東川篤哉

2012年1月10日

「ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻」

「ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻」 「ご同輩、あなたはついていらっしゃる」

例によっていつもの通り、有楽町の三省堂書店文庫コーナーを物色していたら、見慣れない表紙のバーティ&ジーヴズ(ジーヴス)シリーズが平積みされているのを発見した。

なんとジーヴズシリーズが文庫になっている!

驚きつつ手に取ってみると、本書「ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻」は、文春文庫から2011年5月に第一刷が刊行され、現在までに第五刷まで版を重ねている、と言うことがわかった。

どうやら売れているらしいぞ。

ところで、わたしの記憶が正しければ、P・G・ウッドハウスのジーヴズシリーズは最近だと文芸春秋と国書刊行会からそれぞれハードカバーで刊行されているはずである。

もしかすると、このままジーヴズシリーズが文春文庫で全部揃うんじゃねぇの、と言う希望的観測のもと、わたしは平積みの「ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻」を購入することにした。

さらにところで、いきなり私見で恐縮だが、ミステリー界には愛すべき執事が3人いる。

1人はアイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズのヘンリー、そしてもう1人は本シリーズ、P・G・ウッドハウスのジーヴズシリーズのわれらがジーヴズである。

もちろん日本にも、最近メキメキと名をあげている執事がいる。
そう、その通り。東川篤哉の「謎解きはディナーの後で」の影山である。

ここでわたしは文藝春秋のもくろみが、本書をわざわざ2011年5月に刊行した戦略的事由に思い当たる。

やるな、文藝春秋め、ジーヴズを「謎解きはディナーの後で」にぶつけて来たな!

そして、ようやく本書「ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻」の帯に踊るキャッチコピーの周到なミスデレクションが見えてくるのだ。

「機略と手際」。これが紳士に仕える私のモットーです。
"スーパー執事"ジーヴズが活躍する小説傑作選!
「ご主人とは馬のようなもので、調教が肝心なのです」

いかがだろう、お気付きだろうか?

ジーヴズがスーパー執事!?

と言うのは、細かい話で恐縮だが、本文ではジーヴズを"従僕"だと紹介しているのに、帯では"スーパー執事"と表記している。

つまりジーヴズは"従僕"ではなく"執事"である、とミスデレクションしているのだ。

おそるべし文藝春秋。

ところでところで、このジーヴズシリーズは、トニー・リングのあとがき『「ジーヴズの事件簿」刊行によせて』によると、本シリーズは、ローマ時代、ひょっとするとそれ以前に端を発する"賢明な奴隷と間抜けな主人"を描いた小説のバリエーションであるらしい。

いかがだろう、日本のぽっと出の執事を描いた作品を読むのも良いが、その執事に影響を与えているであろうジーヴズシリーズを読んでみるのも面白いのではないかな、と思う。

本エントリー冒頭の一節「ご同輩、あなたはついていらっしゃる」は、1990年代前半に放送されたテレビシリーズ「ジーヴズ&ウースター」でジーヴズを演じたスティーヴン・フライがウッドハウスの短篇集「おや、どうした!ーよりぬきP・G・ウッドハウス」の序文冒頭で語った一節。

なお、アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズのヘンリーは執事ではなく給仕です。念の為。


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