「風立ちぬ」をめぐる冒険
いろいろと思うところはあるのだが、購入したパンフレットの裏表紙を見て腑に落ちる。
と言うのも「風立ちぬ」の英タイトルは「The Wind Rises」のようなのだ。
つまりここで「The Wind Rises」のタイトルが表現しているのは、《風はすでに起きている、もう誰にも止められない》と言う事である。
因みに、堀辰雄の「風立ちぬ」の英タイトルは「The Wind Has Risen」。
宮崎駿は、時間や、通り過ぎるもののメタファーとして《風》を使っている堀辰雄の「風立ちぬ」とは、タイトルは同様でも、全く異なった《風》を描いているのだ。
宮崎駿が描く《風》は《時代のうねり》なのである。
もちろん、本作「風立ちぬ」で描かれている時代背景は、ご承知の通り、日本が戦争へと向かう時代。
主人公の堀越二郎は《美しいもの》以外には何の関心も持たないキャラクターとして描かれている。
その時代の流れに無関心なキャラクター設定はどう考えても、われわれ現代日本人のメタファーだと言える。
物語の中盤、軽井沢のホテルに登場するドイツ人カストルプは「ドイツは破裂する、この国も破裂する」と嘯く。
この、クレソンを狂ったように食べるドイツ人は当然ながら悪魔のメタファーに他ならない。
しかし、本作「風立ちぬ」で宮崎駿が描こうとしたのは、戦争へ突き進む日本とそれに無関心な堀越二郎を描きながら、2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故とそれの影響、そしてその影響に無関心な日本人を描いている。
そう、宮崎駿が言いたいのは、《風はすでに起きている、もう誰にも止められない》と言う事なのだ。
「風立ちぬ」
監督・原作・脚本:宮崎駿
製作:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ
音楽:久石譲
主題歌:荒井由美 「ひこうき雲」
声の出演: 庵野秀明(堀越二郎)、瀧本美織(里見菜穂子)、西島秀俊(本庄季郎)、西村雅彦(黒川)、スティーブン・アルパート(カストルプ)、風間杜夫(里見)、竹下景子(二郎の母)、志田未来(堀越加代)、國村隼(服部)、大竹しのぶ(黒川夫人)、野村萬斎(カプローニ)
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