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2012年2月 4日

舞台「弱虫ペダル」

舞台「弱虫ペダル」 2012年2月3日 東京天王洲「天王洲 銀河劇場」で舞台「弱虫ペダル」を観た。

舞台「弱虫ペダル」
演出:西田シャトナー
脚本:なるせゆうせい
原作:渡辺航「弱虫ペダル」
音楽:manzo
出演:村井良大(小野田坂道)、太田基裕(今泉俊輔)、鳥越裕貴(鳴子章吉)、馬場良馬(巻島裕介)、大山真志(田所迅)、郷本直也(金城真護)、森本亮治(福富寿一)、鈴木拡樹(荒北靖友)、玉城裕規、倉貫匡弘(寒咲通司)

オタクで、運動音痴で、友達もいない・・・・
そんな千葉総北高等学校の新入生、小野田坂道の唯一の楽しみは、45km以上離れた秋葉原まで毎週ママチャリで通うこと。入学したらアニメ・漫画研究部で友人を作り青春を謳歌しようとしていた坂道だが、自転車をきっかけに同じく総北高校新入生の今泉俊輔・鳴子章吉と出会い、自身のロードレースの才能を見出し始める。仲間を求めていた坂道は、己の可能性を試そうと2人と共に自転車競技部への入部を決意するが・・・・。
(パンフレットより引用)

わたしは、映画や美術展等と比較すると舞台にあまり足を運ばない。観たとしてもせいぜい年に数本程度である。映画は年に100本以上、美術展はおそらく年に20回以上は行くので、その頻度の低さは明らかだろう。

もちろん舞台で上演される演劇には関心はあるし、観たい舞台もたくさんあるのだが、その短い公演スケジュールに合わせて自分の日程を調整するのは、終日上映している映画や、会期が比較的長い美術展と比較すると圧倒的に難しい。

また、舞台は作品によって長時間に及ぶことが多く、ちょっとしたことでお腹の調子が悪くなってしまうわたしにとっては敷居が少し高い印象がある。
なにしろ、途中で退席しても、明日もう一度観に行く、と言う事が難しいからだ。

しかしながら、今回の舞台「弱虫ペダル」は是非とも観たい舞台のひとつだった。

と言うのも、わたしは、ここ数年はレースにこそ参戦はしていないが、趣味で自転車競技(MTB)を行っている。そんな訳で、舞台上で、自転車レースを、しかもロードレースをどのように表現するのか、その一点にも高い関心を持っていたのだ。

しかも演出は、演劇化不可能と言われる題材を次から次へと舞台化してきた、元・惑星ピスタチオの西田シャトナー。

これは期待せざるを得ない。

さて、今日の本題、舞台「弱虫ペダル」についてだ。

冒頭、ロードレーサーの練習風景。

集団を形成して走るロードレーサー個々の、そして集団の動き、コースのアップダウン、上りから下りへ、峠を抜けるその瞬間、カーブやコーナーを駆け抜けるそのスピード感、空気感。

まるで、ロードレーサーの集団の周囲を縦横無尽に動き回るステディカムで撮影したような映像が、舞台で再現されていた。

まるで有機体のように動き続けるロードレーサーの集団、特にハンドルを含めた上半身の動きは、ツール・ド・フランス等のレース映像そのものの迫力を持っていた。

この時点、冒頭のシーンでわたしは既に感涙状態である。

あぁ、ロードレースが舞台上で見事に表現されている、と。

舞台には魔法がある。

わたしが舞台に求めるのは、その魔法である。

それは演出上のサプライズとも言えると思うのだが、舞台と言う物理的に制限された空間と、キャストとスタッフと観客の間で均等に流れる時間を使い、様々な事柄を表現するためには、そのサプライズが、魔法が必要なのだ。

おそらく、その魔法をかけるのは演出家であり、その魔法自体を演じるのはキャストとスタッフ、そしてその魔法を実現するのは、その魔法の触媒として機能する、観客の魔法を信じる力である。

