海外ミステリー

2012年1月29日

「裏切りのサーカス」公式サイトオープン!

スクリーンショット:映画「裏切りのサーカス」公式サイト
映画「裏切りのサーカス」の公式サイトがオープンした。

映画「裏切りのサーカス」公式サイト

本作「裏切りのサーカス」は、ジョン・ル・カレのスパイ小説「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の映画化作品で、映画の原題は「Tinker Tailor Soldier Spy」、原作小説の原題は「Tinker, Tailor, Soldier, Spy」である。

そのような状況下において、映画の邦題が 「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」ではなく「裏切りのサーカス」になることが公表されるとすぐにWEB上ではその邦題について賛否両論の議論が交わされた。

その論旨としては、原作を知らないであろう観客に対し「裏切りのサーカス」、つまり「サーカス」と言う言葉から派生するミスデレクションを問題視する声が多かった。

因みにこの「サーカス」とは、動物を使った芸や人間の曲芸などを見せる「サーカス」の意味ではなく、英国諜報部の通称である。これは英国諜報部の所在地がケンブリッジ・サーカスだったことに由来する。

これは、CIA本部を通称「ラングレー」と呼ぶのと同じようなものである。

ところで、冒頭で紹介した、映画「裏切りのサーカス」公式サイトをよくよく見ていくと、次のような表記がある。

原作:「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」ジョン・ル・カレ著(ハヤカワ文庫刊)

ここで考えなければならないのは、ハヤカワ文庫NVの「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」は、現在絶版状態(版元在庫なし、店頭在庫のみ)であるらしいこと。

そんな状況において映画が公開された場合、原作を絶版状態のままにしておくことは一般的に考えられず、おそらくだが、映画「裏切りのサーカス」の公開と同時期に「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の映画タイアップ版が出版されるのではないか、と思われていた。

そして、その映画タイアップ版のタイトルが「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」のまま再版されるのか、それとも「裏切りのサーカス」と言うタイトルに改題されて出版されるのかが、注目されていた。

公式サイトにある「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」と言う表記はおそらく「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の単純な誤りだと思うが、もしこの表記が正しければ、おそらくは「裏切りのサーカス」ではなく「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」と言うタイトルで映画タイアップ版が出版されるのだろう、と推測することができる。

はたしてどうなるのか、見守って行きたいと思う。


因みにわたしの「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」はこんな表紙ね。
「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」

以下、2012年2月4日追記。

2012年4月21日に日本公開される映画「裏切りのサーカス」の原作「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の新訳が早川書房から出版される事が、早川書房公式アカウント(@Hayakawashobo)によってアナウンスされた。

曰く、

映画「裏切りのサーカス」原作のジョン・ル・カレ「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」、名翻訳家・村上博基さんによる新訳版が3月下旬に刊行予定です。刊行が近づいたらハヤカワ・オンラインやメールマガジン等でもお知らせしますので、もう少しお待ちくださいね。

とのこと。

「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」
■著者:ジョン・ル・カレ
■翻訳:村上博基

■出版:早川書房(ハヤカワ文庫)

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2012年1月28日

【ウッドハウスさん、130回めの誕生日おめでとう!(前篇)】をめぐる冒険

先日のエントリー「ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻」でP・G・ウッドハウスの紹介をしたら、それに呼応するように(嘘)、2012年1月28日、翻訳ミステリー大賞シンジケート公式ブログでウッドハウスに関するエントリー(全4回の第1回)が公開された。

【特別寄稿】ウッドハウス聖地巡礼記・第1回(執筆者・森村たまき)
第1回:ウッドハウスさん、130回めの誕生日おめでとう!(前篇)

現在、P・G・ウッドハウスの翻訳は、文藝春秋国書刊行会から出版されている。

先日のエントリーでは、

もしかすると、このままジーヴズシリーズが文春文庫で全部揃うんじゃねぇの、と言う希望的観測のもと、わたしは平積みの「ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻」を購入することにした。

と書いたが、それは甘い考えだったようで、やはりジーヴズシリーズを読破するには、国書刊行会ウッドハウス・コレクションを揃えないといけない模様。なお、本コレクションの翻訳は前述のエントリーの執筆者である森村たまき。

まあ、全部揃えれば良いだけなのだが、全14冊、各2,100円〜2,310円と言うのは少し高いような気がする。

さて、先ほど紹介した、

【特別寄稿】ウッドハウス聖地巡礼記・第1回(執筆者・森村たまき)
第1回:ウッドハウスさん、130回めの誕生日おめでとう!(前篇)

だが、このエントリーは国書刊行会のウッドハウス・コレクションの翻訳者である森村たまきが、2011年10月に開催されたアメリカウッドハウス協会大会主催のウッドハウス生誕130周年を祝うイベントに参加した際のレポートである。

非常に興味深いレポートなので、是非ご一読をお勧めする。
市井のジーヴズファンによるアカデミックな考察が非常に楽しそうなコンベンションのようだ。

全くの余談だが、ジーヴズシリーズを読んでいると、テレビシリーズ「SOAP」の執事ベンソンを思い出す。
「SOAP」の執事ベンソンは、ロバート・ギヨームが演じており、エミー賞コメディー部門助演男優賞を受賞している。
また、そのベンソン人気により、スピンオフ作品「Benson」が制作されている。

