読書

2016年9月19日

「教室の灯りは謎の色」をめぐる冒険

「教室の灯りは謎の色」 水生大海(みずきひろみ)の「教室の灯りは謎の色」を読了した。

「教室の灯りは謎の色」
著者:水生大海
装画:たえ
装丁:大原由衣
出版:角川書店 2016年8月30日初版発行

あらすじ:塾には通いながらも不登校を続ける高校生の遥。ある日、レンタルショップで事件が起き、遥は犯人として疑われる。窮地を救ってくれたたのは、塾講師・黒澤だった。黒澤に導かれ、遥の心は解きほぐされていく――。

子どもの頃、探偵が出てきて殺人事件の謎を解くタイプのミステリーが大好きだった。

しかしいつの頃からか、人の死をおもちゃにするタイプのミステリーが苦手になってしまう。

その契機となったのは、スティーヴン・キングの「骨の袋」であり、アントニー・バークリーのkidle版「毒入りチョコレート事件」であった

「骨の袋」でキングは、小説の登場人物、たかが「骨の袋」に過ぎないフィクションの登場人物の死に作者は責任を負うべきなのかどうか、物語を盛り上げるために、読者が愛した登場人物を殺す事の是否は、と言う命題を読者に提示している。

また、「毒入りチョコレート事件」は、もちろん子どもの頃は楽しく読んだ作品なのだが、kindle版を購入して再読したところ、なんだかそこはかとない怒りを感じてしまった。

同作「毒入りチョコレート事件」は、毒が入ったチョコレートを食べて死んだ事件の謎解きが複数提示されると言う《多重解決》形式のミステリーの代表的な作品である。

その影響もあり、当時のわたしは、人が死なないミステリー、所謂《日常の謎》形式の作品をかため読みしてしまった。

そんな中、水生大海の「教室の灯りは謎の色」を読むことになる。

その原因は、水生大海の次のツイートである。
何を言っているのかわからないと思うけど。

さて、本作「教室の灯りは謎の色」は、現代の学習塾を舞台にした《日常の謎》形式のミステリーで、《連作短篇》の形式をとっている。

主人公の並木遥は謎解きが好きな女子高校生で、探偵役を振られている黒澤先生は学習塾の講師である。

物語の構造としては、並木遥も黒澤先生も探偵役であり、一時期流行った、無能な探偵と聡明な助手の形式をとっている。

興味深いのは、本作で遡上にのせる題材は、《いじめ》《ストーカー》《不倫》《痴漢》と、非常に現代的な点。女子高校生にとって非常にリアルな題材なんだと思う。なんだか森絵都の「カラフル」を思い出した。

また、興味深いのは著者である水生大海の女性としての視点である。

例えば、次のような描写がある。

 リュックからチラシを取り出す。ふたつ折りにしてぽいと突っ込んでいたから端がよれていた。たしかに書いてある。「品川まで歩いてみよう」って。そりゃ女子は敬遠するよね、八キロ……、約二時間だもん。今日は梅雨の中休みとあって、結構晴れているし。 (p50)

黒澤先生推しの並木遥は、黒澤先生が参加する、と言う理由だけで、イベントの内容を調べずに、新橋品川間の八キロ区間を歩くイベントに参加する。これはそれを知った瞬間の並木遥の心の声である。

興味深いのは、《今日は梅雨の中休みとあって、結構晴れているし。》の部分、並木遥は、八キロ歩くイベントにとって《晴れ》を否定的にとらえているのだ。

せっかくの歩くイベントなんだから、一般的には《晴れ》を肯定的にとらえるところだが、並木遥は否定的にとららえている。

これはおそらく女子高校生である並木遥は《日焼け》を嫌がっているのだ、と推測する事ができるが、その筆者の観点が新鮮に思えた。

本作「教室の灯りは謎の色」には、このような水生大海の(わたしにとって)新鮮な視線が随所に表れている。

また、興味深いのは、並木遥をはじめとした高校生や大学生世代のキャラクターが、われわれ大人から見ると決して魅力的ではなく、時には反抗的で、コミュニケーションを拒絶し、大人をある意味敵視しているキャラクターとして設定されているような印象を受ける。