冒頭のロードレーサーの集団走行シーンは、そんな魔法の力を感じる瞬間だった。

圧倒的なスピードで、コースを次々とクリアしていくロードレーサーの集団。

ところで、舞台「弱虫ペダル」の物語は、アニメやゲーム、秋葉原が大好きな少年が、自転車競技の世界に足を踏み入れるところまでを描いている。

上演時間は120分。舞台としては短い。

シーンとしては2シーン目にあたる秋葉原のシーン。
120分しかない上映時間の割にはアキバのシーンに尺を取っている。

そして、このシーンでこの作品のスタンスが見えてくる。
あぁ、コメディ要素が強い作品なのだな、と。

しかも、尺を取るだけあって、ここが、この秋葉原のシーンが、非常に重要な伏線になっている訳だ。

ここの再現シークエンス、2度目に登場するそのシーンが素晴らしい。

また、中盤以降、回想を含め、レースシーンが頻出する。
これまた素晴らしいシーンの目白押しである。

特に素晴らしいな、と思ったのは、スポーツやアクションを描く上での問題点のひとつをクリアしていること。

つまり、レースの最中、アクションの最中のキャラクターの独白を物語の進行を阻害せずに行っているのだ。

例えば、アニメ「巨人の星」で、星飛雄馬が花形満にボールをたった一球投げる間の心の葛藤を描くために15分以上の尺を費やしてしまったり、アニメ「ドラゴンボール」でキャラクター同士の戦いを見ているキャラクターの独白を描くため、不必要に長いバトルシーンを挿入したり、映像作品では、キャラクターの独白とアクションシーン両方を視聴者が感じる時間経過の速度で、描くのは難しいと思う。

しかしながら、舞台「弱虫ペダル」では、レース中のキャラクターの心情の吐露や独白を見事に描写している。

例えば、一対一のバトルの最中、1人がペダルを回している最中、1人が完全に立ち止まって独白する、またはバトルを続けるキャラクターを追いかける伴走車に乗るキャラクターからの客観的な評価が、バトルを阻害せず明確に響いてくる。

演出上、舞台上のキャラクターの経過時間の速度を任意に変更しているのだ。

しかも、それは観客に違和感を全く与えていない。

つまり、キャラクターそれぞれが感じている経過時間の速度と観客の感じている経過時間の速度を自在にコントロールしているのだ。

言うならば、それぞれのキャラクターの思考の速度で物語が進んで行くのだ。

一瞬なのか、永遠なのか、それを感じる思考の速度の自在な変化。

これはおそらく、小説、漫画、そして舞台にのみ許される魔法なのではないか、と思った。

これが舞台「弱虫ペダル」で感じられたもうひとつの魔法の力であった。

そしてもうひとつ、映画「マトリックス」でおなじみのバレットタイム。これも凄かった。
これを実現する舞台上のギミックも、構造は簡単だが非常に効果的だった。

ロードレーサー同士のバトルシーンで、肩がぶつかり合うカットの演出は素晴らしい。
あたりまえ、と言ったらあたりまえと言わざるを得ないのだが、効果音のタイミングも決まっていた。

余談だけど、舞台でいつも気になっているのは、効果音(SE)は、リアルタイムに入れているのか、それとも、音楽や効果音が入った音源に合わせて俳優が演技しているのかな。

キャストはなんと言っても主人公・小野田坂道を文字通り熱演した村井良大が素晴らしい。

俳優としても素晴らしいし、コメディアンとしても素晴らしいと思った。

オタクを演じるハジケっぷりも凄かった。

カーテンコールのハジケっぷりは最早異常な盛り上がりだった。これは他のキャストも全てがハジケていたけどね。

他のキャストもそれぞれ素晴らしかったし、複数の役を演じていたり、見せ場もそれぞれあって楽しかった。

いやぁ、本当に良い舞台でした。

舞台「弱虫ペダル」は、2月6日で千秋楽を迎えるため、今からチケットを取るのはもしかしたら困難なのかも知れないが、DVD化も決定しているようなので、関心があるかたはそちらでおさえていただきたいと思う。

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