ウッドハウス・コレクション第一巻「比類なるジーブス」

ウッドハウス・コレクション第14巻「ジーヴスとねこさらい」

当ブログでは、Jeevesを文藝春秋にならいジーヴズと表記しているが、国書刊行会ではジーヴスと表記されている。念の為。

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2012年1月25日

「装飾庭園殺人事件」

「装飾庭園殺人事件」
著者:ジェフ・ニコルソン
翻訳:風間賢二
装画:藤田新策
出版:扶桑社ミステリー文庫

このような小説を読むと、翻訳家とは凄い職業だな、と思えてならない。

と言うのも、本作「装飾庭園殺人事件」は、なんと16人もの語り手が章ごとに次々と変わっていく一人称小説の形態をとっているのだ。

つまり、本作「装飾庭園殺人事件」はその構成上、当然のごとく、章ごとつまり16人の語り手ごとに、語り口や文体、漢字の多寡や論理性、簡潔さや回りくどさ、もちろん読みやすさや読みにくさがどんどん変わっていく。

もちろん、語り手が変わる一人称小説のお約束として、その章の冒頭から中盤くらいまでは、語り手が誰なのか判然としない構成をもとっている。つまり語り手が一体誰なのかを推測するヒントとなる固有名詞がなかなか出てこないのだ。

そんなの小説なんだから当り前だろう、という人もいるだろう。

それがもし日本語で書かれた小説であれば、当り前で済むのだろうが、本作は残念ながら英語で書かれた小説である。

そう、本作に登場する一人称単数の代名詞は、おそらくだが、"I"だけなのである。

つまり、本作「装飾庭園殺人事件」の翻訳家である風間賢二は、"I"からはじまる16名の登場人物の語りを見事に訳し分けているのだ。

冒頭、p5からのジョン・ファンサムの口語調の語り口は、非常にユーモラスでとっつきやすくてわかりやすい。探偵小説、特にハードボイルド小説の冒頭を飾る上では理想的な語り口である。

しかしながら、次の語り手、p17からのモーリン・テンプルの語り口は硬質で理屈っぽく、非常にわかりにくい。
わたしはこの章を、おい、一体どうなってんだ、さっきの語り口と全然違うじゃないか、全くもって読みづらいよ、と思いながら読み進めた。

p23からは再びジョン・ファンサムのハードボイルド調の好感が持てる語り口が登場、しかしp33からはまたモーリン・テンプルの語り口に。
どうやらこの小説は二人の視点で進むのかな、と思った矢先、p45からは新たな語り手ダン・ラウントリーの視点が登場、という具合。

そんな訳で、本作「装飾庭園殺人事件」は都合16名の老若男女の視点が織りなす、タペストリーのような絢爛豪華な作風を持っている。

物語は、ロンドンのホテルで睡眠薬自殺を図ったと思われる男性の死体が発見されるが、その美しい未亡人は夫が自殺する訳はないと、金をバラまきながら夫の死因の独自調査をはじめるが、その未亡人の前に奇妙な関係者たちが次々と現れ、夫の知られざる顔が・・・・。というもの。

個人的には、複数の視点から描かれた主観的な物語の断片が、最終的に、ある事実を編み上げていく、という構成にはグっとくるものがある。

しかし、わたしは、本作「装飾庭園殺人事件」を一読して、あっけにとられました。

ところで、非常に興味深かったのは、本作「装飾庭園殺人事件」の翻訳者は風間賢二氏である、ということ。

誰が風間氏にオファーしたのか、はたまたどのような経緯で翻訳者が風間氏に決定したのかはわからないが、風間氏自身は本作「装飾庭園殺人事件」の内容というか作品の趣向というか作品の趣味にぴったりな翻訳家だと思ったよ。

余談だけど、日本語の一人称単数の代名詞は、フリー百科事典Wikipediaによると、70種類以上もある模様。

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2012年1月20日

「遠まわりする雛」をめぐる冒険

早速で恐縮だが、米澤穂信の「遠まわりする雛」のあとがきが大変興味深い。

ところで、そもそも「遠まわりする雛」とは何ぞや、と言う話なのだが、同書は米澤穂信の〈古典部〉シリーズ第4作目であり、〈古典部〉シリーズ初の短篇集である。

それでは、その〈古典部〉シリーズとは一体どんなシリーズなのか、と言うところなのだが、このシリーズはフリー百科事典Wikipediaによると、

文化系部活動が活発なことで有名な進学校、神山高校で「古典部」という廃部寸前の部活に入部した男女4人が、学校生活に隠された謎に挑む。主に、主人公であり探偵役でもある折木奉太郎の一人称で語られる。

とのこと。

つまり、この〈古典部〉シリーズは、学校生活に隠された謎に挑むミステリー、つまり、人が死なないミステリーなのだ。

この殺伐とした世の中において、またミステリーの大前提と言うか宿命として、人が死んでしまうのが当り前のミステリー界において、人が死なないミステリーとは、なんとも心地良い。心からそう思う。

