徒然雑草

2013年3月11日

巨人の扉

わたしの母親は北海道函館市の出身で時代がそうでっあったように兄弟姉妹が多かった。

わたしの母親のほとんどの兄弟姉妹は函館市周辺に住んでいたのだが、その中の一人、末娘だったわたしの母親の姉が岩手県野田村に住んでいた関係で、子どもの頃はよく岩手県に遊びに行っていた。

わたしの記憶では、海水浴と言えば、北海道の石狩の海ではなく野田村の三陸海岸を思い出す。

きっとわたしはそれほど多くの夏を野田村で過ごしていたのであろう。

そんな伯母の家は、幹線道路から森の中に侵食したような大きな家で、ガソリンスタンドやプロパンガスの販売、タクシー会社や雑貨屋なんかを営んでおり、その雑貨屋ではプラモデルが沢山店頭に並んでいたのを思い出す。

トイレは家の外で、大きな虫、信じられないくらい大きな虫やなんかが沢山いたので、怖い思いをたくさんした記憶がある。

お盆になると、茄子の馬やなんかを作ったのを覚えている。

そんな伯母の家は、森の中にあると言っても海に近く、子どもの足でも、適当にほっつき歩いているだけですぐ海に突き当たり、海水浴はもちろん、夏休みになると子どもや観光客を集めての地引き網やなんかが行われていた記憶がある。

また川も近かったので、川っ縁を海に向かって歩いたり、田舎町だったこともあり、いろいろな冒険をした記憶がある。

そんな野田村周辺の海岸は非常に風光明媚で、ながい砂浜や岩場、海の中にぽつんとある奇岩や、港や防波堤など、いろいろな風景が楽しめた。

夜になったらなったで砂浜で花火をしたり、街中に住んでいたわたしにとっては、結構な経験をさせてもらったのではないか、と思っている。

伯母の家から海に向かうと、砂浜の手前に大きな、子どもの足では登るのも大変な防波堤があり、その防波堤の間には、大きな赤い扉がついていた。

わたしはその扉は巨人の扉、海からやってくる巨人が入ってくるための扉だと思っていた。

ある夜、その巨人の扉の話を伯母の家族にしたところ、あの扉は津波を食い止めるための扉で、子どもは津波がきたら、大急ぎで高いところまで走って逃げるんだよ、と言われた。

その話は非常に恐ろしく、大学生くらいのお兄ちゃんたちがわたしたち子どもを恐がらせはじめ、その話を聞きながらわたしは怖くて泣いてしまったのを覚えている。

大人になって考えてみると、野田村では子どもに対して津波は怖いものなんだよ、と言う教育が行き届いているのであろう、と思った。

誰もが子どもの頃から同じ悪夢を何度なんども見ていると思うが、それ以来、わたしは現在まで津波に襲われる悪夢を何度もなんども見るようになった。

2011年3月11日。

海と川に近かったわたしの伯母の家は津波に蹂躙され完全な更地になってしまった。
そしていまだに伯母の一家は見つかっていない。

わたしの母親はいろいろな避難場所に連絡をとったり、知り合いを探したりしていたが、そのうち伯母を探すことをもやめてしまった。伯母を探すことをやめて、わたしたちにあるのは楽しい思い出話だけである。

いなくなることと、死ぬことは全く違う事だと思った。

聞くところによると、巨人の扉は千切れてしまっていたようである。

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