ってますよ。鉄山靠とか。

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2013年9月 1日

「風立ちぬ」をめぐる冒険

「風立ちぬ」パンフレット裏表紙より 宮崎駿の「風立ちぬ」を観た。

いろいろと思うところはあるのだが、購入したパンフレットの裏表紙を見て腑に落ちる。

と言うのも「風立ちぬ」の英タイトルは「The Wind Rises」のようなのだ。

つまりここで「The Wind Rises」のタイトルが表現しているのは、《風はすでに起きている、もう誰にも止められない》と言う事である。

因みに、堀辰雄の「風立ちぬ」の英タイトルは「The Wind Has Risen」

宮崎駿は、時間や、通り過ぎるもののメタファーとして《風》を使っている堀辰雄の「風立ちぬ」とは、タイトルは同様でも、全く異なった《風》を描いているのだ。

宮崎駿が描く《風》は《時代のうねり》なのである。

もちろん、本作「風立ちぬ」で描かれている時代背景は、ご承知の通り、日本が戦争へと向かう時代。

主人公の堀越二郎は《美しいもの》以外には何の関心も持たないキャラクターとして描かれている。

その時代の流れに無関心なキャラクター設定はどう考えても、われわれ現代日本人のメタファーだと言える。

物語の中盤、軽井沢のホテルに登場するドイツ人カストルプは「ドイツは破裂する、この国も破裂する」と嘯く。

この、クレソンを狂ったように食べるドイツ人は当然ながら悪魔のメタファーに他ならない。

しかし、本作「風立ちぬ」で宮崎駿が描こうとしたのは、戦争へ突き進む日本とそれに無関心な堀越二郎を描きながら、2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故とそれの影響、そしてその影響に無関心な日本人を描いている。

そう、宮崎駿が言いたいのは、《風はすでに起きている、もう誰にも止められない》と言う事なのだ。

「風立ちぬ」
監督・原作・脚本:宮崎駿
製作:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ
音楽:久石譲
主題歌:荒井由美 「ひこうき雲」
声の出演: 庵野秀明(堀越二郎)、瀧本美織(里見菜穂子)、西島秀俊(本庄季郎)、西村雅彦(黒川)、スティーブン・アルパート(カストルプ)、風間杜夫(里見)、竹下景子(二郎の母)、志田未来(堀越加代)、國村隼(服部)、大竹しのぶ(黒川夫人)、野村萬斎(カプローニ)

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