さて、それでは今日の本題である「遠まわりする雛」のあとがきについてだが、その興味深い部分を引用してみよう。

また、今回は短篇集ということで、さまざまなシチュエーションを使うことができました。そのためミステリの趣向もいろいろなものを試しています。このシリーズとミステリの両方をよくご存じの方であれば、「手作りチョコレート事件」が倒叙ミステリと言っていい作りになっていることに気づかれたかもしれません。

もし本書をきっかけにミステリを広く読んでみたいと思われる向きがありましたら、「心あたりのある方は」がハリイ・ケメルマン「九マイルでは遠すぎる」への、「あきましておめでとう」がジャック・フットレル「十三号独房の問題」への入り口になってくれれば嬉しいです。

いかがだろう。

つまり、ここで米澤穂信は本書「遠まわりする雛」を通じて、本書に関心を持った読者を海外ミステリーの世界へと招待しているのだ。

現代の若い世代は海外の小説や音楽にあまり関心を持っていないと言われている。
おそらく日本国内の小説や音楽で満足してしまっているのだろう。

もう少し上の世代だと、例えば国内の好きな作家やアーティストが影響を受けている海外の小説や音楽を遡りながら読んだり聴いたりすることが一般的なのではないかと思う。

そんな中、米澤穂信は自らの作品の読者を、特に若年層の読者を海外ミステリーの世界にいざなっているのだ。

ここにも一人、日本国内の読者が減少し、また日本国内の読者が関心を持たなくなっている海外ミステリーが置かれている状況について憂いている人がいたぞ。

これを機に、海外ミステリーの世界にも目を向けていただきたいと思う。

「遠まわりする雛」米澤穂信
お約束で恐縮だが「遠まわりする雛」も米澤穂信のサイン入りだよ。

なお、「十三号独房の問題」「世界短編傑作集 1」に収録されています。

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2012年1月10日

「ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻」

「ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻」 「ご同輩、あなたはついていらっしゃる」

例によっていつもの通り、有楽町の三省堂書店文庫コーナーを物色していたら、見慣れない表紙のバーティ&ジーヴズ(ジーヴス)シリーズが平積みされているのを発見した。

なんとジーヴズシリーズが文庫になっている!

驚きつつ手に取ってみると、本書「ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻」は、文春文庫から2011年5月に第一刷が刊行され、現在までに第五刷まで版を重ねている、と言うことがわかった。

どうやら売れているらしいぞ。

ところで、わたしの記憶が正しければ、P・G・ウッドハウスのジーヴズシリーズは最近だと文芸春秋と国書刊行会からそれぞれハードカバーで刊行されているはずである。

もしかすると、このままジーヴズシリーズが文春文庫で全部揃うんじゃねぇの、と言う希望的観測のもと、わたしは平積みの「ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻」を購入することにした。

さらにところで、いきなり私見で恐縮だが、ミステリー界には愛すべき執事が3人いる。

1人はアイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズのヘンリー、そしてもう1人は本シリーズ、P・G・ウッドハウスのジーヴズシリーズのわれらがジーヴズである。

もちろん日本にも、最近メキメキと名をあげている執事がいる。
そう、その通り。東川篤哉の「謎解きはディナーの後で」の影山である。

ここでわたしは文藝春秋のもくろみが、本書をわざわざ2011年5月に刊行した戦略的事由に思い当たる。

やるな、文藝春秋め、ジーヴズを「謎解きはディナーの後で」にぶつけて来たな!

そして、ようやく本書「ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻」の帯に踊るキャッチコピーの周到なミスデレクションが見えてくるのだ。

「機略と手際」。これが紳士に仕える私のモットーです。
"スーパー執事"ジーヴズが活躍する小説傑作選!
「ご主人とは馬のようなもので、調教が肝心なのです」

いかがだろう、お気付きだろうか?

ジーヴズがスーパー執事!?

と言うのは、細かい話で恐縮だが、本文ではジーヴズを"従僕"だと紹介しているのに、帯では"スーパー執事"と表記している。

つまりジーヴズは"従僕"ではなく"執事"である、とミスデレクションしているのだ。

おそるべし文藝春秋。

ところでところで、このジーヴズシリーズは、トニー・リングのあとがき『「ジーヴズの事件簿」刊行によせて』によると、本シリーズは、ローマ時代、ひょっとするとそれ以前に端を発する"賢明な奴隷と間抜けな主人"を描いた小説のバリエーションであるらしい。

いかがだろう、日本のぽっと出の執事を描いた作品を読むのも良いが、その執事に影響を与えているであろうジーヴズシリーズを読んでみるのも面白いのではないかな、と思う。

本エントリー冒頭の一節「ご同輩、あなたはついていらっしゃる」は、1990年代前半に放送されたテレビシリーズ「ジーヴズ&ウースター」でジーヴズを演じたスティーヴン・フライがウッドハウスの短篇集「おや、どうした!ーよりぬきP・G・ウッドハウス」の序文冒頭で語った一節。

なお、アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズのヘンリーは執事ではなく給仕です。念の為。


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