このあたりも興味深く、われわれにとってはとっつきにくいキャラクターであっても、若年層にとってはリアルに感じられるのではないか、と感じた。

また、《日常の謎》形式のミステリーである以上、謎解きの伏線が見事である。

謎解きは急転直下のきらいは否定できないが、誌面の都合だと好意的に解釈する。

舌を巻くのはサブタイトル「第一話 水中トーチライト」の意味である。

第二話以降はサブタイトルと内容は一致しているのだが、第一話については一致しておらず、もやもやする。わたしはそのもやもやを抱えたまま、本書を読み進めることになった。はたして・・・・。

本作「教室の灯りは謎の色」は、《日常の謎》形式のミステリー作品として、一話一話が若干短く、謎解き部分の急転直下加減は否めないが、非常に面白く、また現代社会における女子高校生が直面するであろう様々な社会問題にも切り込んでいる興味深い連作短篇集である。関心がある方は是非。


余談だが、著者の水生大海氏とは一度ご一緒した事があるのだが、その際に、わたしがある作品の解釈を披露した際、その解釈の背景や根拠について随分と突っ込まれた記憶がある。

だからどう、と言う話ではないのだが、やっぱりミステリー作家ってちょっとこわい、www と思いました。

だって、例によって、わたしの妄想気味の解釈について、その根拠を求められたんだもん。

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2012年12月24日

Siriの音声入力を使った読書メモ術

わたしの個人的な印象だが、書評家の皆さんとか、真面目に読書をしている皆さんは読書の際に、《ふせん》を使うことが多いと思う。

例えば、登場人物が初めて登場したページ、印象的な台詞や描写が登場するページ、後で調べなければならないような描写が登場するページ、伏線だと思われるページ、そんなページに《ふせん》を貼っていくのだ。

また、半透明な《ふせん》を使用すると、ページだけではなく、気になった行に《ふせん》を貼ることができるようになる。

半透明な《ふせん》を使用する、これは感覚的に、フィルムのカメラからデジタルカメラになったようなものだと思う。

ふせんが付いた本しかし、そんなことをしていると、本はこんな状況になってしまう。

この写真は、米光一成氏のコラム【付箋で読書を立体的にする 】からの引用だが、このコラムは読書家にとって非常に興味深いと思う。一読をオススメする。

ところでわたしは、後でその本について何かを書く必要があったり、読書会の課題本を読むような場合、《ふせん》ではなく《メモ》を取るようにしている。

言ってみれば、この《メモ》は、自分専用の《索引》というか《注釈》を作るようなもので、《メモ》にページ数を記録することにより、レファレンスが非常に容易になる。

個人的にだが、《メモ》は《ふせん》より優れた方法だと思っている。
因みにこれは、子どもの頃からのわたしの癖みたいなもの。

読書メモ

これは、宮部みゆきの「龍は眠る」を読んだときの《メモ》の一部。

「龍は眠る」は、スティーヴン・キングからの影響を中心に読んだので、あまり《メモ》を取っていないのだが、一般的に文庫本一冊でB5の《メモ》が3〜5枚できる勘定である。

この《メモ》を読書会で使うのならば、手書きで構わないのだが、テキスト化する必要がある場合、必然的に《メモ》をテキストでPC等に入力し直す必要がある。

ところで先日、銀座で待合せの時間が空いたので、Apple Store銀座のワークショップに参加して時間をつぶすことにした。

余談だが、銀座で時間が空いたような場合、わたしは結構な頻度でApple Store銀座のワークショップに参加したりしている。

たまたま、そのワークショップに、Siri活用のコーナーがあったのだが、これが非常に興味深かった。

もしかして、Siriの音声入力って結構使えるんじゃないのか、と。

で、やってみたのは、読書の際の《メモ》をSiriの音声入力に置き換えること。

Siriによる読書メモ

これはウィリアム・ピーター・ブラッティの「ディミター」のSiriによる《メモ》の一部。

こんな訳で、手書き《メモ》をSiriの音声入力を利用した《メモ》に置き換えることにより、次のような効果が見込める。

  1. 寝転んだような状態でも自由自在に読書《メモ》を取ることができる。
  2. 従来の手書き《メモ》をテキスト化するプロセスを省略することができる。
  3. 《メモ》を取るための読書の中断時間を短縮することができる。
  4. なんだか楽しい。

そんな訳で、Siriの音声入力による読書《メモ》を少しやってみようと思う。

また、音声をテキスト化するいろいろな場面でSiriの音声入力は使えるんじゃないかな、と。

例えば、ICレコーダー等で録音したような音声を、一文ずつテキスト化するような場合、つまり文字起こしとかの場面にも。

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